11年ぶり復活V 早大ラグビー部を目覚めさせた指揮官のカミナリ | FRIDAYデジタル

11年ぶり復活V 早大ラグビー部を目覚めさせた指揮官のカミナリ

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新国立競技場で行われる初のラグビーの試合となった大学選手権決勝で前年度王者の明治大学を破り、11年ぶりの優勝を遂げた早稲田大学。同大は10日、納会と新体制発表を行う。一昨年まで4大会連続で選手権4強入りを逃すなど低迷していた名門ラグビー部を、就任から2年で日本一に導いた相良南海夫監督の続投が濃厚だ。大学4年時に主将を務め、卒業後は三菱重工の社員としても活躍してきた50歳の自称「昭和のおっさん」は、いかにして母校を復活させたのか――。

失敗を恐れる姿が許せなかった

監督就任の打診を受けたのは、2017年12月のクリスマスだった。創部100周年となる2018年度の優勝に向け3年計画で強化を進めてきた山下大悟監督が、成績不振により任期を1年残して辞任。OB会からの推薦を受け、急遽大役を引き継ぐこととなった。

最多15回の大学選手権優勝を誇る強豪にして国内屈指の人気校の指揮官に指名されたのだから、名誉であるのは間違いない。もっとも当時の早稲田は、2年連続大学選手権で初戦敗退するなど苦境にあえいでいた。火中の栗を拾うような思いもあったのは確かだろう。

試練はさっそく訪れる。就任後最初の公式戦となった4月の関東大学春季大会初戦で、前年度関東大学対抗戦6位の日本体育大学に22−32で敗戦。復活に向け勢いをつけるはずの試合で、チームはいきなりつまずいた。

この試合の後、普段はめったに声を荒げることのない相良監督が、語気を強めて厳しい言葉を部員に投げかけた。負けたからではない。失敗を恐れ、チャレンジしようとしない選手たちの姿勢が、我慢できなかった。

「春はトライアンドエラーを重ねて成長していこうと言っていたのに、『失敗しちゃいけない』という風にしか映らなかった。負けたことじゃなく、そういう後ろ向きの姿が悔しかったので、怒りました。『監督が変わって思うようにいかないのは俺のせいにしてくれていい。でもその前に、自分たちがやるべきことをやってないんじゃないか?』と。その時くらいですね、負けた後にキツいことを言ったのは」

厳しく指摘し合うことで、チームが変わった

大きく世代の異なる選手たちとどう接するか。どんな競技のどのカテゴリーの指導者にも共通するテーマだろう。この点で相良監督が「幸運だった」と語るのは、自分自身がちょうど現部員と同世代の子どもを持つ父親だということだ(注:長男の隆太は現在立教大学3年生でラグビー部所属。次男の昌彦は早稲田大学の1年生で、レギュラーとして大学選手権決勝に出場した)。

「私自身もそうなのですが、今はできるだけ子どもに失敗させたくないからと、保護者が先にレールを敷いてしまう。そういう環境で育ってきているから、子どもも『失敗してもまた次がある』という感覚をなかなか持てない。でも監督を務めるうえでそんな親心はいらないと思っていたし、失敗しない限り成長はない。そういうプロセスで進めたのが、かえってよかったのかなと思います」

もちろん当初は部員にも戸惑いがあった。「そんなこと言ってもどうせ失敗したら怒られるんだろうな、と受け取る選手は多かったと思います」。それでも根気強く言い続けていくうちに、選手は徐々にチャレンジすることをためらわなくなった。それに連れて、失敗から課題を明確にし、克服することでチーム力が高まる――という好循環が生まれていった。

日体大に敗れた約4か月後の夏合宿ではディフェンスにターゲットを絞って臨み、前年まで大学選手権で9連覇していた帝京大学との練習試合で28-14と勝利。さらに戦力充実の大東文化大学、東海大学にも敗れたものの接戦を演じて、大きな手応えをつかむ。こうした経験を通じて、選手との信頼関係はより強固になっていった。

一方で、波風立たせぬことをよしとしていたわけではない。むしろ「ほめて伸ばす」へと安易に傾く風潮には違和感を感じるし、言うべきことは厳しく指摘するというスタンスは、相良監督の中で一貫している。

2018年シーズンの秋頃、3軍以下の4年生数人が腐りかけていたことがあった。彼らが早稲田のラグビー部で活動するのはあと3か月余り。その間にレギュラーになる可能性はほぼない。そんな現状に投げやりになっていた部員の姿を見て、相良監督は厳しく叱責した。

「今のお前らの姿を見せたら、下の学年からは『あんな先輩にはなりたくない』と思われるだけだぞ、と。3年半がんばってきて、あと3か月我慢すればいいや、と思っているかもしれないけど、そんな気持ちでここに来ているのなら帰ってくれ、と話しました」

平和主義でストレートに意思をぶつけるのが苦手――。現在の部員世代の特徴を、相良監督はそう語る。特に今季は、1年時から主軸として活躍してきた主将SH齋藤直人、SO岸岡智樹、CTB中野将伍の4年生3人の存在が突出しており、互いに力を認めているからこそ、ミスや課題を厳しく指摘できないところがあった。しかし昨年12月1日の明治大学戦で7-36の完敗を喫した後は、遠慮するような空気はなくなった。

「周囲の選手も『あの3人はすごいから』という感じでなかなか言えない状況でしたが、早明戦の後は、コーチの権丈(太郎)がそこを容赦なく突っ込んでくれたこともあって、どんどん言い合うようになった。決勝までの40日間でチームが変わったのは、そういうことがあったからなんです。言わなきゃいけない時は言わなきゃいけないと、あらためて思いますね」

多くのファンの期待を受けるプレッシャーにも、チームを率いる最高責任者としての信念はぶれなかった。その確固たる意思が、11年ぶりの大学日本一の歓喜をもたらした。

  • 取材・文直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

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