壁!最強の外国語映画『パラサイト』でもアカデミー賞は獲れない? | FRIDAYデジタル

壁!最強の外国語映画『パラサイト』でもアカデミー賞は獲れない?

立ち塞がる『1917』にも弱点! “予想屋”Ms.メラニーに聞くアカデミー賞の行方

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

いよいよ2月9日(日本時間10日午前)に開催される世界的な映画の祭典・第92回アカデミー賞授賞式。今年は例年になく最高賞となる作品賞の行方が注目を集めている。というのも、アカデミー賞にとっては“外国語映画”となる韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(以下、『パラサイト』)が快進撃を続けているからだ。日本の興行成績も尻上がりで、拡大公開4週目にして週末興行成績は3位にアップ。2月5日までの累計で観客動員100万人・興収14億円をそれぞれ突破している。

『パラサイト』は、韓国映画界の巨匠ポン・ジュノ監督によるブラックコメディで、登場するのは、普通に暮らしていれば接点が生まれるはずがない韓国の格差社会を生きる人々。1人の大学生の思いつきがキッカケとなり、彼ら・彼女らが交錯していくことで物語が進む。観客を作品世界に引きずり込むストーリー展開や演出、映像設計も見事で、観た人によって、恐怖、絶望、そしてときに希望など、さまざまな感情が生まれる点も作品の奥深さを表している。

昨年5月の第72回カンヌ国際映画祭でのパルム・ドール(最高賞)受賞を皮切りに、様々な映画賞で作品賞や監督賞を受賞。今年1月には全米俳優組合賞(SAG賞)の映画部門でキャスト賞を受賞した(SAG賞では出演俳優達が総合的に優れた演技をした作品にキャスト賞が与えられる)。外国語映画として初の快挙である。アカデミー賞の投票権を持つアカデミー会員が多いことで知られるSAG賞を受賞したことで、アカデミー賞作品賞でも受賞への期待が高まっている。

史上最強の外国語映画としてアカデミー賞にチャレンジしている『パラサイト』。だが、“さすがに作品賞は獲れないのでは”との声もある。果たして、その理由は?

作品賞は『パラサイト』と『1917』の一騎打ち!?

作品賞にノミネートされている9作品は次の通りだ。

〔作品賞ノミネート一覧〕(日本公開順:以下同。9作品中7作品は日本でも鑑賞可能)
『ジョーカー』19年10月4日公開
『アイリッシュマン』19年11月15日公開/11月27日からNetflix独占配信
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』19年11月15日公開
『マリッジ・ストーリー』19年11月29日公開/12月6日からNetflix独占配信
『パラサイト 半地下の家族』19年12月27日公開
『フォードvsフェラーリ』20年1月10日公開
『ジョジョ・ラビット』20年1月17日公開
『1917 命をかけた伝令』20年2月14日公開
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』20年3月27日公開

9作品の中で、『パラサイト』の前に立ち上がっているのが、第1次世界大戦の戦場のドラマを描いた『1917 命をかけた伝令』(以下、『1917』)だ。

映画『1917 命をかけた伝令』  ⓒ2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
映画『1917 命をかけた伝令』  ⓒ2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

前哨戦では、『パラサイト』がカンヌ国際映画祭のパルム・ドール(最高賞)やSAG賞のキャスト賞(作品賞)などを受賞し、一方の『1917』も、第77回ゴールデン・グローブ賞で作品賞(ドラマ部門)、第73回英国アカデミー賞で作品賞を受賞するなど、実績を積み上げている。

『パラサイト』がぶつかるアカデミー賞の“壁”

アカデミー賞には“2019年にロサンゼルス郡内の映画館で連続で1週間以上、有料で公開された作品”などの基準を満たしていればノミネート資格があり、韓国映画の『パラサイト』も優れた作品としてアカデミー賞6部門にノミネートされた。

ここで、“オスカー予想屋”として予想歴20年を誇り、近著『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』も好評な「Ms.メラニー」にアカデミー賞の行方を聞いた。

Ms.メラニーは「もし『パラサイト』が作品賞を受賞したら、それは言葉では説明できないくらいすごいこと。けれど、そもそもアカデミー賞は基本的にアメリカ映画の賞なので、ある意味で“アカデミー賞の象徴”ともいえる作品賞を外国語の映画が獲るのは極めて難しい」と語る。

また、『パラサイト』は作品賞の他に国際長編映画賞(旧:外国語映画賞)にもノミネートされていて、Ms.メラニーは国際長編映画賞は「『パラサイト』以外には考えられない」と予想している。

