キャンプインに思う 野球選手に必要な「野球を忘れる2ヵ月間」 | FRIDAYデジタル

キャンプインに思う 野球選手に必要な「野球を忘れる2ヵ月間」

プロ野球選手にとって、12月と1月の2ヵ月間は球団のコントロールを外れる時期。その2ヵ月間くらいは野球から離れてみてはどうだろう?

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プロ入りして初のキャンプでキャッチボールをする佐々木朗希(ロッテ)。12球団いちの注目度だ
プロ入りして初のキャンプでキャッチボールをする佐々木朗希(ロッテ)。12球団いちの注目度だ

プロ野球のキャンプが始まった。今年も宮崎、沖縄、高知に12球団の選手が集結した。

かつてのキャンプでは、記者たちは「選手がどんな体形でやってくるのか」に注目したものだ。昭和の時代、阪神タイガースなどは、遠井吾郎、田淵幸一、川藤幸三などの猛者たちが、“自酒トレ”の成果を物語る力士のような体型で現れて「阪神部屋」などと揶揄された。

今も、ごくたまに体重大幅オーバーの選手が監督から二軍行きを命じられることがあるが、それは例外中の例外。今の選手はみんな今日からでも野球ができそうな引き締まった体格でキャンプ地に集結する。それもそのはず、若手選手などは1月後半から「合同自主トレ」に参加して、体を絞り上げているのだ。

野球協約では12月1日から1月末日まで、球団は選手にユニフォームを着せたり、野球をさせたりすることはできない。秋季キャンプやファン感謝デーなどの球団行事を11月中に行うのはこのためだ。ウィンターリーグなどの例外はあるが、この2ヵ月が完全に「オフ」となる。

選手はこの2ヵ月の間、自由に行動することができる。有名選手にはタレント事務所などがエージェントにつくこともある。もちろん球団公認だが、この事務所を通してテレビのバラエティ番組などに出演するのだ。

今年からMLBのレイズに移籍する筒香嘉智は毎年この時期に、少年野球の改革を訴えるメッセージを発信している。これはDeNAの筒香ではなく、一個人としての筒香の発言だ。

この時期のプロ野球選手は、球団のコントロールを外れ、自由に活動することができるのだ。

しかし今は「合同自主トレ」というものがある。

これは、形式上は「選手が自主的にトレーニングに参加する」ということになっているが、球団が、球団保有施設やキャンプ地の施設などを提供し、監督やコーチも視察に訪れる。練習は原則として自由参加だが、若手はなかなか不参加というわけにはいかない。ユニフォームは着ていないものの実質的な「春季キャンプの前倒し」だ。実質的な協約破りと言ってもよいが、これを問題視する声は上がらない。

「合同自主トレ」があるから、選手はキャンプインと同時に実戦練習に入ることができる。スケジュールを早めることができ、より効率的なトレーニングが可能になるのだ。そういう点では良いことではあるが、筆者は残念な気がしなくもない。

せっかく2ヵ月の間、球団の管理監督を離れて自分の意志でいろんなことができるのだ。この期間に「野球以外の見聞」を広め、人間的に成長することも大事ではないのか。

アメリカではワールドシリーズが終われば、翌年2月中旬のキャンプインまで、選手たちは完全に自由の身になる。

郷里に帰って釣りやハンティング、ゴルフなどを存分に満喫する選手。農業や牧畜にいそしむ選手もいる。中にはまだ野球がやり足らないのか、ウィンターリーグに参加する選手もいる。また大学院に通って、医師、弁護士などの資格取得のために勉強をする選手もいる。社会貢献活動に打ち込む選手もいる。

MLBではシーズン終了とともに数百人の選手がFAになる。オフになっても来季の所属が決まらない選手はたくさんいる。彼らはチームを探して東奔西走することにはなる。だから、すべての選手がオフに野球を忘れることができるわけではないが、少なくともこの期間は、球団の一員ではなく自分の意志と責任で行動するのだ。

交流する人も野球界だけでなく、幅広い範囲に及ぶ。こういう形で選手は見聞を広めるのだ。

野球選手の現役期間は短く、以後の人生のほうがはるかに長い。その後半生のために、選手たちはオフを有効活用しているのだ。

しかし日本では、オフも野球界の一員として過ごす選手が非常に多い。この期間に他の分野の社会経験をする選手は極めて限られている。

独立リーグの運営担当者が、NPBの選手や指導者と新たに契約を結び、何月何日に球団に来てくれと指示をすると、「新幹線、飛行機のチケットはどうなっているのか?ホテルは取ってくれるのか?」と聞かれることがあるという。驚くことにプロ野球選手上がりの中には、30代後半になっても、自分で旅支度をしたことがない人がたくさんいるのだ。

NPBでは、交通機関を使っての移動も、宿泊も、食事も、すべては球団マネージャーが手配する。選手は野球をすること以外、一切の雑務は行わない。まさに「野球の純粋培養」だ。だからひとたび野球界を離れると、生活力が驚くほどない人がいるのだ。

自分で一人で旅行することができない。名刺交換も社会人としてのあいさつもまともにできないことが多い。世の中の仕組みなどわからない。だから、セカンドキャリアで多くの選手が途方に暮れることになるのだ。

オフシーズンも野球界の人間関係の中で過ごす。この日本プロ野球選手の習性は、休日も会社の仲間とゴルフや飲み会をするサラリーマンに通じる「日本的な風景」だとはいえよう。

しかし、オフの2ヵ月を有効に使って「社会人としてのスキル」を磨いたり、自分の意志で何かを学んだりすることも重要なのではないか。

「合同自主トレ」もいいが、「自分の意志、考えで新しい経験をする」のも有意義なことではないか。もう少し日本の野球選手は「冒険」をすべきではないかと思う。

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)、『球数制限 野球の未来が危ない!』(ビジネス社)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

  • 写真時事通信社

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