残業100時間以上 真面目な居酒屋店長はこうやって死んで行った | FRIDAYデジタル

残業100時間以上 真面目な居酒屋店長はこうやって死んで行った

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店長が過労死した「わらわら九大学研都市駅店」

「やっと過労死認定され、泣いて喜んで仏壇に手を合わせました。これで、少しだけ報われる、良かったな、と思いました。ただ、モンテローザとの話し合いは続いており、先方からの謝罪はいまだにありません。家に来て線香の一本でも上げてくれれば、と思うのですが。これでは息子も浮かばれません……」

2017年6月、福岡県福岡市の居酒屋チェーン店「わらわら九大学研都市駅店」のK店長(53・当時)が、1人で開店準備中に突如倒れ、致死性不整脈でそのまま帰らぬ人となった。

遺族は昨年12月に過労死だと主張。今年8月7日付けで、福岡中央労働基準監督署は過労死ラインとされる月80時間の時間外労働を認め、申請から9ヵ月を経てようやく労災認定がなされた。

冒頭の重たい言葉は、過労死したK店長の遺族が絞り出すように放ったものだ。遺族側と店長が勤めていた、株式会社モンテローザの話し合いは、今なお続けられているが、両者の意見には多くの食い違いが見られる。取材により見えてきたのは、同社のずさんすぎる勤務管理と、地獄の労働環境だった。

元店長が明かす驚愕の勤務体系

「夕方3時から深夜3時まで、丸々12時時間勤務。深夜3時に店を閉めるが、タクシー代は出ないので、6時の始発まで帰れない。家に帰るのは8時前。次の日も仕事なので、昼の12時には起きないといけない。こんな生活は地獄です」

これは故人が、亡くなる前に友人に絶望的な気持ちを吐露したメールだ。故人は、亡くなる2、3日前から「心臓が痛い」と周囲に漏らしており、死亡当日にも「胸が痛いので少し休ませてほしい」と連絡を入れている。結局、その後、客席で仰向けになっているところを、スタッフに発見された。

なぜ、故人は身体に異常をきたし友人に「地獄の労働環境」と訴えながらも、働かざるをえなかったのか。モンテローザが経営する居酒屋チェーンの元店長が明かす。

「私の知る限り、これまで九州エリアで、労基署から指導を受けた話は聞いたことがありません。その理由は、『ガルフ』と呼ばれる労務管理システムにあります。『ガルフ』は、指の静脈で認証するタイムカードで、他人が操作できないという点で正確だと言われています。しかし、私達社員は退勤の打刻をした後に、平気で3時間以上は働きます。つまり、このシステムは対外的な労基法対策でしかなく、実際の労働環境はまったく異なるのです。労基が定める基準をはるかに超える、月100時間以上の時間外労働も珍しくありません。亡くなった店長のように真面目な人が損をし、搾取され続けるようになっているんです」

故人の勤怠表を確認したところ、ある月は1日も休みがない状況だった。前出の店長は続ける。

「福岡ブロックでは、月に一度の店長会議があります。そこで、売上に対して人件費が高い店舗の店長は晒し者にされる。会議という名の”ダメ出し会”なんです。だから、人件費を削るために店長は実際2人で業務を行っていても、ワンオペレーションのように誤魔化していた。これは店長ならみんなやっているでしょうね。むしろ、『ガルフ』を操作していかに労働時間を短く見せるか、人件費を安くするか、が店長の腕といってもよいでしょう。また、常に人手不足なので、結果的に店長が泣きを見て出勤するしかない。店長が休み無しのシフトを提出しても、上層部は何も言ってきません。就業記録は9割以上が嘘ですし、会社はそれを知っているはずですが、知らぬふりです。私は、子供の入学式、卒業式、運動会といったイベントには一度も出席できたことはないし、39度の熱でも出勤していました。そこまでして働く意味があるのか、辞めればいいじゃないかと思う人もいると思います。しかし、私にはできませんでした。私が辞めると店は崩壊する。働いてくれているみんなに、とんでもない迷惑をかけてしまう。そういうことを考えると辞めるに辞められないんです」

