悪玉、善玉でもない「第三のコレステロール」こそ本当の悪者だった
健康診断に書かれたコレステロール値。善玉コレステロールと悪玉コレステロールを足しても総コレステロールにならない。そこに記されていないのは、第三のコレステロール。実は悪玉コレステロールより悪者だという「第三のコレステロール」とは? 帝京大学臨床研究センター・センター長の寺本民生氏に話を聞いた。

悪玉コレステロールは、ただの“悪者”じゃなかった!? 細胞膜を作り、ホルモンを合成する
コレステロールには善玉と悪玉がある。これは日本人の常識といっていいくらい、知られていることだ。悪玉コレステロールが多いと体に悪いことも知っている。しかし、そもそもコレステロールとは何か、なぜ善玉と悪玉と呼ばれているのかとなると、よくわかっていないというのが、正直なところだろう。
「私たちが摂取した食べ物は消化器管で消化・吸収され、肝臓に運ばれます。そこで各栄養素は、非常に多くの酵素の働きによって分解・再合成されます。中でも“脂質”は、“リポたんぱく”という粒子に組み込まれ、全身の細胞に運ばれます。
その代表的なものがコレステロールや中性脂肪を含む『VLDL』と呼ばれるもので、血液の中を流れながら中性脂肪は分解されエネルギーの元になり、最終的には主にコレステロールが残ります。これが、『LDL(悪玉)コレステロール』と呼ばれているものです。
一方、善玉コレステロールの元である“たんぱく”『HDL』は小腸で作られ、血管内にたまったLDL(悪玉)コレステロールを回収しながら、『HDL(善玉)コレステロール』となり肝臓に戻ります。“善玉”といわれるのは、そのためです」(寺本民生氏 以下同)
LDL(悪玉)コルステロールとHDL(善玉)コルステロールでは作られる“プロセス”が異なり、“役割”も違う。
「LDL(悪玉)コルステロールは、肝臓で作ったコレステロールをさまざまな細胞に分配する役割を果たしています。細胞では細胞膜を作るほか、副腎では副腎皮質ホルモンを、性腺ではセックスホルモンを合成します」
なんと、“悪玉”といわれながら、体に大切な役割を担っているのだ。それでも“悪玉”といわれてしまうのは、
「老化などにより細胞が衰え、LDL(悪玉)コレステロールを取り込む力を失い残ってしまうと、血液の中にたまってしまう。それが血管の壁に入りこみ、プラークとなって動脈硬化を起こす原因となるので“悪玉”と言われるのです」

ひたすら血中を漂い、血管壁を狭くする「第三のコレステロール」
ところで、HDL(善玉)コレステロールとLDL(悪玉)コレステロールを足しても、総コレステロールにならないのを知っているだろうか? なぜなら、コレステロールには、この二つ以外のものがあるからだ。
それが、「第三のコレステロール」と呼ばれる「スモールデンスLDL」や「レムナントコレステロール」などだ。スモールデンスLDLは、その名のとおり正常なサイズのLDLより粒子が小さく、比重が重く、生活習慣病の人に多いとされる。また、レムナントコレステロールはVLDLからLDL(悪玉)コレステロールに変化する途中にできるものだ。
「前述したように、VLDL内の残ったコレステロールは最終的にLDL(悪玉)コレステロールになりますが、体質的に、この変換がうまくいかず、レムナントコレステロールとして血中に残ってしまう人がいます」
LDL(悪玉)コレステロールは細胞膜を作ったり、ホルモン合成に関与するが、スモールデンスLDLやレムナントコレステロールが、そのような体にとってプラスの働きをすることはないと考えられている。「超悪玉」と呼ばれるゆえんだ。
一般的に、HDL(善玉)コレステロールは40~90㎎/㎗、LDL(悪玉)コレステロールは70~139㎎/㎗が基準値とされている。だが、それぞれが基準値内であっても、動脈硬化になってしまう人がいる。第三のコレステロールが多いためだ。
通常、総コレステロールの20~30%がHDL(善玉)コレステロール、60~70%がLDL(悪玉)コレステロール、残りが第三のコレステロールになる。
特定健診(メタボ健診)では総コレステロールを測ってくれない!?
問題はここからだ。現在、40歳から74歳のすべての被保険者・被扶養者を対象に「特定健診・特定保健指導(メタボ健診)」が実施されているが、平成20年4月から検査項目は総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、中性脂肪のうち、3項目を調べればいいことになった。これによって、多くの病院・医院で総コレステロールを測らなくなった。
「財政上の理由だと思いますが、国がそれを容認してしまったんです。動脈硬化を引き起こす要因となるのは、non(ノン)-HDLコレステロールと呼ばれるHDL(善玉)コレステロール以外のコレステロール(LDL〈悪玉〉コレステロール+第三のコレステロール)。
総コレステロールを測らなくては、それがわからない。
ですから、私のクリニックでは総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪の3項目を測っています。そうすれば動脈硬化を引き起こすLDL(悪玉)コレステロール値は計算できますし、non(ノン)-HDLコレステロールがどのくらいあるかもわかります」
最近では総コレステロールを測るところも増えてきたというが、まだ測っていないところも多い。これでは健康診断の結果から、動脈硬化の危険度を知ることができないのだ!
LDL(悪玉)コレステロール値だけが高いときも要注意
もちろん、注意すべきは第三のコレステロールだけではない。LDL(悪玉)コレステロールの数値が高ければ要注意だ。
「閉経前の女性の場合、健康診断で、ほかの項目の数値は基準値内なのに、LDL(悪玉)コレステロール値だけ高い場合は、“家族性高コレステロール血症”が疑われます」
細胞の表面にはLDL(悪玉)コレステロールを細胞内に取り込むためのLDL受容体というものがある。家族性高コレステロール血症とは、先天的にこの受容体の数が少ないためLDL(悪玉)コレステロールが細胞内に入りこめず、血中に増えてしまうものだ。このような人は、治療が必要になる。
では、男性は?
「男性の場合、女性ホルモンの影響は考えにくいので、LDL(悪玉)コレステロール値だけが高いのは、ほとんど食事の影響です。医師に相談して食事指導を受けることをおすすめします」

健康診断でHDL(悪玉)コレステロール値やLDL(善玉)コレステロール値が基準値内でも、もしかしたら第三のコレステロールが多いかもしれない。特定健診を受ける場合は、総コレステロール値を測ってくれる医療機関を選んだほうがいいだろう。
寺本民生 帝京大学臨床研究センター・センター長。帝京大学の理事・名誉教授。寺本内科・歯科クリニック院長。脂質異常症や動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病全般を長く研究。クリニックでの診療の基本は、薬剤をむやみに使わず、まずは食事、運動などの生活習慣を改善すること。生活を変えると何がどう改善するかを患者自ら実験的に試すことを勧め、医師と患者が二人三脚で治していく診療をめざす。
取材・文:中川いづみ写真:アフロ