ただの風邪? それとも…。こんな時も「葛根湯」その威力恐るべし

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あらゆる病気、初期症状に「葛根湯」を処方した江戸時代のヤブの代名詞“葛根湯医者”。実は原因不明の感染症も治せる名医だった!?

「風邪のひき始めに」といううたい文句でドラッグストアにズラリと並ぶ葛根湯。誰でも一度は飲んだことがあるのではないだろうか。とてもポピュラーなこの風邪薬、実は上方落語の『ちしゃ医者』という咄のなかに、ヤブ医者の処方として登場している。

  • 「お次の方、どうされました?」
  • 「先生、私、頭が痛いんです」
  • 「いけませんなァ。葛根湯をお飲みなさい。お次の方、どうされました?」
  • 「先生、私、お腹が痛いんです」
  • 「いけませんなァ。葛根湯をお飲みなさい。お次の方、どうされました?」
  • 「いえ、私はあの男の付き添いで」
  • 「いけませんなァ。ご退屈でしょう? 葛根湯をお飲みなさい」

とまァ、なんでもかんでも葛根湯。しまいにはおやつがわりに葛根湯。江戸時代にはこんな医者のことを「葛根湯医者」と呼んでいたという。だがしかし、ここでふと浮かぶのは「葛根湯って、そんなに何にでも効いちゃうの?」という素朴な疑問だ。落語のネタにまで登場する葛根湯とは一体どんな妙薬なのか。芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏先生に話を聞いた。

同じ病気でも人が違えば、治療法が異なるのが漢方医療。2003年に流行し新型肺炎と呼ばれたSARSコロナウイルスの治療でも活用されたという(写真:ロイター/アフロ)

「葛根湯」は、7種の薬草効果をギュッとまとめた究極の総合感冒薬

葛根湯は元々中国で作られた漢方薬。後漢の時代(25〜220年)に編纂された急性疾患に対する治療法の古典『傷寒論』に、既に薬の使い方が書かれている。

「日本では飛鳥時代に仏教が伝来し、仏教を広めるためのツールとして漢方薬が使われました。『治してあげるよ。アンド仏教もね』といったキャンペーンが行われたのです。今で言えば最先端治療のような感覚で、それが当時の日本の医学にうまくミクスチュアされて広まっていきました。葛根湯もそのひとつですが、漢方薬は貴重品だったので、位の高い人やお金持ちしか使っていなかったと思われます」(今津嘉宏先生/以下同)

時を経て、江戸時代には庶民にも手が出るまでに浸透していった妙薬、葛根湯。そんなに万能なの?

「葛根湯は葛根、麻黄、桂皮、芍薬、甘草、大棗、生姜という7つの薬草でできています。その効能、効果は、頭痛、発熱、炎症性疾患などから肩こり、じんましんまで、たくさんの症状に効く漢方薬です(表組参照)。 

加えて『傷寒論』には“下痢をしたときに使いなさい”とも書かれています。今で言うノロウイルスのような、熱性疾患の初期症状ですね。江戸時代の人がかかりやすかったのは感染症ですから、まず葛根湯を出し、治らなければ次の薬を探すというのは妥当です。落語の葛根湯医者は、もしかしたらめちゃめちゃ名医かもしれないです(笑)」

葛根湯の構成生薬は変わらないが、効能、効果は各社、若干の違いがあるようだ

使いこなすのは至難の業! 奥深い漢方における風邪薬の世界

「治らなければ次の薬」と簡単に言うが、漢方では風邪ひとつをとってもざっと13〜14種類ものスタメン的な薬がある。さらにはくしゃみ、咳、痰、咽頭と、とんでもなく細分化されてそれぞれに待機メンバーがいるのだ。(下記表組参照)

「これだけバリエーションがあれば、ほとんどの風邪はなんとかなります。一般のお医者さんでは風邪の症状に応じて解熱剤、鎮痛剤、抗炎症剤というように3〜4種類の薬を出しますが、漢方薬は混合薬なので、1種類で済むわけです」 

よくCMが流れる市販の風邪薬に「鼻から来る人は黄色」などと分けているものがあるが、あれはまさに漢方の発想で作られたもの。漢方薬に至っては鼻から、喉からどころの騒ぎではなく、その患者のこと細かな症状に既往症や生活習慣も鑑みて、オーダーメイドに近い処方ができるのだ。名医ならば!

■風邪をひいた時に使われる主な漢方薬

 

■症状ごとに効果があるとされる漢方薬を分類すると…

風邪に関する漢方薬だけでも実に多彩、かつ細分化されていることがわかる(表作成:芝大門いまづクリニック)

漢方薬を駆使すれば、新型ウイルスも怖くない!?

