『麒麟がくる』は失速する?~戦国大河なのに苦戦する5つの理由 | FRIDAYデジタル

『麒麟がくる』は失速する?~戦国大河なのに苦戦する5つの理由

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大河ドラマ『麒麟がくる』主演の長谷川博己
大河ドラマ『麒麟がくる』主演の長谷川博己

史上最低の世帯視聴率だった前作『いだてん』を受け、19.1%で始まった『麒麟がくる』は、「好発進」「ロケットスタート」「大河復権」などともてはやされた。

ところが2話から4話まで下落を続け、3割の視聴者に逃げられてしまった。これまでに例を見ない落ち方だ。

視聴データを分析すると、いくつか課題が浮かび上がる。
戦国時代を描いたテッパンの物語のはずなのに、今作も苦戦の兆候が出ている。

不安1-例をみない序盤の急落-

長谷川博己主演『麒麟がくる』の初回終了後、NHKの木田幸紀放送総局長は定例会見で、「大変いいスタートが切れた」と語った。さらに「みんなホッとしているし、ありがたいなと思っている」と続けた。
メディアの中には、「制作トップが1年ぶりに見せた心からの笑顔」と描写する記事もあった。

ところが視聴率は、19.1%→17.9%→16.1%→13.5%と、2話以降で下落を続けた。
初回から3割の視聴者が逃げた計算になる。

この4話の後の定例会見で、木田総局長は「不安材料は全然持ち合わせていません」と強気の姿勢を貫いた。

「4話に関しては、裏番組の影響もありリアルタイム視聴率が下がったが、BSプレミアム、タイムシフト、NOD(NHKオンデマンド)の数字は高いところで安定している」と言うのである。

しかし正確に言えば、BSプレミアムが4話で大きく伸びたわけでもないし、総合テレビの下落分を補ってもいない。ましてやタイムシフトの数字は、総局長会見のタイミングでは、まだ出ていなかった。さらにNODで視聴する人の数は、放送で見る人の数十分の一にも満たない。

百歩譲って、これら3データが落ちていないとしても、これらはコアなファンの可能性が高い。つまり大多数の視聴者の評価としては、徐々に下がっている可能性を否定できないのである。

しかも4話までで3割の離脱は、これまでに例を見ない。
戦国時代を舞台にした過去7作では、『功名が辻』(06年・仲間由紀恵主演)は1割以上視聴率を上げた。『風林火山』(07年・内野聖陽)『天地人』(09年・妻夫木聡)も、多少数字を上げていた。

『江~姫たちの戦国~』(11年・上野樹里)は、ほぼ横ばい。
そして『軍師官兵衛』(14年・岡田准一)、『真田丸』(16年・堺雅人)『おんな城主直虎』(17年・柴咲コウ)は微減だった。
テッパンの戦国大河では、3割も視聴者に逃げられたのは初めてなのである(図1)。
戦国時代を描いた大河ドラマ。序盤の世帯視聴率比較
戦国時代を描いた大河ドラマ。序盤の世帯視聴率比較

不安2-女性に不人気-

苦戦の理由2つ目は、女性に人気がない点。

スイッチ・メディア・ラボ関東地区2000世帯・5000人の視聴データでは、F1(女性20~34歳)は初回から4話までに半減近くになった。M1(男性20~34歳)は全く下がっていないのと対照的だ(図2)。

年齢、性別、未婚・既婚で比較した『麒麟がくる』序盤の個人視聴率
年齢、性別、未婚・既婚で比較した『麒麟がくる』序盤の個人視聴率

実はFC(女性4~12歳)も3分の1、FT(女性13~19歳)も半分近くに減った。男性が全く減っていないのに比べ、若年女性には全く不人気だ。

未婚男性が上昇傾向にあるのと比べ、未婚女性は3分の1が4話までで視聴をやめている。
初回が高視聴率だったと分かった際、「映像がカラフルで美しい」「歴史大河ドラマの王道」と評価する記事が散見された。田園風景や登場人物の服装の眩しい色彩美を賛美し、明智光秀を長谷川博己がさわやかな草食系で演じ好感が持てるというものだった。

ところが若年女子は、そんな程度では見続けてはくれない。
映像美や設定のユニークさだけでは、初回しか持たない。やはり話の展開が面白くないと人々は見続けないのである。

