逆流性食道炎の薬で認知症になる! 処方薬「副作用」の恐怖 | FRIDAYデジタル

逆流性食道炎の薬で認知症になる! 処方薬「副作用」の恐怖

取材・文:吉澤恵理(薬剤師・医療ジャーナリスト)

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オメプラール、ネキシウムなどが脳に影響を与える副作用とは

写真:アフロ
写真:アフロ

半年ほど前――知人が勤める薬局に70代女性が息を切らせて飛び込んできた。

「美容室に行こうと家を出たら……場所がわからないの。この辺りだったのは覚えているんだけど、グルグルと歩き回るうち、いつも通っているこの薬局が見えたから入ったの」

難治性の逆流性食道炎を患い、医師に『オメプラール』を処方されて、5~6ヵ月飲み続けている患者さんだった。

のちに彼女はアルツハイマー型認知症と診断された。同時に私はつい最近の、薬剤師仲間との会話を思い出した。

「今年で80歳になる父に認知症の症状が見られるようになった。新しいことを覚えていられない。物忘れがひどい。穏やかな性格だったのに急に怒り出したりする。元気で社交的で、ボケるような生活習慣じゃない。なぜ急に――と考えるうち、思い出したんだよ。父はここ数年、『ネキシウム』を服用していた。胸やけがする、喉(のど)に違和感があると言って……」 

年齢も性別も違う、二人の認知症患者。共通しているのは、長期にわたり逆流性食道炎の治療薬を飲んでいることだ。

実は医師や薬剤師の間で、『オメプラール』や『ネキシウム』などの「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」系の逆流性食道炎治療薬が認知症を惹起(じゃっき)する可能性がある、という話は広く知られている。

PPIは胃酸の分泌を担うプロトンポンプを抑制することで、胃痛や胸やけなどの症状を改善する薬だが、副作用として「脳神経を活性化させるビタミンB12の欠乏」と、認知症の原因のひとつとされる「〝脳内のゴミ〟アミロイドβの蓄積」を引き起こすことが動物実験で明らかになっている。

人体への影響はどうか。

『ドイツ神経変性疾患センター』が行った調査が「PPIを日常的に服用している高齢患者は認知症になるリスクが4割以上高まった」と’16年に報告。昨年11月、中国の安徽(あんき)医科大学が16万6000もの症例を対象に行った調査でも「PPIの服用によって、認知症になるリスクが上昇する」と結論付けられている。

厚生労働省の『高齢者の医薬品適正使用の指針』にはこんな一文がある。

「PPIは安全性が高い薬剤であるが(中略)、長期使用による アルツハイマー型認知症のリスクの上昇についても報告がある」

長期処方が恐ろしい

まさにこの「安全性が高い」という厚労省の認識に落とし穴がある。

PPIは「副作用が少ない逆流性食道炎治療薬」として、広く中高年から高齢の患者まで長期にわたって処方されてきた。ただし、十二指腸潰瘍なら6週間、胃潰瘍や逆流性食道炎なら8週間と処方日数に制限が設けられていた。「80~90%以上の治癒が得られる投与期間である」こと、そして「長期服用によって骨折リスク、感染症リスク、胃底腺ポリープの増加などの副作用がある」ことがその理由だ。ところが、実際には多くの医師が制限を超えて患者にPPIを処方している。「再発・再燃を繰り返す難治性逆流性食道炎の維持療法のため」というコメントを付ければ、長期で処方することが可能だからである。

『ブレインケアクリニック』名誉医院長の今野裕之医師が警鐘を鳴らす。

「PPIの服用で大腿骨や股関節などの骨折が増えるメカニズムは明らかになっていませんが、胃酸の分泌が抑えられることにより、腸からのカルシウム吸収も減少するからではないかと推測されています。高齢者にとって骨折は認知機能の低下に大きな影響を及ぼすことがわかっています。胃酸が抑制されることで食べ物の消化・吸収が悪くなる可能性もある。近年、認知症との関連が注目されている腸内環境への影響もあるはずで、PPIの服用は必要最小限にすることが重要です」

本誌はPPIを製造している各メーカーに取材したが、いずれも「PPIとの関連が指摘される有害事象について情報提供を行っている」「ベネフィットとリスクのバランスを考慮いただいて、病状に応じ治療上必要最小限の使用にとどめていただくことを、添付文書を通じてお願いしております」との回答だった。

監督官庁である厚生労働省の回答は「関東信越厚生局に聞いてくれ」という不誠実極まりないものだった。医療の安全に関する取り組みの普及及び啓発を行う、とされる関東信越厚生局は次のように回答した。

 「私たちは添付文書に従うだけで、日数制限を超える場合の指導や処方日数、医師コメントなどの妥当性については、各審査支払機関の裁量となるので、私どもではわかりかねます」

冒頭で紹介した70代女性は逆流性食道炎の症状が改善して、『オメプラール』の服用を中止したところ、認知症が進行するスピードが緩んだと報告があった。

逆流性食道炎の患者が認知症になる――この悲劇は〝人災〟なのである。

逆流性食道炎の治療薬として第一に処方される「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」。治療効果は高いが、長期服用による様々な副作用が報告されている
逆流性食道炎の治療薬として第一に処方される「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」。治療効果は高いが、長期服用による様々な副作用が報告されている

『FRIDAY』2020年2月21日号より

  • 写真アフロ(1~2枚目)

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