長谷川滋利が指摘 甲子園とメジャー「究極の選択」の先にあるもの | FRIDAYデジタル

長谷川滋利が指摘 甲子園とメジャー「究極の選択」の先にあるもの

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2017年は、埼玉の花咲徳栄高校が広島の広陵高校を14対4で破り優勝を決めた

この夏、全国高校野球選手権大会つまり「夏の甲子園」は100回の記念大会を迎えます。

僕も67回と68回大会の2度、出場させてもらいましたが、本当にいい経験をさせてもらいました。その後、プロ野球、日本シリーズ、メジャー、メジャーオールスターと様々なマウンドを踏ませてもらいましたが、もっとも緊張したのは甲子園かもしれません。僕の野球人生の中でも大切な財産でもあります。

ただ、だからこそ甲子園はもっといい場所になるはずでし、大人が次の100年のためにそう変えていかなければならない、と強く願っています。

近年、毎年のように球児の酷使や過密日程について議論されています。特に今夏は連日の猛暑で、グラウンドの中は例年より過酷なコンディションになるかもしれません。

しかし、ファンや関係者中にさえ「あの真夏に、大歓声の中でプレーするから根性や度胸が育てられるんや」と未だに公言している方がいます。時代錯誤もいいところです。そもそも100回、つまり100年以上も続いてきたスポーツイベントがほぼ形を変えないという方が異常なのではないでしょうか。

野球は日々、進化しています。「根性」という言葉は「メンタル」に変わり、専門のトレーニングは無数に存在します。「練習中に水を飲むな」は過去の話で現在は給水と補食は当然のこと。それなのに、肝心の甲子園では「伝統」という言葉を都合良く使って、将来のある選手に大きな負担をかけ続けています。これはあまりに封建的ではないでしょうか。

何か起きてからでは遅いです。

早朝とナイターのゲームのみにする。週末だけの開催にする。時期をずらす。35度を超えたら中止にする。

多くのアイデアは既に出ています。記念大会だからこそ、本気で検討しなくてはいけないと思います。「育成および教育」と「勝利および収益」は決して天秤にかけられてはいけない。前者の方が重いということをファンもメディアも指導者も選手自身もしっかり認識しなくてはいけない時代はもうとっくに到来しています。

そんな「高校野球=甲子園」という日本野球の王道のを通らずに、メジャーを目指す若者が出てきました。

大阪府羽曳野市出身の結城海斗投手です。カンザスシティ・ロイヤルズとマイナー契約を結びました。マイナーではありますが、16歳での契約は史上最年少ですね。

野球界の動きとしては非常に興味深いとは思います。頑張ってほしいです。

ただ、メジャー昇格を目指すにあたって、まずはルーキーリーグ、シングルA……。アメリカの有望選手、中南米から人生をかけて挑戦するアスリートをライバルにして、競争が続きます。

結城投手がこの例に当てはまるかは別として、アメリカでは2年から長くても4年で光るものがなければ本当にあっけなくカットされます。このあたりは実に合理的というかシビアですね。基本的に強者を育てるシステムですし、列の後ろには常に次のスター候補が並んでいるわけですから、日本のように「高卒からじっくり5年かけてバッティングを作り、プロ7年目で初ホームラン。10年目でレギュラーポジションについた遅咲きの苦労人」みたいなケースはほぼないと言っていいでしょう。相当なスピードで成長しないとあっという間にこちらの代謝の早い野球に埋もれてしまうリスクは存在します。

だから、自分の教え子が「16歳でマイナー契約しようと思ってるんです」と相談してきたら「18歳でも22歳だって遅くない。高校や大学で勉強して友達を作りながら野球も真剣にやる。それでも十分にプロは目指せるよ」ともう一度、じっくり考えることを促すと思います。

そして、かなり勇敢で面白い挑戦ではありますが、日本の野球界が将来的に空洞化してしまう可能性もあります。

例えば、結城がメジャーへの階段を駆け上がって、近いうちにメジャーで結果を出す。契約金は32万ドルと報じられていますから、3500万円程度で有望なピッチャーを確保できるのは破格の買い物ではあります。

そうなると日本は若いアマチュア野球選手をこぞって「青田買い」される恐れがあります。組織力、資金力ではメジャーに太刀打ちできませんし、「いきなりメジャー挑戦」というのは確かに夢があります。

しかし、それは甲子園や日本のプロ野球の空洞化に繋がってしまう、と感じているのは僕だけでしょうか。

だからこそ、甲子園をより魅力的で意味のある大会に、その取り組みが大きく意味を持ってきます。みんなで考えていきましょう。

長谷川滋利

1968年8月1日兵庫県加古川市生まれ。東洋大姫路高校で春夏甲子園に出場。立命館大学を経て1991年ドラフト1位でオリックス・ブルーウェーブに入団。初年度から12勝を挙げ、新人賞を獲得した。1997年、金銭トレードでアナハイム・エンゼルス(現在のロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイム)に移籍。2002年シアトル・マリナーズに移り、2006年現役引退。2016年からオリックス・バファローズのシニアアドバイザーを務める

 

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