地味に快挙!テレ東ドラマBiz『病院の治しかた』大健闘の裏側

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テレ東ドラマBiz、『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』で主演する小泉孝太郎

小泉孝太郎主演『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』が、テレ東ドラマBizの中で大健闘を見せている。

18年春に始まった同ドラマ枠は、これまで7作放送してきたが、平均視聴率は3~4%台。お世辞にも高いとは言えない。働く人をテーマにした経済ドラマゆえ、大衆受けしにくいのは仕方ないのだろう。

その中にあって今回は、4話までの平均が7%。従来の倍近い視聴者を集めている。
快挙の背景を考えてみた。

舞台が病院というアドバンテージ

ドラマBizは18年春に設けられた経済ドラマ枠。
『ヘッドハンター』(18年春・江口洋介)を皮切りに、会社の再生や組織の活性化など、低迷・停滞からの再起にかける個人と集団の物語を描いて来た。

ビデオリサーチが調べる世帯視聴率では、これまでは『ハラスメントゲーム』(18年秋・唐沢寿明)の平均4.9%が最高。『ヘッドハンター』の3.5%など3~4%台を行き来してきた(図1)。

ドラマBiz 歴代作品の世帯視聴率

テレ東らしい経済に特化したドラマで、一般受けしないがゆえの数字と言えよう。

ところが今期の『病院の治しかた』は、これまでと一線を画している。
初回8.1%は、過去7作を大きく上回った。2話以降も7.0%→7.1%→5.7%と全話で過去7作を凌駕し続けている。

これまでは企業・銀行・スーパー・商社など、ビジネスの最前線が舞台だった。
ところが今回は、視聴者の暮らしに密接に関わる病院が舞台。「地域の医療を守る」「患者にとって最善の医療」などの言葉が飛び交うが、どうやら多くの人にとって“自分事”として見られる経済ドラマになっているようだ。

視聴者が各話の途中で離脱しない展開

高視聴率の前提には、視聴者が各話の途中で脱落しない点が大きい。

父(大和田伸也)が脳梗塞で倒れ、急遽大学医学部のキャリアを捨て、有原総合病院の副院長に就任した修平(小泉孝太郎)。
ところが病院は、6年前に叔父(光石研)が理事長院長に就任して以降、多額の負債を抱え倒産寸前。しかもメインバンクは、投資ファンドへの病院売却を計画していた。

そんな中、父が息を引き取った。ここから修平の病院再建の闘いが始まる。
“抵抗勢力”は、これまでのやり方を変えたくない医師・看護師たち。さらに取引業者は親戚で、事務長は業者と癒着関係にあった。

彼らとの軋轢を、一つ一つ乗り越える闘いが始まった。そして一定のコストカットに成功した修平は、初回ラストで叔父の理事長解任と自身の新理事長就任を緊急動議する。

大抵の視聴者は病院を訪れたことがある。
ドラマで出てくる職種や用語も、ある程度親しみがある。しかもストーリーはどん底から逆転だ。それなりの関心を持って見られたようだ。

全国160万台のネット接続テレビの視聴実態を調べるインテージ「Media gauge」のデータによれば、初回を途中で見るのをやめた人はあまりいない。それどころか、途中からの流入者がたくさんいて、番組は後半で1割強も接触率を上げている(図2)。

『病院の治しかた』各回の接触率

2~4話も安定

2話では、「経営のプロ」としてメインバンクから倉嶋亮介(高嶋政伸)が出向してきた。
早速人件費抑制の議論が始まるが、医師たちから猛反発を受ける。しかも容赦のないリストラを危惧した看護師たちが、集団で辞職してしまった。

これを受けた3話。
看護師確保のため、「転職者フェア」に参加。修平の妻(小西真奈美)の機転で、看護師10人の中途採用に漕ぎ付けた。
次に修平は、24時間365日稼働する救急医療体制を作ろうとする。出向の倉嶋も、銀行を辞め病院に骨を埋める覚悟を決めた。そして救急医療体制の拡充による増収路線に賛成した。
ところが小児科の医師が、辞めてしまった。

