月9の視聴率アップの秘密 フジテレビの“テレ朝化”とは?

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『絶対零度』撮影中の横山裕(左)と本田翼(右)

沢村一樹主演のフジ月9『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』が好調だ。初回視聴率は10.6%。二桁スタートは、去年7月クールの『コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―』以来4作ぶりだった。その後もおおむね横ばいで推移し、6話までの平均が10.6%と初回の水準を維持する堅調さだ。

視聴率比較

ちなみに月9のこの1年を振り返ると、初回はいずれも9%前後で、クール平均は初回を下回っていた。篠原涼子の『民衆の敵』は初回9.0%で平均は6.7%。芳根京子の『海月姫』は8.6%で6.1%。そして長澤まさみの『コンフィデンスマンJP』は9.4%と8.9%。要は月9という話題性もあり初回を見てみたものの、途中でやめた人が多く、数字は中後半にかけて下落していた。「面白くない」と脱落した人がかなりいたということだ。

ところが前クールは落ち方が大幅に改善していた。さらに今クールは、初回で大台の壁を突破し、しかも大きく落ちることなく、むしろ3話以降が微増ぎみと大健闘をした。同局幹部も「率直に嬉しい」「自信出てきた」と喜びを隠さない。メディアの中にも「ドラマ絶好調」と絶賛する記事まで出ている。さらに“闇の仕置人”を予想するキャンペーンの展開などで、SNSによる視聴率アップ効果を指摘する人も出始めている。

フジテレビ月9ドラマの視聴率の推移

ツイート数と視聴率の関係

ただしツイート数と視聴率の関係は、言われるほど単純ではない。ツィッターが登場した当初は、ツイート数が10%増えると視聴率が1%上がるという暴論が囁かれた。現実にはつぶやく人の数は数千から数万程度で、仮に1ツイート平均10人が読んで実際に番組を見たとしても数十万人の動員力だ。しかもその何割かは既に自分でもドラマを見ている。視聴率1%を上げるには新たに100万人の行動を変えなければならないが、現実にはそれだけの影響力はない。

実際、今クールの主なドラマの視聴率とツイート数の関係を見ると、相関関係にあると言い難い例ばかりだ。序盤では『この世界の片隅に』が圧倒的な数字を誇ったが、視聴率はそれほどでもなかった。『グッド・ドクター』は4話でツイート数が1.6倍超に上がったが、視聴率は下がった。そして5話で8掛けほどにツイート数が減ったが、視聴率は逆に2割近く上がっている。『絶対零度』も、5~6話とツイート数が伸びたが、視聴率は逆に4話より低い。残念ながら、視聴率とツイート数の関係は単純には連動しない。

それでも例外はある。例えば4月クールの『おっさんずラブ』だ。初回から7万超のツイートがあったが、第5話までに倍増し、最終前には21万に達していた。視聴率も2.9%で始まり、6話で3.9%まで上がり、最終回は5.7%とほぼ倍増した。3%程度の番組ゆえに影響が見え易かった例だ。残念ながら10%を超える番組では滅多に起こらない。

2018年7月クールの主要なドラマのツイート数の推移

シリーズドラマの強さ

では、『絶対零度』はなぜかくも強いのか。まず初回視聴率が久しぶりに二桁という部分が大きい。その最大の要因は、『絶対零度』がシリーズ化している点だ。既に2シリーズが放送されており、ドラマの認知度が高く、番組イメージもあらかじめ多くの視聴者に共有されていた。

実はこのやり方で、最も高い実績を持つのはテレビ朝日だ。『相棒』『科捜研の女』『ドクターX』『刑事7人』など、同局はシリーズドラマのオンパレードだ。しかもこうしたドラマは、ことごとく初回で二桁となっている。2~3年前までは、ドラマの主役を務める俳優を、初回直前にバラエティ番組に出演させ番宣する手法が有効だった。ところが今やどの局もこれを多用し、効果はかなり薄まった。今はそれより、シリーズ化させ初回直前に前シリーズの再放送を多用するのが効果的なようだ。今クールでも、初回前1週間に5回以上再放送した『絶対零度』『刑事7人』『遺留捜査』は、いずれも二桁をとっていた。

フジドラマのテレ朝化!?

シリーズ化と再放送というテレ朝方式を踏襲したフジだが、他にも類似の手法が幾つか見られる。例えばドラマのジャンルが刑事モノになっている点だ。日本のドラマでは、刑事モノと医療モノは鉄板だ。フジ月9では、前の二桁ドラマは『コード・ブルー』だった。今年1月クールでは『アンナチュラル』『BG』『99.9』、4月クールでは『ブラックペアン』『未解決の女』『特捜9』が高視聴率だった。いずれもジャンル的には範囲内にある。

去年6月に就任したフジテレビの宮内正喜社長は「非常事態宣言」を出し、「とにかく視聴率を上げること」に拘っていた。そして今クール、月9が刑事モノ、木10『グッド・ドクター』は医療モノで勝負に出た。とにかく実績を出すことこだわったと見える。テレ朝化については、『絶対零度』の主人公を沢村一樹にした点にも感じられる。現在51歳の沢村は、今世紀の月9主人公としては最高齢だ。過去には明石家さんまと福山雅治が40代で主役を務めたことはあったが、【恋愛もの×若いアイドルタレント】の月9で50代はなかった。しかも月9は、10月スタートの『SUITS/スーツ』でも、現在50歳の織田裕二を主役に抜擢する。F1層(女20~34歳)だけでなく、3層(50歳以上)を意識した月9へ、路線変更が行われようとしているように見える。

月9の進化

テレ朝化の部分はあるが、ドラマとしての進化も見逃せない。今回の「未然犯罪潜入捜査」というコンセプトは、人工知能(AI)という先端技術を取り込んだ物語だ。近未来をテーマにするこれまでにない刑事モノに挑戦している。しかも新奇性だけでなく、近未来に拘る刑事たちの過去が捜査への関わり方に影響するという、人間ドラマが光っている。ただしAIによる未来予測は100%ではない。警察の捜査となると、冤罪など多くの矛盾も孕みかねない。そこに個々の登場人物の過去の経緯が絡み、面白い物語に仕立て上げなければならない。

担当の永井麗子プロデューサーは、「私がこれまで手がけてきた作品のなかで、最も台本作りに時間をかけている作品」とインタビューで答えている。丁寧にシナリオを作る作業も、新たな月9の大きな財産になりそうだ。フジテレビのこの春の改編スローガンは、「変わる、フジ 変える、テレビ」だった。テレビ局の新たな方針の下、月9がどう変わり、どこまで進化していくのか。新たな月9の今後に期待したい。

  • 鈴木祐司(メディア・アナリスト)

    1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)

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