勝者は誰?「ナイキ厚底シューズ論争」五輪に向け加熱する謀略戦 | FRIDAYデジタル

勝者は誰?「ナイキ厚底シューズ論争」五輪に向け加熱する謀略戦

『ヴェイパーフライ』を履いて新記録続出だが、世界陸連は使用禁止にするかも…

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瞬く間に広まった厚底シューズ。高反発材の厚底にはカーボンファイバーのプレートが埋め込まれ、その反発力で推進力が生まれる
瞬く間に広まった厚底シューズ。高反発材の厚底にはカーボンファイバーのプレートが埋め込まれ、その反発力で推進力が生まれる

「’90年代以降、陸上競技の世界は急激に商業化しています。メジャー大会に出場するトップ選手を統括する国際陸連(現・世界陸連)は、ロシアのドーピング問題で揺れ、’16年にはイメージ低下を恐れたアディダスが35億円分もの協賛契約を打ち切るという事件が起こりました。また昨秋には、〝世界最強の中長距離チーム〟『ナイキ・オレゴン・プロジェクト』が、ヘッドコーチのドーピング関与により解散に追い込まれている。世界の陸上界では利害関係が複雑に絡み合う謀略戦が繰り広げられているのです」(陸上競技に詳しいスポーツ・ジャーナリスト)

1月15日、複数の英国メディアが「ナイキの厚底シューズ(ヴェイパーフライ=VF)が世界陸連によって規制される見通し」と報じ、日本でも連日テレビで報道される騒ぎとなっている。

裁判に訴えるか

「今年はオリンピックイヤーで、選手たちは直接的な〝成果〟を求められます。ナイキと契約していない選手たちのなかには、VFのソールを使ってアッパー部分だけ自分の契約メーカーのものを縫い付けたシューズを履いているランナーもいるようです。真偽のほどは定かではありませんが、そんな情報がリークされて、選手やメーカーが疑心暗鬼に陥っているのは間違いありません」(陸上専門誌記者)

五輪選手などをサポートする特殊インソールを開発している理学療法士・冨永琢也氏が、VFのすごさを解説する。

「ナイキの厚底シューズの第1世代は高反発素材でソールを分厚くしただけのシューズでした。ふわふわと軟らかく沈み込んで蹴り出す方向が定まらず、荷重を押し戻す反力を得られないため重心運動が崩れ、関節に負担が生じました。『地面が遠くて走っている気がしない』というコメントもあり、この段階では各社とも脅威を感じることはありませんでした。

状況が一変したのは高反発材の上に板バネ式のカーボンファイバープレートを敷くというアイデアをナイキが投入してきた時です。点でなく面で高反発材に荷重をかけ、素材の反力をフルに引き出すことができるようになり、世界中の選手が次々と新記録を出した。ナイキはその技術をきっちりと特許で押さえ込み、他社は完全に出遅れた。iPhoneが登場した時のアップルと他社の関係と似ています」

『ナイキシューズ革命〝厚底〟が世界にかけた魔法』の著者・酒井政人氏は言う。

「ナイキは日本のメーカーと違い、特定の選手のために〝特注品〟を作ることはしません。彼らは、シューズというのは工業製品であり、誰もが履いて速く走れるものにしなければならないと考えているからです。実際、マラソン2時間切りを果たした時にキプチョゲ選手だけが履いていた最新型の第4世代モデルも、一般向けに改良されて市販されると予想します。東京五輪で履く日本選手もいるかもしれません。もしVFが規制されたら、ナイキは世界陸連から損害を受けたとして、スポーツ仲裁裁判所に訴えを起こす可能性もあると思います」

ちなみに、1500mの金メダリストでもある世界陸連のセバスチャン・コー会長は、現役時代ずっとナイキを履いていた選手で、38年間も同社顧問をつとめ、年間1850万円を受け取っていたという。

スポーツ・ジャーナリストの生島淳氏はこう語る。

「制限をかけられようがかけられまいが、厚底シューズ論争の勝者はナイキになるのではないでしょうか。今回のニュースでナイキの厚底シューズは一般人にも注目され、爆発的に売れ始めたそうです」

ナイキの技術力は他社よりも数年先を行っているというが、他メーカーも次々と厚底シューズのプロトタイプを送り出している。東京五輪に向けて、水面下の戦いは続く――。

2019年10月、ドーハ世界陸上でのセバスチャン・コー世界陸連会長(右)。協賛企業名には日本企業が並ぶ
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昨年9月のMGCで。大迫傑(中央)、設楽悠太(左)をはじめ、出場選手の多くがヴェイパーフライを履いた
昨年9月のMGCで。大迫傑(中央)、設楽悠太(左)をはじめ、出場選手の多くがヴェイパーフライを履いた

『FRIDAY』2020年2月7日号より

  • 写真時事通信/アフロ

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