すると浮上するのが、アカデミー賞で作品賞と国際長編映画賞(旧:外国語映画賞)のW受賞はないという歴史だ(これまでに外国語映画が作品賞を獲ったことがない)。国際長編映画賞は『パラサイト』以外には考えられないとなると、歴史的検証も重視するMs.メラニーの分析では、歴史的検証結果という点からも、作品賞は受賞しない、となる。

カンヌ最高賞受賞、外国語映画として初のSAG賞受賞、という快進撃を続けてきた『パラサイト』の前には、「基本的にアメリカ映画の賞」であり「作品賞と国際長編映画賞のW受賞は前例がない(外国語映画が作品賞を獲ったことがない)」という”言葉の壁“が立ち塞がる。

映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
映画『パラサイト』 ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

『1917』の作品賞受賞は絶対か? 監督賞は混迷!

それでは『1917』の作品賞受賞は間違いないのか?

Ms.メラニーは、『1917』が俳優4賞(「主演男優賞」「主演女優賞」「助演男優賞」「助演女優賞」)に1人もノミネートされていないことを指摘して、「(俳優4賞でノミネートがないことは)作品賞を争ううえでは弱いのです」と語り、「『1917』は作品賞としては、いまひとつ決め手に欠ける気がしています」とも続ける。

監督賞にも2つの側面からの予想がある。

「『パラサイト』の作品賞獲得が不利だからこそ、せめて監督賞は『パラサイト』のポン・ジュノ監督に獲らせたいという見立て」があり、その一方で「『1917』のサム・メンデス監督が全米監督協会賞などの前哨戦で勝っており、となるとポン・ジュノが監督賞を獲るのは難しい」とMs.メラニーはいうのだ。

情勢は『1917』が作品賞と監督賞のW受賞がありえるものの、一方で作品賞と監督賞が割れる可能性も残り、その場合は『パラサイト』と『1917』が両賞をどう分け合うのか、行方が注目される。

Ms.メラニーは、「今年は作品賞と監督賞の予想が本当に難しく、私は授賞式当日の朝まで予想を練ります」と話してくれた。

***

アカデミー賞授賞式の開催まで、いよいよ秒読み段階に。アカデミー賞の投票は日本時間の5日には締め切られた。集計作業が始まっているだろう。

世界中で旋風を巻き起こしている『パラサイト』は作品賞を獲れるのか? やはり『1917』か? それとも思いもよらないサプライズが起きるのか? あなたの”作品賞”を見届けましょう!

映画『1917 命をかけた伝令』  ⓒ2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.
映画『1917 命をかけた伝令』  ⓒ2019 Universal Pictures and Storyteller Distribution Co., LLC. All Rights Reserved.

--------------------

Ms.メラニー(アカデミー賞ウォッチャー)
映画会社に23年間勤務中。1989年にアカデミー賞に出会い、1990年からアカデミー賞を見続けている。受賞予想がライフワークのアカデミー賞ウォッチャー。2017年2月にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(2020年現在は「アフター6ジャンクション」)に“オスカー予想屋”として初登場して以来、アカデミー賞シーズンの風物詩ゲストとなっている。的中率は驚異的で、2018年の第90回アカデミー賞では、全24部門中21部門の受賞を的中させた。著書『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』 (星海社新書/1月24日発売)

『なぜオスカーはおもしろいのか? 受賞予想で100倍楽しむ「アカデミー賞」』を購入するならコチラ

▼おススメの映画関連記事▼

21部門で的中!“アカデミー賞予想屋”Ms.メラニーの最速分析 を読む

ベスト3は米映画独占 アイリッシュ、ジョーカー、ワンハリの魅力 を読む

批評サイト0点の『死霊の盆踊り』 傑作ダンス映画として再発見! を読む

猫人間騒動の真相 話題の新作『キャッツ』映画版に何が起きた? を読む

世界へ拡散中!超格差エンタメ『パラサイト』が韓国で生まれた理由 を読む

『ジョーカー』ホアキン・フェニックスの名演・怪演列伝 を読む

  • 取材・構成竹内みちまろ

    1973年、神奈川県横須賀市生まれ。法政大学文学部史学科卒業。印刷会社勤務後、エンタメ・芸能分野でフリーランスのライターに。編集プロダクション「株式会社ミニシアター通信」代表取締役。第12回長塚節文学賞優秀賞受賞。

Photo Gallery5

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事