下馬評を覆しての圧勝 『恋つづ』が支持された理由は一点突破?

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視聴者に身近で等身大のヒロインとして愛される上白石萌音/写真 アフロ

かぶりまくった医療ドラマで「唯一の勝ち組」

医療現場が舞台のドラマが6作もそろった中、“2桁視聴率”と“ネット上の反響”という2つの好結果を出しているのは、『恋はつづくよどこまでも』(TBS系)だけ。他作が視聴率を落とし、ネット上の話題にならない中、同作は第6話で自己最高の10.9%を記録したほか、毎週火曜夜は関連ワードがツイッターのランキングをにぎわせている。

しかし、放送前は「スーパー外科医も正義の救命医も登場しない」「主演は22歳になったばかりでプライム帯ドラマ初主演の上白石萌音」「他局が深夜帯のみでプライム帯での放送を避けるラブコメ」など、『恋はつづくよどこまでも』は「6作の中で最もコケるのではないか」と言われていた作品だった。それだけに業界内では驚きの声をあげるテレビマンが少なくない。

現在の好結果を引き出したのは、清々しいほどの一点突破だった。

「たかが恋愛」をシリアスな医療現場で

その一点突破とは、底抜けの明るさ。恋愛至上主義だった平成初期のころとは異なり、現在はライフスタイルや価値観が多様化し、恋愛のプライオリティは明らかに下がってしまった。ドラマにおいてもしかりで、テレビマンたちの頭に「ラブストーリーでは世間の関心を集められず数字は獲れない」という意識が浸透。命をめぐるやり取りを描いた医療モノが増えていることが、「たかが恋愛」という視聴者感情を象徴している。

しかし、その命をめぐるやり取りが行われている医療現場で、「たかが恋愛」を全面に押し出しているから、視聴者にとっては痛快なのだろう。シリアスな場だからこそ、「たかが恋愛」で一生懸命になれる底抜けの明るさが際立っているのだ。

超ドSのハイスペック医師・天堂浬(佐藤健)から罵声を浴びせられても決してくじけず、素直な恋心を伝え続ける新人看護師・佐倉七瀬(上白石萌音)。天堂は七瀬に「バーカ」と言うのがお約束になっているように、バカになれる明るさが視聴者に笑顔をもたらしている。

同じ日浦総合病院で働く仲間たちも底抜けに明るい。たとえば6話では、天堂の大阪出張に同行した七瀬が帰ってくると、「おかえり勇者!」「聞いたでこの~。初デートしたんやって?」「初デートにして、初旅行!」と拍手で迎えるシーンがあった。命をめぐる医療現場であるにも関わらず「新人看護師の恋をみんなで応援しよう」という明るい職場なのだ。

そんな明るさは、今冬のラインナップでは出色。『絶対零度 未然犯罪潜入捜査』『10の秘密』『アライブ がん専門医のカルテ』(フジテレビ系)、『テセウスの船』『病室で念仏を唱えないでください』(TBS系)、『知らなくていいコト』『トップナイフ -天才脳外科医の条件-』(日本テレビ系)、『心の傷を癒すということ』『ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~』(NHK)など、息の詰まるような重苦しいムードのドラマだらけの中、当作に救いを求めるのは当然なのかもしれない。

現実世界に目を向けても、新型コロナウイルスの感染拡大や芸能人の不倫とバッシングなど、重苦しいニュースばかりの中、「ドラマくらい夢いっぱいの物語にしてほしい」という気持ちは理解できる。

女性にとってごちそうの“ディナードラマ”

そんな底抜けの明るさを決定づけているのは、ラブストーリーにおけるベタと女性の願望を徹底させた脚本・演出。ネット上に「『恋はつづくよどこまでも』を見て『イタズラなKiss』(テレビ朝日系、フジテレビ系で放送)を思い出した」という声があったように、少女漫画を立体化させたようなムードが画面にあふれている。

序盤から、ヒロインの引っ越し先は片想い相手の隣室だった。体調を崩したとき介抱してもらう。飲み会で酔いすぎてしまい、おんぶされて帰る。ベンチへ横並びで座り、肩を借りて寝る……とりわけ第4話から第6話はベタと願望を貫きまくって、視聴者のボルテージを一気に上げた。どの程度のベタと願望を映像化したのか、下記に一部を挙げてみよう。

第4話では、ストーカーに襲われた七瀬を天堂が救う。そのとき鉄パイプが落ちてきて天堂をかばった七瀬がケガをしてしまう。救急搬送され意識を失うが、ただの寝落ちで軽傷だった。搬送時に交わしたキスの約束を叶え、「これは治療だ」と言い放つ。

