ノーベル文学賞作家・大江健三郎の「生原稿」を大公開! | FRIDAYデジタル

ノーベル文学賞作家・大江健三郎の「生原稿」を大公開!

はみ出す! 切り貼りする! 色鉛筆で原稿がアート化する!! 『大江健三郎全小説』で明らかになる作家の全貌〔生原稿4点〕

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大江健三郎氏。ノーベル文学賞受賞、我が国が誇る巨大な作家。氏の小説を網羅した「大江健三郎全小説」(全15巻)の刊行が開始された。今ご覧いただいているのは大江健三郎氏の生原稿だ。一目見て、だたならぬ迫力を感じる。じわじわと作家の思考のプロセスが浮かび上がってくる……。今回、「FRIDAYデジタル」では、大江氏の多くの作品の中から『芽むしり仔撃ち』『万延元年のフットボール』『同時代ゲーム』『宙返り』の生原稿を特別公開。担当編集によるエッセイ&ミニ解説と併せて掲載する。

『芽むしり仔撃ち』(1958年)。もっとも初期の長編小説。閉鎖空間における少年少女のサバイバル

『万延元年のフットボール』(1967年)。大江氏の代表作。ノーベル文学賞受賞の理由ともなった

『同時代ゲーム』(1979年)。四国の森の言い伝えにもとづく長編。影響を受けた作品としてあの伊坂幸太郎さんが言及

『宙返り』(1999年)。ノーベル賞受賞後、断筆宣言のあとの初の大長編

担当編集者による解説エッセイ

「字は人を表す」という言葉がある。四半世紀ほど文芸編集に携わってきて、あの作家やこの作家の筆跡が思い浮かぶ。万年筆、サインペン、鉛筆……。柔らかい字、薄い字、読みにくい字。同時に作家たちの「人間」について考えている自分がいる。その作家の筆跡を見た瞬間、その「人間」と作品世界が分かちがたく思い出されてくる。論理・思考を超えた瞬間的な体験として。筆跡の表情がその作家の人と作品を語り出す。

この度、『大江健三郎全小説』(全15巻)を編むにあたって、装丁の素材とするため大江さんの生原稿を集めた。それぞれの巻に収められている作品の生原稿をデザインとしてあしらうためだ。

デビューしたての頃は下書きしたうえで清書したのだろう、加筆削除は皆無。それが時を追って次第に激しくなってくる。伝統的日本語を解体し、新しい日本語に練り上げてゆく過程が生々しく残る。スペースが足りずに欄外にはみ出し、さらに原稿の切り貼りが始まる。時を下ると青・緑・紫などの色鉛筆が登場し、原稿一枚一枚がまるで抽象画家のアートピースの様相を呈するようになる。

色鉛筆で訂正された原稿をいただいて帰社すると、“読解”作業が始まる。加筆削除の指示通りに原稿を読んでいき、その日のうちにFAXで感想を送る。的外れなことは言えない。信頼できない編集者に原稿を託す作家はいない。

早晩、手書きで原稿を書く作家はいなくなってしまうだろう。そうなれば上書きされたデータに格闘の跡はなく、原稿の印字に体温はない。

大江さんはこのような字を書き、このように原稿を書く。

作家「大江健三郎」はまさにここに存在している。

(『大江健三郎全小説』 担当編集者:Y)

『大江健三郎 全小説』全15巻の書影。それぞれの巻に収められている作品の生原稿がカバーデザインとしてあしらわれている。2018年7月~2019年9月まで連続刊行。装丁:鈴木成一デザイン室

詳しい紹介を見る⇒『大江健三郎 全小説』ノーベル文学賞作家、ついにその全貌をあらわす!

プロフィール・大江健三郎(おおえ・けんざぶろう) 1935年1月31日生まれ。愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)出身。東京大学文学部フランス文学科卒。大学在学中の1958年、「飼育」により当時最年少の23歳で芥川賞を受賞。サルトルの実存主義の影響を受けた作家として登場し、戦後日本の閉塞感をグロテスクな性のイメージを用いて描き、石原慎太郎、開高健とともに第三の新人の後を受ける新世代の作家と目される。その後外国文学の読書経験から独特の詩的な文体を獲得し、核や国家主義などの人類的な問題と、故郷の四国の森や知的障害のある子供(長男の大江光)という自身の体験とを重ね合わせ独自の文学世界を作り上げた。1994年ノーベル文学賞受賞。

撮影:森 清

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