初の白星発進 サンウルブズはスーパーラグビー最終年をどう戦うか

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試合後の会見に臨む森谷圭介共同キャプテン(左)と大久保直弥ヘッドコーチ(撮影:向風見也)

福岡はレベルファイブスタジアムの関係者入口の前で、ファンが花道を作る。プラスチックの柵で仕切られた一本道を通るのは、バスから降りた職業戦士たちだ。

日本唯一のプロクラブであるサンウルブズは2月1日、国際リーグであるスーパーラグビーの開幕節を迎えた。

ノーサイド。試合は、36―27のスコアで歓喜の瞬間を迎えた。8名のオーストラリア代表経験者をメンバーに入れるレベルズから、終始リードを奪っ。これで通算9勝目。初戦白星は今回が初めてだ。

「バスを降りた瞬間、選手も『このチームで身体を張ろう』という気になってくれたはずです。また応援に来たいと思ってもらえれば、コーチとして嬉しいです」

こう語るのは大久保直弥新ヘッドコーチ。スーパーラグビー初の日本人指揮官だ。

神奈川県内の豆腐屋で育ち、大学からラグビーを始めてやがて日本代表となった。引退後は国内チームおよびサンウルブズで指導実績を積み、いまに至る。低い声で、熱を届ける。

「この勝利を機に、我々が寄せ集めじゃないとわかってもらえたら」

ワールドカップ後のシーズン。各クラブが主力同士のコンビネーションを合わせるのに苦労するなか、とりわけ苦しそうだったのがサンウルブズだった。

開幕の約4週間前に合流したスコッドのうち過半数が新顔で、ワールドカップ日本大会の日本代表メンバーは1人もいない。身体をぶつけ合うフォワードのフィットネス数値は、当初、ナショナルチームの水準以下だったようだ。

熱烈な愛好家にも心配される船出だったが、大久保らは泰然自若。簡潔な指針を打ち出す。

「この試合(レベルズ戦)は我々のテストマッチ(代表戦)」

沢木敬介コーチングコーディネーターは、サントリー時代に大久保とともに働いた元日本代表スタッフ。2018年度まで3シーズン、そのサントリーで監督を務め、妥協なき姿勢とキリリとした口ぶりで知られた。

その沢木はスーパーラグビー初挑戦となる今回、「フィジカルのなかで一番、(練習の)成果が現れるのはフィットネス」。実戦の動きを交えたセッションで、個々の心拍数を上げる。

「あいつら(選手)が、俺のことを嫌いになるまで走らせてるんで」

さらに知見を提供したのは、ネイサン・グレイテクニカルディレクター。オーストラリア代表に帯同していたとあり、同国に拠点を置くレベルズの選手の癖などは完全に把握していた様子だ。大久保が戦前に残した「スタッフも選手も、周りの方から言われるほど悲観になっていない」という言葉は、偽らざる本心だったろう。

当日。キックオフからのロングキックなどでエリアを取ろうとするレベルズに対し、サンウルブズは練られた攻めでスタンドを沸かせる。ショートサイドと呼ばれる、接点から見て狭い方の区画へ人を走らせた。

それが奏功したのは前半9分。敵陣10メートルエリア右の接点から、元南アフリカ代表スクラムハーフのルディー・ペイジが右へ流れつつ防御の背後へパスを放つ。

トンガ出身のウイングで天理大3年のシオサイア・フィフィタが大きく抜け出すと、同22メートルエリアで左へ、左へとフェーズを重ねる。

最後は相手防御と十分な間合いを取ったインサイドセンターのベン・テオが、アウトサイドセンター森谷圭介のトライを演出。元イングランド代表から日本代表未経験者へのホットラインが繋がったきっかけは、ショートサイドのアタックだった。

サインプレーもはまった。スクラム、ラインアウトといった攻防の起点から球が出れば、パスコースへ複数名の受け手を走らせて出し手が適宜、配球する。

前半25分のスコアはまさにその形。テオがおとりの選手の背後へ深い角度のパスを投げ、受け取った森谷は左大外のスペースへ大きく放る。

新加入ウイングのタウタラタシ・タシが、ノーマークの状態でトライ。直後のゴール成功もあり、スコアは19―8と広がる。

オーロラビジョンには、沢木コーチが絶叫し、笑顔になる様子が映った。本人はその瞬間を「あれはね…。今度からキャラを守るためにやらない(喜ばない)です」と振り返り、戦前の準備について簡潔に話す。

「スーパーラグビーなので毎試合、戦術は考えますよ。それが仕事なので」

空中戦のラインアウトでは、身長204センチを誇るロックのマイケル・ストーバークが相手ボールに圧をかけ続けた。大久保が「あれだけプレッシャーをかけられるとは」と驚くなか、ロータックルを連発したロックの谷田部洸太郎は笑う。

「練習の成果がすべて出た感じがしました。グレイさんとはラインアウトに関しても細かくミーティングをしていて、自信を持ってプレッシャーをかけられました」

サンウルブズは2016年の発足以来、代表候補となる選手に国際経験を積ませてきた。日本代表のワールドカップ日本大会での8強入りとそれに伴うラグビーブームは、サンウルブズの存在によってもたらされた側面が大きい。

もっともこの日、約2万人収容のスタジアムを埋めた観客数は10426人とやや寂しい。ワールドカップ組は時期の重なる国内トップリーグを主戦場としていて、人気選手が出る同リーグの試合には2万人超が集まる。

トップリーグの人気カードに比べると空席が目立つ。白星スタートは観客動員につながるか(撮影:向風見也)

そんななか谷田部、森谷とともにトップリーグのパナソニックからサンウルブズに挑むのは、フランカーの布巻峻介。狼たちの心をこう代弁する。

「トップリーグが盛り上がるなか、あまり注目もされていなくて、やっている僕らとしては『見とけよ』という感じでやっていたので」

第2節が休みとなるチームは、一時解散を経て2月6日に再始動。15日には東京の秩父宮ラグビー場で、ニュージーランドのチーフスとぶつかる。

優勝経験のあるチーフスには昨季も勝っているが、クラブの歴史的背景では相手に一日の長がある。

さらにこの日の勝利の裏には、レベルズの再三のミスもあった。またサンウルブズは、組織防御の連携などで課題を残している。

シーズンはまだ、始まったばかりだ。沢木の残したフレーズが、観るものの高揚感を適度に冷ましたり、かえって期待感を高めたりする。

「まだまだハンティングの始まりです。たかが1勝。あんま、騒がないでもらっていいっすか」

  • 取材・文向風見也

    (むかいふみや)スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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