人気急上昇中のラグビートップリーグが取り組む「SDGsのいま」
ラグビーのトップリーグが1月12日のリーグ開幕から、国連のSDGs(Sustainable Development Goals=エス・ディー・ジーズ)の推進を本格化させている。
このSDGsは「持続可能な開発目標」を意味する。2030年までに多様性と包括性のある社会の実現を目指し、「誰ひとり取り残さない」というスローガンを掲げ、「すべての人に健康と福祉を」や「貧困をなくそう」など達成すべき17の目標を挙げ、行動に変える。
一般紙のラグビー担当記者は評価する。
「17の目標はこれまでトップリーグの各チームが個別にやってきた社会貢献活動がほぼすべて含まれます。今回はその活動に横串を通し、リーグを中心に本格的にやっていこう、ということ。これからはリーグとしてもどんどん発信することが大切です。そういう意味では一歩踏み出した形になっていますね」
トップリーグを統括する太田治チェアマンは言う。
「今はチームに持ち帰ってもらって、どういうことをやれるか検討の段階です。リーグにとっても、チームにとってもブランド力を上げることにつながります」
経団連や経産省からの協力依頼もあったこの取り組み。リーグとしては昨年のワールドカップで認知度が急上昇した競技の社会的価値を高める狙いもある。
その先駆けとなったのが千葉・浦安に本拠を置くNTTコミュニケーションズだ。
第2節の1月18日、東京・秩父宮ラグビー場でのサントリー戦で、選手たちが「がんを治せる病気に」と募金活動を行った。
チーム内では乳がん検診を啓発するピンクリボン運動で使われるピンク色を基調としたジャージーを作製。がんをなくすため、英名「Cancer」の「C」の文字を消したロゴを入れ、練習試合で着用したりもしている。
チームをまとめる内山浩文ゼネラルマネジャー(GM)は話す。
「チームには2つの『かち』があります。Victory(勝ち)とValue(価値)です。これまでは勝つことに目を奪われていましたが、これからは社会、地域、経営の課題にも目を向けていかなくてはなりません。そのツールとしてチームを使うことができればメッセージ性は強くなり、浸透しやすくなります」
がんに目を向けたことを説明する。
「社会には看病をして出社している人もいる。そういう方々の力になれれば、という思いです。がん撲滅に携わるNPO法人との出会いもありましたし、ウチのチームの通訳が3年ほど前に30代の若さでこの病気で亡くなったこともありました」
チームには今季、「血液のがん」と呼ばれる白血病を克服したクリスチャン・リアリーファノが加入した。内山GMは振り返る。
「ソーシャル(社会活動)とラグビーを結びつけるということもありました」
オーストラリア代表の32歳スタンドオフはチームの取り組みのシンボルでもある。
NTTコミュニケーションズに続いたのは、前回リーグ優勝の神戸製鋼であり、NTTドコモだった。
第4節の2月2日、「阪神ダービー」として、神戸・ユニバー記念競技場で戦った両チームは、視覚障碍者と介助者10人ずつの計20人を試合に招待した。盲導犬も加わる。
両チーム、さらに主管となる兵庫県ラグビー協会の間を取り持ったのは、大阪でテレビとラジオを持つABC(朝日放送)だった。
専用の音声レシーバーから参加者には試合実況が伝わる。試合後には両チームの選手たちとも交流。神戸製鋼は「世界の至宝」と呼ばれるニュージーランド代表のスタンドオフ、ダン・カーターも対応した。
当日の実況は35年の履歴を誇る伊藤史隆(しりゅう)アナウンサーである。
「弊社もSDGsを標榜しています。その上で私がラジオ番組を持たしてもらっている縁もあり、何かお手伝いできることはないか、と考えた末、今回の企画に行きつきました」
当日の模様は、ABCラジオの『伊藤史隆のラジオノオト』の2月6、7日分の放送で取り上げ、啓発活動にもつなげている。
神戸製鋼で現場の最高責任者である福本正幸チームディレクター(TD)は語る。
「ええですよね。『誰ひとり取り残さない』というのはラグビーにも通じます。ラグビーもみんなで一緒にやっていこう、というスポーツですから。試合後、感激されているみなさんの姿を見て、よろこんでいただいけてよかったなあと思いました」
神戸製鋼は20年近く、選手らが募金活動をしたお金を「日本せきずい基金」に寄付している。ラグビーにおいて起きる可能性のある脊髄損傷の研究や回復に役立ててほしいとの願いからだ。
同じ2月2日、東京・町田GIONスタジアムで行われたキヤノン×パナソニックでは、キヤノンの選手たちが、大規模な森林火災が続くオーストラリアへの募金活動を行った。同国出身のフランカー、エドワード・カークらが中心になった。太田チェアマンは解説する。
「これも一種のSDGsです」
チーム間に広がり始めているこの取り組み。福本TDさらなる協力を口にする。
「機会があれば、またこういうことをさせてもらえれば、と思っています」
勝負の先にある社会の良化。楕円球の世界からもSDGsが広がっていけば、そこには明るい未来が広がっているはずだ。
取材・文:鎮勝也
(しずめかつや)1966年(昭和41)年生まれ。大阪府吹田市出身。スポーツライター。大阪府立摂津高校、立命館大学産業社会学部を卒業。デイリースポーツ、スポーツニッポン新聞社で整理、取材記者を経験する。スポーツ紙記者時代は主にアマ、プロ野球とラグビーを担当