人員不足に陥った病院は、4話で産科のリニューアルと救急医療のER化で、敢えて1年は赤字を覚悟し、次に備える道を選んだ。ところがその次の路線をめぐり、遂に倉嶋と修平が衝突する。

こうした一難去ってまた一難という展開は、視聴者を引き込む。
インテージによれば、どの回も途中で脱落する視聴者は少なく、接触率は維持あるいは微増で推移している。
企業・銀行・スーパー・商社などを舞台としたこれまでの作品と比べ、視聴者が増えた理由はこの辺りにありそうだ。

視聴者層の広がり

例えば、これまで最も視聴率の良かった『ハラスメントゲーム』と比較してみよう。
セクハラ・パワハラなど、今の時流を捉えたドラマで、経営者・会社員・1層(男女20~34歳)までの若年層によく見られた(図3)。

『ハラスメントゲーム』『病院の治しかた』の見られ方の違い

一方『病院の治しかた』は、中高年・主婦・年金暮らしの無職などの層に見られた。
地域の病院が存続できるかどうかは、こうした人々に切実な問題だ。これが世帯視聴率の差に直結したようだ。

もう1つ、面白いデータがある。世帯年収別の視聴率だ。

『病院の治しかた』 世帯年収別視聴率

これで見ると低所得層と高所得層での視聴率が高い。つまり生活に不安を抱える人々にとっては、地域の病院の問題は身近で大切なテーマのようだ。
そして高所得層にとっては、病院再建のノウハウが自らの仕事に参考となる部分があると見えているのかも知れない。

従来のドラマBizでは、中間層も含め満遍なく見られるケースが多かったが、舞台が病院となったことで、明らかに視聴者層に変化が出たようだ。

中盤・終盤への不安

4話までは大健闘をみせた同作。ただし今後については不安もある。
毎話途中の離脱者は少ないものの、初回から4話までで3割の視聴者に逃げられているからだ。
原因の一つは、主人公がぶつかる壁が比較的簡単に乗り越えられてしまうからだろう。

実は筆者は、倒産した民間病院の再建物語を6ヵ月にわたりドキュメントした経験を持つ。そのプロセスでは、容赦のない給料ダウンや人員削減があった。
医療機器や薬の購入では、裏技的な交渉と結果としての驚きの価格が出て来た。
さらに診療内容も、医療点数を上げるため、そこまでやるかという方針が打ち出されていた。

その病院がたまたま行き過ぎていたのではない。
スタジオゲストには医療経済を専攻する教授陣を招き、民間病院の8割が赤字転落という現実を前提に、その病院の実態は多少の差はあるものの、多くの病院の状況と解説された。

その経験に照らすと、ドラマの内容はやや理想論や綺麗ごとに過ぎる気がする。
4話のラスト近く、主人公から次のセリフが飛び出す。

「病院の仕事は良いもんですね。怪我や病気を治すことは、患者さんの未来を一緒につくるということですから」

恐らく研究医から臨床医となった主人公の、偽らざる言葉だろう。
しかもドラマは実話に基づいているので、モデルとなった側の本音なのだろう。

しかし、どれだけ事実であろうと、ドラマというフィクションでは、見る側の心を動かして初めて意味を持つ。
この素晴らしい言葉を実感するためには、途中プロセスの辛酸や、ついて行けなかった病院関係者の無念も必要だ。何より、そうした負の部分をどう乗り越えたのか、主人公の心の葛藤と成長が見たい。

ドラマは実話を基にしたために、モデルへの遠慮があるのだろうか。
どうにも陰の部分が手ぬるく、綺麗ごとが上滑りしているように見えてしまう。この辺りの光と影を、メリハリを以って描くと、右肩下がり気味の視聴率も上向き、面白いドラマとなるのではないだろうか。
マイナスをマイナスとして描く、勇気を制作陣には期待したい。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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