新型コロナに負けない「免疫力を高める」とは、どういうことか?
わかっているようでわからない免疫の正体とは? 見逃せない「深呼吸」の“肺活”効果
新型コロナウイルスによる肺炎の感染が広がる中、次第にその正体が見えてきた。死亡率は低いといわれているが、中には重篤化する人もいるし、分母を拡げないためにも感染は避けたい。感染経路は、飛沫感染または接触感染が主体とされているので、手洗いはマスト。そしてよく言われているのが「バランスのよい食事と規則正しい生活で、免疫力を上げましょう」というもの。
免疫力が高いと、感染症にかかる確率は低くなる。かかっても重篤化は避けられるという。ならばぜひとも免疫力を上げなければ!
だけどちょっと待った。免疫力って一体なんなの? 数値化できるわけでもないし、そもそも自分は免疫が高いのかどうかもわからない。そこで、芝大門いまづクリニック院長の今津嘉宏先生に、免疫についてわかりやすく教えていただいた。
免疫力とはズバリ!生きるための力なり
「免疫は、外からのばい菌と身体の中にできる病気の両方をやっつけてくれます。免疫力は治癒力とか抵抗力、生きる力と言い換えてもよいと思います」(今津嘉宏先生/以下同)
その主な働きをざっくりまとめると、こんな感じだ。
- 風邪などのウイルス_免疫が高いと風邪などの感染症にかかりにくくなり、かかっても軽く済む。
- 花粉症_マイナスのイメージがあるが、花粉を体内に入れないように、鼻水や涙を出して洗い流している。
- 怪我_ばい菌に対して免疫がちゃんと働くと、傷が化膿せず早く治る。
- 癌細胞_外から取り込むのではなく、自分で作り出してしまった敵も、毎日やっつけてくれている。ある程度の大きさになると殺せなくなるので、癌が発症する。
「このように免疫にはいろんなパターンがあって、バランスを崩すと自分で自分の細胞を攻撃してしまいます。アトピー性皮膚炎や膠原病、関節リウマチといった自己免疫疾患がそれ。過剰すぎてもトラブルが起こるので、理解しづらいのかもしれません」
“肺活”と“腸活”で免疫力を上げよう
年齢が上がるにつれて、免疫力は低下していく。だから子どもはアトピーになりやすく、老人は風邪が治りにくくなる。“程よい”状態がいいということだが、過剰に反応して暴走しない限りは、やはり免疫力は上げておきたい。では免疫力は、どうすればアップできるのだろうか。
「呼吸器系と消化器系の状態を良くすると、免疫力は簡単に上がります。肺と腸、両方いいに越したことはないけれど、得意な方で免疫を上げればよいと思います」
え? 肺ですか? 腸活というのは知っているけど、肺活は聞いたことがない。なぜ肺?
「水や食べ物から入ってくるばい菌に対しては消化器系、空気から入ってくるばい菌に対しては呼吸器系で免疫が働いてくれるからです」
なるほど! では具体的にはどうすればいいのだろうか。
「息をしたりご飯を食べるといった、“努力しないでできていること”を、見つめ直してください。親から息の仕方を習った人はいませんよね。でも呼吸はできています。ただ、肺をフルで使っている人は少ない。呼吸をちゃんとすることで、肺の機能は上がります。それには深呼吸がいちばんです」
体内で熱を発生させるのは筋肉。筋肉を動かす→身体が熱くなる→代謝がよくなる→免疫力が上がる。その図式にピッタリ当てはまるのが、なんと深呼吸なのだ!
たった10秒で免疫が上がる、深呼吸の底力
「深呼吸では必ず腹式呼吸になり、何度か続けると背筋が伸びてお腹がへこむのがわかるはず。身体の中でいちばん大きな筋肉である横隔膜を動かしています。5回、6回と続けると汗が出てきますよ。ポイントは“ゆっくり吸ってゆっくり吐くこと”と“必ず鼻から吸うこと”の2つです」
なぜ鼻からかというと、肺の繊毛にはたくさんのリンパ球がいて、ばい菌を捕らえて外に出してくれるのだが、繊毛は乾いた空気を吸えば吸うほど干からび、壊れてしまうらしい。鼻から空気を吸えば副鼻腔を通るときに加湿され、湿度は100%になるというのだ。よくできてるなァ人間!
