注射一本でがん消滅 手術なし、抗がん剤も使わない最新研究

遺伝子解析で、それぞれの患者にとって最適ながんワクチンが作れる技術を日本人が作った

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「がん研」における日常風景。多彩な国籍のスタッフが集まっているため、会話は英語が使われている

がんの種類も、進行度合いも関係なし。増殖を続けるがん細胞が患者自身のリンパ球によって死滅する――。下写真B①〜④の組み写真は、その劇的な瞬間をカメラが捉えたものだ。

まず、写真A①とB①を見てほしい。白く色が抜けて丸く見えるのが、がん細胞。がん細胞よりも小ぶりに見える小さな丸い組織がリンパ球だ(リンパ球は病気から身体を守る免疫システムのなかで大きな役割を果たしている)。

この実験は、2つの異なるがん細胞に”ある働き”を持つ同じリンパ球を加えると、どんな変化が起きるのかを比較するというもの。

時間の経過とともに2つのがんには明確な違いが現れた。一方のがんには、大きな変化が起きなかった(写真A①、②)のに対し、もう一方は、すぐにリンパ球が活発に動き出したのである(写真B②)。瞬(またた)く間に、がん細胞をめがけて多数のリンパ球が集まり、ぐるりと周りを取り囲んだ。すかさず、リンパ球によるがん細胞への猛烈な集中攻撃が始まり、がん細胞は次々に「パチン! パチン!」と弾けて消えてしまったのだ(写真B③、④)。

「これは、がん細胞が死滅したことを意味しています。実は、がん細胞の中にあるリンパ球には、『がん細胞を攻撃する』という性質を持ったものが存在している。ただし、そのリンパ球は患者さんごとに異なります。がん細胞が患者さん自身のリンパ球から敵とみなされる特徴を持っているかどうかが鍵。写真Aに変化がなかったのは、写真Bのがん細胞にはある”目印”を持っていなかったからです。がん細胞の目印はがん細胞に起こった遺伝子の異常に関係しています。いまや、がんのゲノム解析が簡単にできるようになり、がん細胞の特徴(目印)を推測することが可能になってきました。ゲノム解析技術の進歩ががん治療に革新的な変化をもたらしつつあるのです」(中村医師、以下「 」内はすべて同じ)

ご覧の通り、写真B①〜④では、がん細胞を見つけたリンパ球が、がん細胞にフル攻撃を仕掛けている。「ダメージを受けたがん細胞の膜に穴が開いて」(中村医師)、風船が割れるように破裂していった。最後には、がん細胞が跡形もなく消えてしまったのだ。

この衝撃的な比較実験の動画を公開中。カラー映像で見れば、より鮮明にリンパ球ががん細胞を攻撃する様子が分かる。

「がんを攻撃するリンパ球を特定するには、がん組織の遺伝子と正常細胞(血液など)の遺伝子を比較することが必要になります。がんの確定診断の際に生検した検体や、手術を受けて摘出した腫瘍の検体が残っている場合は、それを利用できます。こうした検体が残っていない、あるいは手術を受けていない人でも、注射の針先程度のがん組織が入手可能であれば、検査できます」

患者から採った遺伝子を解析し、がん細胞を攻撃するリンパ球を特定する――。ごく近い将来、この手法によって、それぞれの患者にとって有効ながんワクチンや人工的に作ったリンパ球を治療に応用できるというのだ。

「今はゲノム解析を利用すると、1ヵ月程度でがんワクチンを作れる技術が確立しています。患者さんはそれを注射で受けるだけでいい。投与したワクチンによって、体内でがんを攻撃するリンパ球の数が増えるだけでなく、そのリンパ球自体も元気になり、身体の免疫も引き上げられる。どれくらいの頻度で何回くらいワクチンを打つ必要があるかは、患者さんのリンパ球の数や免疫の状態によっても変わってくるでしょう。さらに、3ヵ月程度でがんを攻撃するリンパ球を人工的に増やし、治療に応用できるような技術も確立されています」

人工的にがんを攻撃するリンパ球を製造するには、どの程度の時間が必要なのか。中村医師は最先端の技術を使ってトップスピードで行えば、「遺伝子の特定に8日、それから人工的なリンパ球作成に3ヵ月あれば患者さんに確実に届けられる。それに応じた施設の整備が必要だが、日本には実績のある施設も少なくない」と言う。

日本ではいくつかの施設が研究段階にあるが、中村医師は「治療の選択肢が無くなってしまった患者さんができるだけ参加できるように、少なくとも今年度中には民間病院主導の治験を始めたい」と準備を急いでいる。

これまでのがん治療は、「○○がんに対して有効なのはこのクスリ」というふうに、臓器ごとに対策や治療が施されてきた。しかし、今後はがんの部位は関係なく患者の遺伝子ごとのがんワクチンが作られることになるだろう。注射1本で治療すればいいという時代が目前にやってきたのだ。

写真A①、②を見れば分かるように、時間が経過してもリンパ球ががん細胞を無視して、何の変化も起きないことが見て取れる。写真Bの変化とは対照的だ

写真B①〜④ではリンパ球が、がん細胞を「敵」と見なして一斉に包囲。フル攻撃を仕掛け、あっという間にすべてのがん細胞が消えていった。まさにがん細胞が消滅する瞬間を捉えた衝撃的な写真だ

PHOTO:浜村菜月(1枚目)

取材・構成:青木直美(医療ジャーナリスト)

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