連覇へ始動 早大ラグビー部が毎年『荒ぶる』を目指す本当の理由

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練習中の早大・相良南海夫監督。重視しているポイントはとてもシンプルだ(撮影:松本かおり)

11年ぶりに日本一の座を奪還した早稲田大学ラグビー部は2月10日に新体制を発表し、相良南海夫監督の続投が決まった。就任3年目の2020年度は、NO8丸尾崇真キャプテンとともに大学選手権連覇を目指す。戦力の有無に関わらず「どんな年も日本一を目指す」真意は何か。そこには、時代の流れを超えた哲学がある。

大事なのは、自分たちがどうしたいか

いまでこそ大学ラグビーでもフルタイムの指導者を置くチームは珍しくなくなったが、相良監督が在籍していた頃の早大ラグビー部は、他に本業を持つOBが監督やコーチを務め、週末に指導にあたっていた。平日はキャプテンを中心に学生が主体となって練習を行い、部員100人を越えるクラブを運営する。そんな環境で4年間を過ごしたことに加え、「人から言われてやらされるのが大嫌い」という生来の性格もあって、相良監督が就任後最初に部員たちに伝えたのは、「学生の自治運営がこのクラブの伝統」ということだった。

「どんな年でも日本一を目指す」

創部以来、脈々と受け継がれてきた早大ラグビー部の文化だ。しかし近年はその言葉だけがひとり歩きし、「そう言わなければならない」と形骸化しているような空気を感じていた。まずはそこを見つめ直すことから始めた。

「日本一をつかむためには、部員一人ひとりが本気でそれ(日本一)に向き合わなければ、絶対に手にできない。だからこそ『自分たちがどうしたいかが大事だ』と言いました」

そのために取り組んだのが、クラブとしての一体感を取り戻すことだった。就任前の2年間は2018年の創部百周年での優勝のために駆け足で結果を求めるあまり、トップチームに特化した強化方針に傾いていた。その結果、レギュラークラスの選手とそれ以外の部員との間に、隔たりが生じていた。

相良監督はその流れを変えた。エリートを特別扱いせず、下のチームを粗末にもせず、すべての部員に対等に接する。練習ではシニアチームからジュニアチームまで入念に目を配り、2軍以下の試合も、アウェーであっても必ず全部員で応援に行くようにした。

トップチームが抱える課題を下のチームも共有し、チーム一丸となって克服に励む。その成果が試合で表れ、たとえば格上の相手を倒す姿を目の当たりにすれば、1軍のレギュラーたちも大きな刺激を受ける。好循環は部全体に活気をもたらし、様々な波及効果を呼んだ。

そうしたクラブとしての一体感は、チーム力に直結する。きれいごとではなく、まぎれもない事実だ。必死に努力を重ねた多くの控え部員の代表であるという責任感が、ピッチに立つプレーヤーを奮い立たせる。そしてメンバー入りがかなわなかった部員がそれぞれの立場でチームのために役割を果たすことで、さらに大きなエナジーが生まれる。

「去年(2018年度)のキャプテンの佐藤真吾は、レギュラーとして試合に出られず辛かったと思います。それでも『みんなで勝ちたい』という思いを感じる発言をしてチームをまとめてくれました。今季のキャプテンの齋藤直人も、部員の前で話す時によく『みんなで』ということを言っていた。そうした彼らの言葉からも、気持ちを共有できたな、チームになってきたなと感じました」

本気で向き合うことに意義がある

選手に対してもうひとつ相良監督が強調して求めたのは、「誰にでもできることを徹底してやりきる」という姿勢だ。

パスやラン、ステップ、キックといった分野は人によって得意不得意があり、当然ながら上のカテゴリーの選手になるほどスキルは高い。一方で、地面に転がるイーブンボールをすばやく身を挺して確保したり、味方防御が突破されるや懸命にカバーリングに戻ったりすることは、能力に関係なく誰にでもできる。そうした意識次第で高められるプレーについては、レギュラーであれジュニアチームの選手であれ、厳しく追求した。

「そういうプレーはダメ出しもわかりやすいし、言われたほうは言い訳できない。『なぜいま下のボールに飛び込まなかったのか』と指摘されたら、納得せざるをえないですから。逆にいえば、やればできることだから、下のチームの選手もほめやすい。僕がラグビーについて選手に言ったのは、そういうことばかりですね」

評価の基準が明確で一貫しているから、選手は自分が何をしなければならないかはっきりと認識できる。モチベーションの上昇にもつながるだろう。同時にそうしたプレーは、常に相手にプレッシャーをかけ続け、隙ができた瞬間にたたみかける伝統の早稲田ラグビーの根幹をなす要素でもあった。

現役部員は相良監督より二回り以上下の世代。自身の学生時代とは社会環境も違えば気風も違う。そんな「今時の若者」にとって、ひとつのことに熱中し、何かを成し遂げようと懸命に取り組むことは、どんな意味があるのか。相良監督の考えはこうだ。

「今回の優勝は、彼らの積み上げてきた努力が実を結んだ結果であるのは間違いありません。ただ、荒ぶる(全国制覇した時だけ歌うことのできる早稲田大学ラグビー部の優勝歌)を歌えなかったらその努力はムダだったかといえば、そうではない。本気でそれをつかむために向き合い、取り組んだプロセスは、必ず財産になる。今年の選手たちは成功体験として今後の人生の糧になるでしょうし、負けた年であっても、本気の悔しさを味わうことは先々の人生の糧になるはずです。そういう経験って、なかなかできないですよね。それが体育会のよさ、早稲田ラグビーの良さだと思っています」

1年時から主軸を務めてきたSH齋藤直人、SO岸岡智樹、CTB中野将伍を筆頭に決勝の先発メンバーから7人の4年生が卒業し、来季は厳しい戦いを予想する声も多いが、どんな状況でも日本一を追い求めるのが、早稲田ラグビーの哲学だ。4月にはキャプテンとして桐蔭学園を高校3冠に導いたSO伊藤大祐ら将来性豊かな新人たちも入学してくる。日本一の歓喜からはやひと月。「荒ぶる」をつかむための追求の日々が、ふたたび始まった。

この瞬間を毎年、味わいたい(アフロ)
  • 取材・文直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

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