葛根湯は総合感冒薬だということはわかった。含まれる7つの構成生薬を見ると、葛は抗炎症作用、芍薬は筋肉痛の緩和、甘草は慢性肝炎や蕁麻しんと、それぞれの効能は別もの。ということは、バラで飲んでも効くのだろうか。

「漢方薬全般に言えることですが、薬草の量を増やすと確かに効果は上がるけれど毒性が出たり、更なる効果を期待して1種類増やすと結合して沈殿したり、逆にひとつ抜いても効果が変わってしまいます。

なぜこれを入れなければいけないのか、なぜこの割合なのかは未だにわかりません。西暦100年〜200年代に考案されて、経験に基づき伝わってきたものなので、全てが昔の処方と同じ割合になっています」 

なんと、こんなに効くのに未だ謎な部分が多いとは! でも臨床では結果が出ているから脈々と続いているんですよね?

「誤解を招きそうな言い方ですが、人体実験を何百年も繰り返した結果、辿り着いているということです。しかもそれは黄色人種に限っての実験です」

ということは、欧米人には効かない! ということもあり?

「めちゃくちゃ効く薬もあれば、効かない薬もあります。なぜかというと、漢方薬というのは成分の分子量が非常に大きいものと小さいものが組み合わさっていて、低分子のものは口内の粘膜からも吸収されるため即効性があり、1520分で効いてきます。でも高分子のものは大腸まで到達して分解されないと吸収されません。大腸で分解するのは腸内細菌です。腸内細菌は国や人種によって違うので、薬の効き方も変わってきます」

即効性のあるものとゆっくり効くものを組み合わせてあるというのも驚きだ。漢方薬といえばじっくり時間をかけて効いてくると思いこんでいたが、まさかの時系列で仕事をしてくれていたとは!

ちなみに、この大腸での漢方薬の働きが解明されたのは2002年のこと。この研究により、漢方薬に含まれる有効成分は体内で植物繊維に吸収されてしまうことがわかった。つまり、消化器官内に食物がある状態では効果が減弱してしまうので、漢方薬を飲むタイミングは胃と小腸に食物残渣がない状況(イメージとしては空腹時)がいいという。漢方薬の服用方法が「食前あるいは食間」といわれるのはそのため。これも、1000年以上前の書物に書かれ、経験学的に伝わってきたことなのだとか。

取材を進めるうちに、最近、巷を震撼させている”ワクチンがない新型ウイルス”にも、漢方薬なら対抗できる気がしてきた!

「昔はウイルスの種類なんてわからずに、症状だけで治療していたわけです。麻しん風疹のようにブツブツができるのか、高熱が出るインフルエンザ対応のものなのか。大まかにはこの2通りに分かれてくるので、アドレナリン(麻黄)の作用が使える素地のものかどうかを考慮します。あとは24時間という短い単位で症状が変わっていくので、そのあたりを見極めて薬をこまめに変えていけば、新型ウイルスでも、多分”治療”はできると思います」

中国が起源だが、日本人と日本の風土によって独自に進化も遂げた漢方医学。いつもお世話になっている漢方薬の顆粒エキス剤は日本で誕生した(写真:アフロ)

予防にも使える! 「あれっ!?」と思ったら、お湯で溶いた「葛根湯」を飲もう

底知れない威力を秘めた漢方薬だが、実は日本の大学で教えるようになったのは、なんと2000年に入ってから。今津先生のように早くから漢方に着目していた人は、完全に異端児扱いだったという。

今では西洋薬だけではなく、漢方薬を併せて処方する一般の町医者も増えてきた。研究が進めば、西洋医学では治せなかったものを治せる可能性も大きくなる!

ただし、気をつけたいのは漢方薬にも副作用はあるということ。

「漢方薬のなかには大体70%の割合で甘草が入っています。だからいちばん注意しなければいけないのは甘草に伴う副作用です。葛根湯も含め、甘草によって起こる低カリウム血症で足が浮腫む、血圧が上がるというようなことは注意しなければいけません。通常健康な人ならそれほど気にしなくてもいいけれど、持病がある人はお医者さんに服用しても大丈夫かどうかを確認してください」

葛根湯にも含まれている甘草はグリチルリチン酸なので禁忌があるし、アドレナリン(エフェドリン)が入っている麻黄や丁字などはドーピング検査でも引っかかる。自然のものだから大丈夫、などと素人が考えるのは危険と心得よう。

最後に葛根湯の飲み方だが、「なんだか体調がよくないな」と感じる風邪のひき始めに飲むのがもっとも力を発揮するとのこと。

「予防薬として飲むのもおすすめです。分子量の小さいものの吸収を高めるためにはお湯で溶くのが効果的。温度が高い方が沁み込みやすくなります」

この冬は「かかったかな?」よりも早く「かかりそう!」の時点でソク葛根湯。これを守ればあなたも私も風邪知らず!

今津嘉宏(いまづ・よしひろ) 慶應義塾大学病院、霞ヶ浦医療センター(旧国立霞ヶ浦病院)、恩賜財団東京都済生会中央病院などで医療に従事。2011年の震災を機に、「患者のそばにいられる町医者」を目指して芝大門いまづクリニックを開業。西洋医学と漢方医学を区別することなく、総合的な観点から診療にあたっている。著書は『ねころんで読める漢方薬:やさしい漢方入門書 ナースと研修医が知っておきたい漢方のハナシ』(メディカ出版)、『血糖値が下がる!血管が若返る!高野豆腐レシピ』(宝島社)など多数。

  • 取材・文井出千昌

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