前年の3倍 過去最高益なのに…大企業が“黒字リストラ”する理由

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昨年7月、日産自動車の人員削減を発表した元CEOの西川廣人氏。黒字の企業でもリストラが進んでいる

大手電機メーカーに勤める田中久秀さん(50代、仮名)は、社内一斉メールを見て驚いた。メールには、こんな文章が書かれていたのだ。

〈45歳以上の方の早期退職者を募集します。募集人数は160人ほどです〉

田中さんが勤めるメーカーは、’18年度に前年比10%以上増という最終利益を出している。’00年代に入ってから最高の利益だ。なぜ黒字なのにリストラ? 田中さんの頭の中に疑問がわく。会社の応募に対し、昨年3月までに150人ほどが早期退職した。そのうちの一人から話を聞いた田中さんは、暗澹たる気持ちになった。

「早期退職した、先輩技術者のAさんから話を聞きました。Aさんは以前から『あいつの持っているスキルは古い』『会社に貢献できないカネ食い虫』と、陰口を叩かれていたそうです。職場で居心地の悪さを感じたAさんは、『もう自分は会社から求められていないんだ』と考え退職に応募せざるをえなかったとか。ただ家のローンなどが数千万円あり、大学受験をひかえた息子さんもいるそうです。まだリタイアするワケにはいかない。そこで同じく早期退職するエンジニアたちとベンチャー企業を立ち上げたそうですが、『食っていける目算はない。不安で仕方ない』と表情は暗かったです……」(田中氏)

業績が好調なのに、リストラをする企業が増加している。東京商工リサーチによると、’19年に早期退職者を応募した上場企業は35社。そのうち最終損益が黒字だったのは、全体の6割近い20社だ。リストラに応じた人数は約9100人で、前年の3倍に急増している。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が語る。

「リストラを実施した企業の多くは、電機メーカーや製薬会社です。中でも中外製薬は、純利益が2期連続で過去最高を記録しています。アステラス製薬も’19年3月期の純利益が前年比35%も増えているのに、約700人の早期退職者を募集しました」

なぜ業績好調なのにリストラを敢行するのだろうか。松崎氏が続ける。

「理由は主に三つあります。一つは業務のAI化。マニュアルでできるような単純作業は、人間がやる必要はありません。窓口業務などは今後AIに任せればいい、というのが企業の考えなんです。二つ目が技術の新陳代謝でしょう。電機メーカーや製薬会社の技術は、日々進化しています。40代、50代のエンジニアが持っている技術は、ビジネスの最前線では通用しないケースもある。経営者は、新しい技術を持った若い人材を欲しています。三つ目が賃金体系です。企業にとって、中高年の賃金負担は非常に大きい。彼らをリストラすることで、フレッシュな社員を採用したいという目算があります。NECは’18年度に約3000人の中高年が退職しましたが、新入社員にはスキルによって年収1000万円を払う制度を導入しました。各企業は、抜本的に体質改善をしたいんです。確かにいまのところは短期的に黒字かもしれませんが、長期的に見れば利益を生み出せる構造にはない。10年後20年後を見すえたリストラと言えるでしょう」

ただ、こうしたリストラには問題もある。

「’00年代にもエンジニアの持つ技術が古くなったという理由で、パナソニックなど大手電機メーカーが大規模なリストラを敢行しました。結果、日本が持つ独自スキルが海外に流出。日本は、韓国のサムソンなどアジアの企業の後塵を拝することになったんです。一概に早期退職を応募するのではなく、社員一人ひとりの能力を精査すべきでしょう」(松崎氏)

悪いことばかりではない。リストラされる社員にとってもメリットはある。

「大企業の50代社員の多くは、一介の管理職です。例えば『技術部長』という肩書でも、デスク業務がほとんどで自分のスキルを活かせる機会がない。早期退職して中小企業に転職すれば、長年つちかった技術力を現場で発揮できるかもしれません。確かに長年勤めた会社を辞めるには大きなリスクをともないますが、新たなチャンスを生む可能性もあるんです」(松崎氏)

利益が出ていれば、経営者も社員も安泰という時代は終わった。雇用形態や働き方は、大きな変革期を迎えているのだ。

  • 写真AFP/アフロ

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