朝ドラ『スカーレット』が最大の見せ場をあっさり終わらせたワケ

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主人公の喜美子を演じる戸田恵梨香。物語後半では助演の役割を担うことになるかもしれない?/写真 アフロ

最大の見せ場がわずか「数分間」

5日放送の『スカーレット』(NHK)105話を見て、「エッ?」と驚いた人は多かったのではないか。主人公の喜美子(戸田恵梨香)は穴窯による7回目の窯焚きに挑み、炎が噴き出すピンチに見舞われながら、ようやく理想の色を出すことに成功。

しかし、その直後、物語は7年後に飛び、喜美子はすでに女性陶芸家としての名声を手に入れ、息子・武志は高校2年生になり、演じる伊藤健太郎が初登場した。つまり物語はひと段落がつき、ここからは「女性陶芸家としての成功物語」ではなく、「武志の物語をクローズアップしていく」ということなのだろう。

実際、7回目の窯焚きで窯から炎が噴き出すシーンは、初回冒頭に見せていたものであり、『スカーレット』という作品のハイライトだったことを裏づけている。

ただ、なぜやっと成功した7回目の窯焚きシーンをわずか数分間しか描かなかったのか? なぜ窯焚きが成功した瞬間から名声を得るまでの7年間をまったく描かなかったのか? 引いては、喜美子が陶芸家を目指すストーリー自体、たった1ヵ月程度しか描かなかったのはなぜなのか? ネット上には「もっとじっくり見せてほしかった」「なぜはしょってしまったの?」という声が飛び交っていた。

それよりも長い残り6週間の放送で描かれるのは、武志の進路や闘病。すでに稲垣吾郎が武志の主治医役で出演することが発表されているように、喜美子はドラマのヒロインでありながら、残りの物語では助演の役割を担うことになりそうなのだ。言い換えれば、喜美子と戸田恵梨香ではなく、武志と伊藤健太郎の魅力が残りの成否を左右するということだろう。

メインテーマと思われた「女性陶芸家の誕生」は思いのほか、あっさり終了してしまった。最大の見せ場だったはずなのになぜなのか? その理由は、これまでの物語を振り返ると、おぼろげに見えてくる。

父、夫、師匠、息子を失うヒロインの物語

喜美子は、幼少期から父・常治(北村一輝)に振り回されっぱなしの日々だったが、父は12月25日放送の第75話で亡くなってしまった。失意の喜美子は、夫となる八郎(松下洸平)の存在によって救われ、陶芸家の道を歩みはじめるが、穴窯での窯焚きをめぐる行き違いから、1月29日放送の第99話で夫に家を出ていかれてしまう。それ以外でも、会社の業務変更で絵付けの師匠・深野心仙(イッセー尾形)との別れを余儀なくされるというエピソードもあった。

加えて今後に目を向けると、物語のベースになっている女性陶芸家の草分け・神山清子氏は息子・賢一氏を白血病で失っているだけに、喜美子も息子・武志との別れも有力視されている。

こうして全体を見渡すと、『スカーレット』が描こうとしているのは、女性陶芸家としての成功よりも、愛する男たちとの別れに耐え、前を向いて生きる喜美子の姿に思えてならない。制作統括・内田ゆき、チーフ演出・中島由貴、脚本家・水橋文美江と主要スタッフを女性で固めたのも、父・夫・師匠・息子を失っても立ち上がる力強いヒロインを描くためのように見えるのだ。

あらためて公式ホームページを見ると“番組紹介”の欄に、「相変わらずの貧乏だが、夫や息子のかたわらで、大好きな陶芸にいそしむ喜美子。だが、幸せなはずの生活は思惑どおりにはいかず、大きな波乱が彼女を待ち受けている。どんなにつらいことがあっても、陶芸への情熱は消えることがない。」と書かれていた。やはり我慢や喪失感をベースにした物語なのだろう。

朝ドラ『スカーレット』(NHK)の公式サイトより

「平均視聴率20%超」の記録がストップか

近年の朝ドラは、2015年の『あさが来た』から前作『なつぞら』まで8作連続で平均視聴率20%以上を記録するなど絶好調。ところが『スカーレット』は序盤から17~20%に留まり、平均視聴率20%超は絶望視されている。朝ドラと大河ドラマだけは高視聴率にこだわるNHKにとっては、昨年の『いだてん~東京オリムピック噺~』に続く痛恨の結果なのだ。

苦戦を強いられている理由として有力なのは、前述した我慢や喪失感をベースにした物語にほかならない。ハイライトであるはずの陶芸家としての成功をあっさり終わらせてしまったように、視聴者が爽快感を得られるシーンが少ないのだ。

苦労や不幸を一人で背負うような喜美子の姿に、「地味」「暗い」という声があったことも間違いない。だからこそ1~2週まるごと使って陶芸家としての成功を描き、幸せそうな喜美子の姿を見せ、視聴者の留飲をしっかり下げておくべきだったのではないか。

女性が陶芸をすることに対する嫌がらせや、夫と弟子がかけおちしたことなど、神山清子氏の人生は、喜美子よりも苦しく波乱万丈なものだったという。「朝に見てもらうドラマだから」「ハラスメントや不倫に敏感な時代だから」という理由で、我慢や喪失感、苦労や不幸の程度を薄めることは理解できるが、留飲を下げられるシーンをじっくり描かなかったことで視聴者が離れてしまわないか心配だ。

「地味」「暗い」と言われる設定だからこそ、もし全力で平均視聴率20%超を狙うのなら、ハラスメントも不倫も神山氏の史実通りに描き、その上で女性陶芸家として大成功を収める姿をめいっぱい見せるくらいの劇的な構成が必要だったのかもしれない。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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