柔道日本代表・阿部一二三×丸山城志郎 恩師が明かすライバル物語 | FRIDAYデジタル

柔道日本代表・阿部一二三×丸山城志郎 恩師が明かすライバル物語

66㎏の両雄は世界の2強 五輪よりも激しい国内の代表争い

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7度戦って丸山城志郎(左)4勝、阿部一二三3勝。井上康生代表監督も「どちらが出ても金メダルを狙える」と期待を寄せる 写真:YUTAKA/アフロスポーツ
7度戦って丸山城志郎(左)4勝、阿部一二三3勝。井上康生代表監督も「どちらが出ても金メダルを狙える」と期待を寄せる 写真:YUTAKA/アフロスポーツ

日本の柔道男子66㎏級には、ふたりの世界チャンピオンがいる。

豪快な背負い投げを得意とし、’17年から世界選手権を2連覇した阿部一二三(ひふみ)(22・日本体育大学4年)と、昨年の世界選手権で初の世界一となった丸山城志郎(じょうしろう)(26・ミキハウス)だ。

阿部は高校2年生で出場した’14年の講道館杯を制し、一躍次世代のエースと目され、’16年リオ五輪の閉会式では東京五輪のプロモーション映像にも登場した。自身を鼓舞するように歯に衣着せない強気の発言を繰り返してきた阿部は、世界に羽ばたいた19歳の頃に、こんな言葉を語っていた。

「目標は(五輪3連覇の)野村忠宏さん。同じことをやっても超えたことにはならない。僕は4連覇を目指したい」

阿部の妹の詩(うた)(19・日本体育大4年)も、柔道界のニューヒロインとして注目される逸材だけに、東京五輪での兄妹W金メダルも期待される。

一方、丸山は長く代表レースで二番手に甘んじていた。丸山の母校であり、現在も練習拠点とする天理大の穴井隆将監督が話す。

「’18年の世界選手権で代表になれず、アジア大会でも決勝で敗れてしまった。一方、阿部選手は世界選手権を2連覇。代表が大きく遠のき、丸山は代表を目指すモチベーションを失い、柔道を辞めかねない勢いだった。私は彼に、『ここで逃げたら、一生、阿部一二三から逃げた男というレッテルを貼られるぞ』と伝え奮起を促しました」

潮目が変わったのは、そのやりとりの直後となる’18年11月だ。グランドスラム・大阪の決勝で両者は対峙し、延長に入って丸山が繰り出した巴投げで阿部を下す。さらに昨年の選抜体重別選手権決勝でも丸山が勝利すると、穴井監督は人目も憚(はばか)らず号泣し、愛弟子を讃えた。「プレ五輪」と位置づけられた昨年8月の世界選手権東京大会でも丸山は準決勝で阿部を撃破し、立場は完全に逆転した。

「大学に入学した頃は、とにかくおとなしい印象で、性格から体格、柔道まで華奢だった。しかし、丸山の柔道センスは阿部選手以上だと思います。『ここ』と思ったときに技に入るタイミング、フェイント、そこじゃなければ投げられないという場所に足を掛ける技術。切れ味鋭く技をかけるさまは、まるで日本刀のようです。とにかく柔道が美しく、私の息子にも『参考にしなさい』と伝えているぐらいです(笑)」(穴井監督)

対する阿部は、ロンドン五輪100㎏級代表だった穴井監督の言葉を借りるなら「なたで相手をなぎ倒す」ような柔道だ。阿部を小学生時代から指導してきた、神港学園高校(兵庫)の信川厚総監督が振り返る。

「高校生にまじって練習していた小学生の頃から攻撃柔道で、『一本を狙いにいく柔道がしたい』と話していた。オール一本勝ちで優勝した中3のときの全国大会では、全試合でかかった試合時間がわずか4~5分ぐらいでした」

阿部の得意技は背負い投げや袖釣り込み腰といった担ぎ技だ。丸山のような〝教科書通り〟の技ではなく、釣り手や引き手が不十分な体勢でも強引に担ぎ、相手を畳に打ち付ける。

追われる立場から追う立場となった要因として、信川氏はこう話す。

「常に果敢に前に出ていくのが阿部の最大の武器なのに、丸山選手に敗れた試合では下がってしまうシーンがあった。本来のように相手を押し込んでいくような柔道をすれば、技をくらいにくいわけです。ただ、丸山選手に苦手意識があるわけではない。心配はしていません」

両者には、こんな因縁もある。阿部は高校時代、天理大の練習に参加していたこともあり、進学先も同大が有力視されていた。だが、阿部は環境の変化を求め、合宿への参加や海外への渡航が頻繁になることも想定して、東京の日本体育大学に進学したのだ。当時、大学柔道関係者のなかには、「天理大に失礼だ」と怒りを露(あらわ)にする者もいた。

ふたりの対戦成績は丸山の4勝3敗。両者の国際大会における実績は世界でも抜きん出ており、国内の代表争いを勝ち抜いたほうが必ずや東京五輪金メダルを手にするはずだ。

両者は共に、2月21日開幕のグランドスラム・デュッセルドルフに出場する見込みだ。丸山が勝利すれば代表選出が濃厚となり、阿部が優勝すれば4月の選抜体重別まで持ち越されるだろう。

ふたりの恩師は、東京五輪を目指す教え子に対しまったく同じエールを贈った。

「ライバルを意識しすぎないように」

東京五輪の本番よりも面白い代表争いは、いよいよ佳境に入った。

『FRIDAY』2020年2月21日号より

  • 取材・文柳川悠二写真YUTAKA/アフロスポーツ

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