不安3-高齢・単身女性は最悪-

同作を不安視せざるを得ないのは、若年女子のお眼鏡にかなっていないだけじゃない。大河ドラマの命運を握る高齢女性に支持されていない点が致命的と映るからだ。

F3+(女性65歳以上)の個人視聴率は、初回こそ20.4%と断トツに高かった。
ところその後18.5%→17.0%→13.6%と急落した。
老夫婦の間では、チャンネル権は次第に女性に移っているのだろうか。M3+(男性65歳以上)も、2話19.6%から4話15.9%とじり貧だった。

しかも独居家庭や夫婦二人のみの家でも、軒並み数字が落ちている。
独居では9.5%から6.0%、夫婦二人のみも15.3%から11.9%に減った。M1やM2(男性35~49歳)が全く下がってないことから考えると、高齢女性が離れた影響と思われる。

実は『麒麟がくる』は、2話以降で戦国の物語らしい展開をみせる。
2話の前半は戦闘シーンが続いた。そして後半は、斎藤道三(本木雅弘)が尾張と通じていた土岐頼純(矢野聖人)を毒殺する。

3話では、頼純亡き後、土岐頼芸(尾美としのり)と斎藤家をめぐる権謀術数の話が中心。そして4話は、織田信秀(高橋克典)の傷の具合を探るスパイ合戦を中心に話は展開した。

要は『麒麟がくる』は男の子大河として、合戦・調略・権謀術数などのシーンが華々しく展開する。
ところが『利家とまつ』(02年・唐沢寿明、松嶋菜々子)以来の女の子大河を好んで来た高齢女性には、露骨な上昇志向と野蛮さは支持できないのかも知れない。
大多数を占める高齢層の中の半分に離反されるとなると、『麒麟がくる』の先行きは厳しいかも知れない。

『真田丸』との比較

戦国時代がテッパンといっても、実は近年の大河は女性に見られる工夫が随所に散りばめられていた。
『利家とまつ』以外に、『功名が辻』『江』『おんな城主直虎』は女性が主人公だ。『天地人』は「利」が幅を利かせる戦国時代にあって、「愛」や「義」を重んじた直江兼続(妻夫木聡)が主人公だった。女性に共感される物語だったのである。

そして特筆すべきは『真田丸』。
家臣のきり(長澤まさみ)が、重要な役回りをみせる。物語の大きな展開は、戦国らしい「利」の戦いだが、きりの存在がクスッと笑え、感情が動くセリフを編み出していた。理屈が先行しがちな男の会話を、上手く中和していたのである。
女性視聴者も大いに引き込んだ所以である。

この辺りは視聴データにも表れている。
例えば世帯年収による個人視聴率の推移をみると、高所得世帯では『麒麟がくる』も『真田丸』も大差はない。ところが低所得世帯では、『真田丸』は回を追うごとに急伸したが、『麒麟がくる』は逆に下がってしまった(図3)。内容が大衆向けになっていない証拠だろう。

「世帯年収400万円未満」「世帯年収1000万円以上」視聴者の年収で比較した『真田丸』と『麒麟がくる』の視聴率
「世帯年収400万円未満」「世帯年収1000万円以上」視聴者の年収で比較した『真田丸』と『麒麟がくる』の視聴率

これを普段のテレビ番組の好みで比べると、傾向は明確になる。

ニュースや経済番組を好んでみる視聴者には、両ドラマとも視聴率は安定している。ところがバラエティ番組やドラマ好きの人々には、『真田丸』は安定した数字をとり続けたが、『麒麟がくる』は回を追うごとに数字が下がっている(図4)。

どうやら『麒麟がくる』は戦国大河として肩に力は入り過ぎているようだ。
合戦シーンや権謀術数を好む男性には、こうした「利」の世界は支持されるだろう。ところが人間の感情を織り交ぜた娯楽としてドラマを楽しみたい人々には、『麒麟がくる』は窮屈で共感できない物語と映る。
女性や大衆が離反している理由だ。

「ニュース好き」「バラエティ好き」:視聴者の好みで比べた『真田丸』と『麒麟がくる』の個人視聴率
「ニュース好き」「バラエティ好き」:視聴者の好みで比べた『真田丸』と『麒麟がくる』の個人視聴率

せっかく「好発進」した同作。
世帯視聴率は前例のない急落をしたのに、「不安材料は全然持ち合わせていません」と強弁せず、視聴データを虚心坦懐に分析し、支持されていない点を着実に是正していかないと、史上最低を記録してしまった『いだてん』の二の舞になりかねない。
謙虚に路線修正をして、面白い戦国大河を全うしてもらいたいものである。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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