第5話では、患者を救ったあと天堂は七瀬に“おつかれパン”を渡して不器用にねぎらう。しかも焼き立てのチョココロネで逆バレンタインだった。さらに天堂は七瀬の勤務シフトに口をはさみ、「主任、その日はダメです。空けておいてください。一緒にメシ食います。俺の彼女だから」と、看護師たちに突然の交際宣言。

第6話では、七瀬が大阪出張の天堂を尾行。見失ってしまうが、道で老人が倒れ救護していると天堂が登場。医師の食事会へ行かず、七瀬とたこ焼きを食べてくれる。ホテルでは同じ部屋に泊まることになり、天堂は転びそうな七瀬を支えた勢いでベッドに押し倒す。七瀬がシャワーから出ると天堂は寝ていたが、実は起きていて七瀬が寝たあとにキス。天堂に亡き恋人の妹が告白したあと、七瀬にも来生晃一(毎熊克哉)が告白し、それぞれ恋のライバルが登場して四角関係になる。

その他にも、頭ポンポン、あごクイなどの胸キュンアクションが満載。そもそも天堂は「ルックス、ステイタス、年収など、格上の男性を射止めたい、愛されたい」という女性視聴者の潜在願望を叶えるようなキャラクターであり、めまぐるしくツンとデレが変わる様子に「こんなこと言われたい」「私もやってもらいたい」と感情を揺さぶられている。

これほどラブストーリーのベタと女性の願望を追求したラブコメは深夜帯にすら見当たらず、その世界観は若手イケメン俳優を複数起用した“スイーツ映画”と呼ばれるものに近い。当作の佐藤健と毎熊克哉が30代と大人の年齢であることから、女性視聴者にとってはスイーツというより、ごちそうのような“ディナードラマ”というムードがある。

“ディナー”だから女子学生だけでなく中高年女性にも響くし、今作がこのまま最後まで好結果を残したら、TBSの火曜ドラマはこの“ディナードラマ”路線が続いていくのではないか。

スポンサーも喜んで出稿するドラマ枠に

もう1つ女性視聴者の心をつかんでいるのは、七瀬のキャラクター。第6話で七瀬の同期看護師・菅野海砂(堀田真由)が「佐倉さんって凄いと思うんです。勇者だから失敗や恥を恐れず、つまずきながらも突進していく」と感心するシーンがあった。ヒロインが「いかにも女性が女性を応援したくなるようなキャラクター」であることも大きいのだ。

七瀬を演じる上白石萌音は、愛きょうが魅力の女優で美人タイプではなく、身長も152㎝と若手の中でも低い。『恋はつづくよどこまでも』は上白石の周囲を香里奈、片瀬那奈、堀田真由、吉川愛、瀧内公美ら美人タイプの女優で固めていることからも、「視聴者にとって身近な等身大のヒロインを見せよう」という意図が見えてくる。

また、そんな等身大のヒロインだからこそ、恋のペースは極めてスロー。最近の連ドラは1話で身体の関係に至るものも多く、ハイテンポかつ上下動の大きい展開がスタンダードとなっているが、当作は第4話の最後にようやくキスをした。また、6話終了の時点で体の関係はなく、「ヒロインの恋をじっくり描こう」という方針がうかがえる。

元来このようなスローペースこそ、連ドラのラブストーリーにおける王道。『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)などが放送されたラブストーリー全盛期の1990年前後は、このようなスローペースが当たり前だったが、徐々に刺激を求めてハイテンポかつ上下動の大きい展開ばかりに変わっていった。

近年の作品では、2016年に大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)もスローペース。森山みくり(新垣結衣)と津崎平匡(星野源)がキスしたのは6話だったように、「ヒロインが恋する男性と徐々に心の距離を縮め、その先にキスや体の関係があり……」というスローペースが共感度を高めているのだ。

『恋はつづくよどこまでも』は『逃げ恥』ほどブームにはならないかもしれないが、女性視聴者を引きつける形を発見できたことは大きい。この形で成功を続ければ、テレビよりもネットを優先させる若年層が「火曜夜だけはテレビに戻ってくる」かもしれないし、恋愛至上主義の時代を生きた中高年層の試聴も見込めるだろう。

若年層を含む女性視聴者の多いドラマ枠なら、スポンサーたちは喜んで出稿してくれるはずだ。その意味で『火曜ドラマ』としては、視聴率では測れない財産を手に入れたのかもしれない。

  • 木村隆志

    コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。ウェブを中心に月20本強のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、地上波全国ネットのドラマは全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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