ライザップ社長「社長室がないので、立って仕事しています」 | FRIDAYデジタル

ライザップ社長「社長室がないので、立って仕事しています」

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「社長の仕事場」を見たい!第1回 取材・文:夏目幸明(経済ジャーナリスト)

東京・西新宿のライザップ本社オフィスにて。瀬戸社長と社員の距離感は近く、家族的な雰囲気すら漂う


「社長なら、いつもこのあたりをブラブラしていることが多いですよ」

我々を案内してくれた社員が、笑顔で口にした言葉だ。高層ビルの31階にあるオフィスには、いくつもの風船がプカプカと浮かんでいる。聞けば新入社員が、席と名前を覚えてもらえるよう、「入社おめでとう」などとメッセージが書かれた風船を浮かべておくのだという。

ライザップ社長・瀬戸健(たけし)(40)が照れながら風船を持つと、目の前の女性社員がクスクスと笑った。瀬戸は会社に席がなく、用事があるときはこのフロアで社員と話し、立って働く。彼が単なるモーレツ型のワンマン社長だったら、会社はきっとこんな雰囲気ではないだろう。

「実は『社長、社長!』と持ち上げられるのが好きじゃないんです。だから行きつけの店でも、みんな社長だと知らないので、よく雑に扱われますね(笑)。でもそのほうが気楽ですから」

起業のきっかけは高校時代にさかのぼる。”ぽっちゃり系”だった彼女が「痩せたい」と本気で言うから、瀬戸は一緒に走り、毎日はげまし、何を食べたか確認もして応援した。すると彼女は3ヵ月で20kg以上のダイエットに成功。

「本気でサポートしてくれる誰かがいれば、人は自己実現ができるんだ!」

瀬戸は感動した。それこそが彼の、今に繋がるビジネスの「原体験」だ。


「ただ、その後彼女は可愛くなった自分に気付いてモテはじめ……私、すぐフラれちゃったんですけどね(苦笑)」

高校時代の瀬戸は学年400人中399番という落ちこぼれだったが、猛勉強して明治大学へ入学。その後、パソコンと教材を訪問販売する会社で営業として抜群の実績を挙げると、2003年、24歳の時に「すごいビジネスパーソンになりたい!」と会社を立ち上げた。

この時、彼がトライしたのは健康市場への参入だった。なかでも「おから」を使った低カロリーのクッキーが大ヒットした。最初は彼自身が”クッキー屋のお兄ちゃん”として百貨店で商品を売りまくる程度だったが、大量の広告宣伝費をかけることで売り上げが拡大、会社は大勢の社員を雇い、起業3年後の2006年には上場を果たすほど急成長した。

自宅まで売りに出す大ピンチ

そして「さあこれから!」と東京・杉並に自宅も建てた頃、世界は若き挑戦者に大きな試練を与える。


「類似商品が現れ、ほかのダイエット法が流行すると、急に売り上げが下がり始めたんです。同じ時期にリーマンショックが起き、業績は急落し始めました」

よほど辛かったのだろう、高校時代のエピソードは笑って振り返った瀬戸が、ソファで肩を落としながら話す。


「2008年の年末でした。99歳だった祖母が、九州から上京して私が建てた自宅を見に来てくれたんです。年齢を考えると、自宅を見に来てくれる機会は最後かもしれない。なのにその自宅、本当はもう売りに出していたんです」

会社は忘年会を開くお金がなく、通販の商品購入で貯まったポイントを使って飲み物や食べ物を買った。妻には泣かれ、100円のおにぎりを買うことすらためらった。それでも瀬戸は懸命に打開策を考え続け、ついに、あるアイデアに辿りつく。「何かあった時のために」と買収していた美顔器の会社が製造していた3万円の商品を、980円で販売しようと思い立ったのだ。

「そのかわり2980円の専用ジェルを1年契約で買ってもらうビジネスです。多くの社員が『(980円は)安すぎる』『市場価値が下がる』と反対しましたが……」

なんと美顔器の売り上げは45万台を超え、瀬戸は危機を脱する。1年後の年末、瀬戸は妻と居酒屋にいた。

「そして、二人だけでこの1年間に起きたことを語り合いました」

融資したくて仕方ない、という態度だった銀行マンが、急にお金は貸せないと言いだしたこと。それでもせめて表情だけは元気に、と頑張っていたら社員もついてきてくれたこと……。

「いろいろ思い返しているうちに涙が止まらなくなって、恥ずかしい話ですが、妻と一緒に号泣しましたね」

人生にはいいことも悪いこともある。その「悪いこと」から立ち直る瞬間につかんだ何かこそが宝物なのだ。次を考えろ、考え続けろ――!

瀬戸は「僕、なんでも繋げて考えることが好きなんです」と話す。そう、この時彼のなかで不意に、高校時代、彼女と真剣に向き合った経験が重なった。

「痩せたいと思っている人に、おからのクッキーという商品を売ればいい……それは、供給側の論理に過ぎなかったと気付いたのです。ダイエットをしたい、自分を磨きたい、そう思っている人たちに本当に必要なのは『本気で応援してくれる誰かなんじゃないか』と……」

世の中を見渡すと、この供給側の論理と、世の中のニーズを結びつけている企業はどこにもなかった。こうして誕生したのが、顧客と本気で向き合い「結果にコミットする」、ライザップだった。

死ぬまでにどこまで行けるか

風船が浮かぶオフィスで、瀬戸は照れ笑いをしながらも、眼には仄(ほの)かな炎を浮かべて、こう語る。


「私を支えたのが何かと言われれば、それは”執念”かもしれません。執念があるから四六時中考える、そして朝から晩まで考えているから打開策が生まれる」

拳を握り、熱っぽく語られる瀬戸の「幸福論」も、実に独特だ。


「何かを買ったり、手に入れたりしてもその喜びは一瞬のもの。すぐ他の何かがほしくなります。ならば必死で何かに取り組むことを目的にしたらずっと幸福じゃないですか? もし『今日はこんなに頑張れた!』と幸福を見出せたなら、頑張っている間も幸福、達成すれば幸福、次の目標ができても幸福なはずです」

そんな瀬戸の哲学がまさに結晶したのが、いまやアパレルから住宅関連、アミューズメント産業にまで事業を拡大しているライザップグループだ。

「昔は、目先のことで幸せになれた時代があったんだと思います。例えば終戦直後なら『その日、食っていける』とか、高度経済成長期なら『高級な時計や洋服を身につけられる』とか。しかし現代人はもう”モノ”だけでは満たされない」

人に肯定されていたい、そんな切なる思いを人間は装飾品や肩書に託してきた。しかし本来は、誰かと一緒に、どんな壁を乗り越えたかが、人間の価値や品格を決めるのではないか。

瀬戸が新宿からの眺望を背に笑った。

「だから僕自身、壁にぶつかってもへこたれず、死ぬまでにどこまで行けるか挑戦しているんです。座右の銘は”気合と根性”(笑)。たとえ、人にバカだと笑われようとも、これからも僕は世界一の会社を目指していきます」

(文中敬称略)

社員の手形が押された壁紙の前で。「CORPORATION」の綴りが間違っているが細かいことは気にしない

「あなたは私よりずっと優秀なのに、本気を出していないのではないか」。社員にそんな叱り方をすることも

24歳で起業し、自ら考案して売り出した「おからクッキー」のヒットが、今に続く飛躍の礎となった

撮影:鬼怒川毅 写真:ライザップ提供(4枚目写真)

 

  • 取材・文夏目幸明(経済ジャーナリスト)

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