好発進の大河『麒麟がくる』が面白い理由は“オマージュ”にあり | FRIDAYデジタル

好発進の大河『麒麟がくる』が面白い理由は“オマージュ”にあり

指南役のエンタメのミカタ 第26回

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主役の明智光秀を演じる長谷川博己。写真は、2019年10月にNTTドコモの新サービス発表会での長谷川(写真:時事)
主役の明智光秀を演じる長谷川博己。写真は、2019年10月にNTTドコモの新サービス発表会での長谷川(写真:時事)

「時は天文十六年。冬、間近である」

――大河ドラマ『麒麟がくる』の1話のラストの語り(ナレーション)である。読むは、歌舞伎俳優の市川海老蔵。今年5月には、十三代目市川團十郎を襲名する。

これだ。これが大河の語りだ。「である」で終わる司馬遼太郎の“司馬節”を思わせる、簡潔にして情感あふれる名調子。懐かしい。これぞ、僕が久しく待ち焦がれた王道の大河ドラマの匂いだ。これで今年の楽しみが一つ増えた。こんな気持ちになるのは、2007年の『風林火山』以来だろうか。

まず、タイトルがいい。『麒麟がくる』――。

宮本輝の『青が散る』とか司馬遼太郎の『竜馬がゆく』とか、とかく現在進行形の動詞で終わるタイトルには躍動感がある。中には、前枠の番組とセットにして「ダーウィンが来た!……と思ったら、麒麟がくるって、意味わかんないよ!」と笑いに走る人もいるが、ネタにされやすいタイトルというのは、大体いいタイトルなんです。

その意味するところは、同ドラマの作・脚本(メインライター)の池端俊策サン曰く「麒麟は平和な世に現れるという伝説の生き物。果たして争いのない世は来るのか。そんな問いかけを込めたタイトル」――なんだそう。要は、誰が戦乱を収めるのか、と。後世の僕らはその答えを知っているけど、果たして主人公の明智光秀の目には、誰が麒麟に映っていたか。あるいは自分が――その辺りが物語の核になると思う。

念のために調べてみたが、主演の長谷川博己サンはサッポロビールの「サッポロチューハイ99.99」のCMに出演中で、ライバル会社とは無縁である。NHK、セーフ(何が?)。

それにしても『麒麟がくる』――早くも傑作の匂いがする。

1話のインディ・ジョーンズばりの冒険活劇も痛快だったし(吉田鋼太郎サン演ずる松永久秀が最高!)、2話で斎藤道三(本木雅弘)が娘婿の土岐頼純(矢野聖人)を毒殺する密室劇にもゾクゾクさせられた。ちなみに、あのシーン、クランクイン初日(昨年6月3日)に撮られたものだとか。であれば、前半部分の帰蝶(川口春奈)も交えた3ショットは“再撮”なので、あの繋がって見える2つのシーンは、実は半年ほどタイムラグがある。いやはや、本木サンも矢野サンも、お疲れさまでした。

NHKの番組HPより
NHKの番組HPより

『麒麟がくる』が面白いのには理由がある。

俗に、エンタテインメントにおけるクリエイティブとは、優れた旧作をオマージュして、これを現代風にアップデートする作業とされる。誤解されがちだが、ゼロから1を生み出すのがエンタメ作りの王道じゃない。1を、2や3や5にアップデートするのが正しいエンタメの作り方。傑作とはそのようにして生まれる。

それで言えば、『麒麟がくる』は、半世紀以上に渡る大河ドラマへのオマージュが端々に見られる。例えば、メインテーマと劇伴を担当するハリウッドの巨匠ジョン・グラムは、それらの作曲にあたって過去58作の大河の音楽を全て聴き込んだという。その上で、楽曲に応じて最適な演奏者を世界各地のミュージシャンから選ぶ“ハリウッドスタイル”を採用するなど、最新のアップデートも怠らない。

そして、なんと言っても、そのプロットだ。明らかに、あの作品をオマージュしている。そう――大河11作目、1973年の『国盗り物語』である。ご存知、司馬遼太郎の原作であり、大河フリークの間で今なお大河最高傑作の呼び声高い、名作中の名作。斎藤道三(平幹二朗)と織田信長(高橋英樹)を軸にしつつ、そこに明智光秀(近藤正臣)を加えた、主要3人の物語だった。それは、明智光秀(長谷川)を軸にしつつ、そこに斎藤道三(本木)と織田信長(染谷将太)を加えた『麒麟がくる』と、ほぼ相似形にあると言っていい。

そのオマージュぶりは、オープニングから一目瞭然だ。『麒麟がくる』のタイトルバックは、炎を背景に騎馬が駆けるシルエットだが、これは『国盗り物語』のタイトルバックとほぼ同じ。敢えて寄せることで、自らオマージュ元を明かした確信犯だろう。

そして、冒頭にも挙げた「語り」もそう。いわゆる“司馬節”に寄せることで、これも脚本の池端サンなりの司馬遼太郎へのオマージュを思わせる。

この先、『麒麟がくる』の前には、「信長と濃姫(帰蝶)の婚儀」から「道三の討ち死に」、「桶狭間の戦い」などのビッグイベントが待ち受ける。かつて『国盗り物語』が辿った道であり、かの作品へのオマージュを続ける限り、盛り上がりに欠くことはない。安泰だ。加えて、今作はそこに新たな“光秀像”がアップデートされる。そう、優れた旧作をオマージュしつつ、そこに現代風のアップデートも怠らない。これぞ、エンタテインメントの正しい作法。傑作の匂いがするのは、そういう理由である。

そう言えば、かつて『国盗り物語』で一躍脚光を浴びた女優がいた。濃姫(帰蝶)役の松坂慶子サンがそう。当時二十歳。なんでも、当初は別の大物女優が濃姫役に内定していたが、とある事情から降板し、代役で新人の彼女が抜擢されたとか。

偶然とは言え、川口春奈サンとどこか重なる。これもある意味、オマージュか。

 

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  • 草場滋

    (くさばしげる)メディアプランナー。「指南役」代表。1998年「フジテレビ・バラエティプランナー大賞」グランプリ。現在、日経エンタテインメント!に「テレビ証券」、日経MJに「CM裏表」ほか連載多数。ホイチョイ・プロダクションズのブレーンも務める。代表作に、テレビ番組「逃走中」(フジテレビ)の企画原案、映画「バブルへGO!」(馬場康夫監督)の原作協力など。主な著書に、『テレビは余命7年』(大和書房)、『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社)、『情報は集めるな!」(マガジンハウス)、『「考え方」の考え方』(大和書房)、『キミがこの本を買ったワケ』(扶桑社)、『タイムウォーカー~時間旅行代理店』(ダイヤモンド社)、『幻の1940年計画』(アスペクト)、『買う5秒前』(宣伝会議)、『絶滅企業に学べ!』(大和書房)などがある

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