罰金地獄の店長達。賃金は月22万円程度

ここに、故人が亡くなる前、数ヶ月分の給与明細がある。例えば、ある月の額を確認すると手取りで約17万円という額が振り込まれている。個人的に加入している生命保険や寮費が天引きされ、交通費は給与として支払われているため、これらを相殺すると実際の手取りは22万円程度。50歳を過ぎて店長という責任ある仕事に就き、さらには長時間労働をしてのこの金額は、決して相応のものとは言えないだろう。数ヶ月前に別の店舗で勤務していたときにはわずか15万円の振り込みしかなかった月もあった。さらに、前出の元店長によれば、遅刻、早退、クレーム、など事細かい減給項目があるという。モンテローザの現スタッフが、罰金制度についてこう明かす。

「例えば客からのクレームがあると1件につき、5000円の罰金があります。これは酔っぱらったお客様の言いがかりのようなものも含まれます。また、社員は1分でも遅刻すれば5000円の罰金があります。あとは、店舗あたりの決められた人件費をオーバーしたら、店長には罰金が課せられます。また、勤務時間が長すぎても罰金。なので、休みでも『ガルフ』に打刻せずに働いている店長がほとんど。私の店舗では、60日間連続出勤している社員もいました。また、営業時間中にいきなり鼻血を出したため、それでようやく少し休憩をとったということもありました。『ガルフ』というハイテクシステムを悪用して実際の労働時間が改ざんされていくのです」

それでも利益が給料に還元されれば良いんですがそんなことはない、と、前出の元店長が語る。

「ボーナスを満額もらったことは一度もありません。厳しい罰金制度がボーナス査定に直結しているので、満額支給の経験がある社員は少ないでしょう。前回の私のボーナスは、10000円ほどで、税金が引かれて手取り7000円でしたので、アルバイトにはもうネタとして話しています。正店長役職だと、売上の0.1%がインセンティブとして支払われます。しかし、福岡は中心地でも月に600万円程度の売上げなので、もらえてもせいぜい6000円ほど。どれだけ頑張ってもほとんど還元されず、罰金制度による減額のほうが圧倒的に多いんです。モンテローザの大神社長は世間にはいい顔をしていますが、会社の利益は、社員がつらい思いをしたサービス残業の結晶。それを強いているからこそ、成り立っている会社なんです」

過労死後も、改善されない社内環境

「K店長が亡くなったことを受けても、上層部は一言もそのことについて言及や説明はしませんでした。会社側が、社員の健康状態を調査することもありませんし、すべて確信犯なんですよ。第二、第三の被害者が出ても驚きませんし、それが自分であるかもしれない。結局、店長は会社の奴隷でしかないんですよ」

前出の現スタッフによればK店長の過労死後も、モンテローザの業務改善は行われていないというのだ。

なお、K店長の勤務実態や、具体的な再発防止策をモンテローザに問い合わせたところ、「被災者の具体的な時間外労働時間数につきましては、対外的に公表することは差し控えます。弊社は、従前より、社員の採用強化、社員の定着向上に向けた研修制度の導入、店舗数の縮小による従業員の再配置、営業時間の見直し等を順次進めて、労働環境の改善に努めております」との回答があった。

親族は死後のモンテローザの対応が、いまだに頭から離れないという。

「『社葬にならないのですか』と聞いた時、モンテローザの社員は煮え切らない態度でした。遺品整理をしていたときには、給与明細を見て『故人はこんなに保険金を払っていたんですね』と不謹慎な発言もしていました。別の日に労災にならないか聞いた際も、『えー、あのー』と一向に要領を得ません。葬儀では、アルバイトの人達は泣いてくれているのに、モンテローザ本社から来たエリアマネージャーを含む社員はニヤニヤ笑っているんです……。『この度はお悔やみ申し上げます』という姿勢はまったく感じられなかった。私達はこれ以上、過労が原因で亡くなり、悲しむ人が出て欲しくないと思っています。モンテローザに対しては、怒りの感情を通り越して呆れてしまっています」

労災認定後、モンテローザからは遺族に対して残業代の未払い分について事務的な連絡があっただけだという。

取材・構成:栗田シメイ、濱崎慎治

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