MLBドラ1指名 7億円契約スチュワートが語る“日本での苦悩” | FRIDAYデジタル

MLBドラ1指名 7億円契約スチュワートが語る“日本での苦悩”

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宮崎でのキャンプでトレーニングするスチュワート。’18年にアトランタ・ブレーブスからドラフト1巡目指名を受けたが合意にいたらず短大に進学
宮崎でのキャンプでトレーニングするスチュワート。’18年にアトランタ・ブレーブスからドラフト1巡目指名を受けたが合意にいたらず短大に進学

プロ野球の春季キャンプがいよいよ大詰めを迎える中、ここ最近メディアから注目を集めている存在になっているのが、ロッテのドラフト1位指名の佐々木朗希投手だろう。

石垣島キャンプ最終日に初めてブルペン入りして以降、まだ捕手を立たせて真っ直ぐを投げるだけにもかかわらず、ブルペンで投球を披露する度に周囲を驚かせる様子が連日のように報じられている。彼がどこまでその才能を開花させるのか、誰しも気になるところだろう。

ところで昨シーズンもメディアを賑わせた、異色の大物ルーキーがいたのを憶えているだろうか。昨年5月にソフトバンクと契約したカーター・スチュワート・ジュニア投手(20)だ。

スチュワートといえば、フロリダ州出身のMLBのドラフト注目選手で、高校卒業後にアトランタ・ブレーブスから1巡目(全体の8番目)指名を受けた。その後メディカルチェックで右手首に異常があったということで契約合意に至らず、イースタン・フロリダ州立大(2年制大学)に進学。大学1年時に再びドラフト指名を受ける可能性がありながら直前にソフトバンク入りを選んだことで、日米のメディアが大きく報じていた人物だ。

彼の代理人がMLBで最も辣腕を振るうスコット・ボラス氏だったこともあり、プロ未経験の19歳投手に対し6年総額700万ドル(約7億7000万円)という日本では超異例な大型契約内容も話題を集めることになった。

シーズン途中での契約合意だったため、スチュワートにとって春季キャンプは今回が初参加となったが、実際にキャンプ地で彼を取材してみると、ファンやメディアから常に追いかけられる様子もなく、かなり静かにキャンプ生活を送っているようだった。

練習終わりにスチュワートを直撃し、改めて現在の心境を聞いた。

まず、初体験の日本の春季キャンプをどう思っているのだろうか。

「ここには1軍から3軍まですべての選手が集まっているから多くの選手たちと接しながらいろいろなことを学び、自分がよりいい練習ができるように心がけている。

特に日本の練習環境の中で、どうすれば自分が効果的に成長できるかを考えながら取り組んでいる。今のところはいい感じできていると思う。

今はキャンプだからシーズン中とはちょっと違うけど、自分なりの調整法を確立できている。このままシーズン中も同様にルーティンを守りながらやっていきたい」

日本の春季キャンプは米国よりも2週間近く早くスタートすることが広く知られているが、これはあくまでプロの世界の話だ。スチュワートが昨シーズン所属していた大学は2月からシーズンが開幕するため、この時期に投球すること自体に決して不慣れなわけではない。

それでも日本のキャンプで連日の走り込みや投げ込みを行い、話を聞いた2月13日は野手相手に打撃投手を務める予定だったが、コーチやスタッフと話し合い脚や肩のハリを考慮してキャンセルしている。

「日本に来られて良かった」

身長198cm、体重101kgという恵まれた体躯。カーブ、チェンジアップ、スライダーなどを投げる
身長198cm、体重101kgという恵まれた体躯。カーブ、チェンジアップ、スライダーなどを投げる

日本のルーキー選手なら初参加のキャンプともなれば、一心不乱に与えられたメニューを消化することだけを考えそうなところだが、そこはさすがに生粋の米国人。しっかり自分の考えを持っているようだ。

スチュワートの出身地フロリダ州は米国で日本から最も遠い州であり、彼が生まれたメルボルンは州東部の田舎街だ。そんな地で生まれ育った彼が来日するまで日本の野球に触れる機会が皆無だったとしても何の驚きもない。1シーズンを日本で過ごし、米国とはかなり異なる野球環境に馴染むことができたのだろうか。

「自分にとって昨シーズンは(日本を学ぶ)トレーニングであり、学習期間だった。また日本の野球への入り方も非常に良かったんじゃないかと感じている。

まず自分はリハビリチームに加わり、野球をする以前の基本部分に取り組むことができたのがすごく良かった。まずは1人で生きていかなきゃいけないので、(生活の)バランスを保つことが必要だった。

その中で日々しっかり練習に取り組んでいきながら、どうやって成長し、日本の打者と対戦していくいのかを学んでいくことができた」

結果的に昨年8月に3軍に合流し実戦登板を開始。12試合に登板し4勝4敗、防御率4.39でシーズンを終えている。成績は決して輝かしいものではないが、スチュワート自身は日本の野球環境に身を置いて野球選手として成長できるという手応えを掴むことができたのか。

「自分は米国でプロ経験が無いので日米の比較はできないが、(米国の)ジムとかでプロ選手の練習を見てきた限り大きな違いを感じていないし、それと同時に日本で経験した各選手に沿った(育成)メニューの組み方は素晴らしいと思った。チームスタッフも多くの専門家が揃っているし、そうした人たちが、すべて自分が成長するために尽力してくれる。毎日様々な人たちと接しながら練習に取り組める育成方法にもすごく満足している。

あらためて日本に来るというアイディアは素晴らしかったと思うし、今もその気持ちに変わりはない。正直に日本に来られて良かったと感じている」

スチュワートの日本球界入りは、代理人のボラス氏にとっても大きな賭けだった。MLBの現行ルールではドラフト上位指名選手といえでも高額メジャー契約を結ぶことはできなくなり、メジャーに昇格できたとしても年俸調整の権利を得られるまでは年俸をアップさせることもできない。つまりスチュワートがソフトバンクと合意した契約は、米国では絶対に不可能な高額契約なのだ。

もし彼が日本で順調に成長を遂げた後、逆輸入投手としてMLB入りして大活躍するようなことになれば、今後さらに米国のドラフト上位指名候補選手たちが自らの意思でスチュワートの後を追う可能性がでてくる。それほどに彼は日米野球界の将来を左右する存在なのだ。

「今シーズンの目標は、とにかく最善を尽くしてさらに成長していくこと。もちろん1軍で投げたいという強い思いはある。でも20歳だし、簡単ではないことも理解している。

今シーズンは昨シーズン以上に登板する機会が与えられると思うので、それをしっかり生かしながら少しでもいいパフォーマンスができるように成長していきたい」

2月20日の紅白戦では、最速153kmを計測。2回1安打3奪三振で無失点と好投したスチュワート。シーズンに入っても好調を維持できるだろうか。

バランスボールでトレーニング。来日当初はラーメンやうどんなど日本食が口に合わなかったという
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’99年11月生まれ。ソフトバンクでの背番号は2だ
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  • 取材・文・撮影菊地慶剛

    1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂英雄投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始める。20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技を取材。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、近畿大学で教壇に立ちスポーツについて論じている。

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