では実際に、効果的な深呼吸の仕方を紹介しよう。吐くのは鼻でも口でもどちらでもいいが、圧をかけるためには口から吐くのがおすすめ。
「免疫力」を高める“深呼吸”
- 1_普通に息を鼻から吸い、口から吐く。
- 2_ゆっくり鼻から吸い、充分吸いきったら1〜2秒息を止め、ゆっくり口から吐く。
- 3_できるだけ長く息を吸い、吸いきったら可能な限り呼吸を止め、できるだけ長く口から吐く。
この3回で1セット。汗が出るまでやると、さらに効果的だ。吸いきって止めるのは、ホールドすることで肺が充分に膨らむから。肺の機能をフル活動することで免疫力が上がり、運動不足も解消される。
腸内細菌の餌となる食物繊維を摂ろう
では腸活は、なにをすればいいのだろうか。
「まずは便の状態を見てください。バナナのような便であれば腸活なんてしなくてOK。コロコロだったり水様便なら腸活しましょう。大腸の中に住んでいる腸内細菌を活性化させるために“餌”をあげてください。餌は食物繊維です」
食物繊維を与えると腸内細菌は元気になり、食物繊維の分解を始める。そこから短鎖脂肪酸が作られ、それが肝臓に運ばれて栄養になる。短鎖脂肪酸は大腸の粘膜も整え、さらには交感神経を刺激して脂肪も燃焼してくれる。身体が活性化することで免疫が上がるだけではなく、肥満も防いでくれるのだ。
「ただし、食物繊維はサプリメントで摂ってもあまり意味がありません。一緒に複数の野菜なども満遍なく摂ることが大切です」
たとえば色の濃い野菜は、身体の老化や錆び付きの原因となる“活性酸素”を抑える“抗酸化作用”が高い。紫、赤、黄色、緑といった色の濃い野菜と食物繊維を一緒に摂ることで、免疫は上がっていくのだ。
ウイルス自体を殺す効果はないが、免疫力を高める“漢方薬”はある
サプリでは上げることのできない免疫力。実は西洋薬にも免疫を上げるものは存在しない。では漢方薬はどうなのか。
「夏バテに効くと言われている『補中益気湯(ホチュウエッキトウ)』は体内の免疫機能を活性化させ、ウイルス感染に対するバリヤ機能を高める作用があることがわかっています。スタミナドリンクのように使ってもいいし、風邪が流行している間は毎日飲んでおこう、という感じでもいいです」
あなたの免疫力は大丈夫? 危険信号を見逃すな!
自分の免疫力の高低は、1シーズンに何回風邪をひいたのかとか、怪我は治りやすいのか、などで判断がつくという。
「肩こりや頭痛、よくため息をつく、すぐに座りたがるなどというのは免疫力が落ちているサイン。免疫力は年齢とともに落ちてはきますが、お年寄りでも元気な人はいますよね。日々の生活で気をつけていけば大丈夫ですよ」
うがい&手洗いに、深呼吸と食物繊維たっぷりの食事を加えて免疫力をアップ。ウイルスに負けない万全な体調を手に入れよう!
今津嘉宏(いまづ・よしひろ) 慶應義塾大学病院、霞ヶ浦医療センター(旧国立霞ヶ浦病院)、恩賜財団東京都済生会中央病院などで医療に従事。2011年の震災を機に、「患者のそばにいられる町医者」を目指して芝大門いまづクリニックを開業。西洋医学と漢方医学を区別することなく、総合的な観点から診療にあたっている。著書は『ねころんで読める漢方薬:やさしい漢方入門書 ナースと研修医が知っておきたい漢方のハナシ』(メディカ出版)、『血糖値が下がる!血管が若返る!高野豆腐レシピ』(宝島社)など多数。
- 取材・文:井出千昌
- 写真:アフロ
ライター
フリーライター、「森本美由紀 作品保存会」代表。少女小説家、漫画原作者、作詞家としても仕事歴あり。『mcシスター』、『25ansウエディング』(共にハースト婦人画報社)、『ホットドッグプレス』(講談社)などを経て、『25ans』、『AEAJ』(共にハースト婦人画報社)、『クウネル』(マガジンハウス)等に原稿を提供。編集を担当した書籍に『安部トシ子の結婚のバイブル』(ハースト婦人画報社)などがある。