心愛ちゃん虐待死事件 初公判で栗原被告が見せた涙と自己弁護

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2019年1月、千葉県野田市の自宅アパートで、長女の心愛(みあ)ちゃん(10=当時)を虐待の末に死なせたとして逮捕された栗原勇一郎被告(42)の裁判員裁判初公判が2月21日に千葉地裁で開かれ、同被告は「ただ、謝ることしかできません。みーちゃん、本当にごめんなさい……」と謝罪しながらも、起訴事実の一部を否認した。

通っていた小学校で行われた「いじめにかんするアンケート」で、心愛ちゃんは勇一郎被告からの暴力を訴えていた 写真:時事

黒いスーツに青いネクタイを身につけ、坊主頭で、法廷の左奥のドアから入って来た勇一郎被告は、まず傍聴席側に向かって3秒から5秒ほど頭を下げ、次に検察席側で一礼。証言台の後ろを通り、弁護人席側へ。弁護人の隣で手錠と腰縄を外された後、傍聴席に向かってふたたび長く頭を下げた。

勇一郎被告は昨年1月22日から24日にかけて起こったとされる傷害致死罪を合わせて、6つの罪で起訴されている。時系列順に、1通目の起訴状を読み上げられたのち、持参した書面を広げ「私の気持ちを話したい……」と、長身に似合わぬ小声で、こう述べた。

「事件発生直後から今日まで、娘にしてしまったこと、しつけの範囲を超えたものだと後悔していました……。未来のみーちゃんの姿を見れることが私含めて、皆で見れること、楽しみだったのに、見れなくした……。ただ、謝ることしかできません。みーちゃん、本当にごめんなさい……。

私のしたことは決して赦されることではありません。親族始め、関係する全ての方々に心から申し上げたい、申し訳ありません。娘のためにできることは、事件としっかり向き合い、事実を明らかにすることだと思っています。そのためにはできる限り、真実を話したい……」

読み上げながら、感極まったのか時折言葉に詰まっていた勇一郎被告だったが、6つの罪については「頭部を手で殴るなど、暴行を加えたものではありません」「顔面打撲や胸骨骨折に関しては知りません」「胸ぐらを掴んだり、被害者を引き倒したり、立ち上がった被害者の大腿部を蹴ることはしていません」「リビングで両足を掴んで反らせたり、シャワーで冷水を浴びせ続けることなどはしていません」など、虐待行為に関わる多くの行為を否認した。

その後、弁護人の隣の席に戻った被告は溢れる涙を、眼鏡を外しながらタオルで拭う仕草を見せていた。

勇一郎被告が起訴された6つの事件にはそれぞれ名称がつけられている。検察側の冒頭陳述で各事件の詳細が述べられたが、対する弁護側の冒頭陳述では、同被告の行為には妻による心愛ちゃんへの暴力や、「心愛ちゃん自体が暴れて手がつけられなかったからだ」など、ことごとく「家族に原因がある」といった主張が繰り広げられた。

2008年に、妻(33)と結婚し心愛ちゃんが誕生したが、間もなく2人と別居。2011年に離婚が成立した。心愛ちゃんとは8年間離れて生きていたが、2016年に妻が被告に連絡をとったことから関係が復活し、その翌年再婚に至る。次女が産まれたのち「被告人は次女を可愛がる一方、心愛ちゃんのことを疎ましく思うようになった」(検察側冒頭陳述)という。当時、妻の実家のある沖縄に4人で暮らしていたが、勇一郎被告は妻だけを残し、自分の実家のある千葉県野田市に転居した。その後、妻を呼び寄せ、野田市での4人暮らしが始まる。ここから、虐待が始まっていったと検察側は主張している。そして起訴されている一連の事件が発生した。

『平成29年11月事件』

2017年11月上旬ごろ、野田市の自宅で当時9歳だった心愛ちゃんの頭部を手で殴るなどの暴行を加えたという暴行罪。これについて弁護側は冒頭陳述で「暴行していない。心愛ちゃんは寝相が悪く、布団をひっくり返したり、被告人らを叩いたりなどしていた。被告はそんな心愛ちゃんに布団をかけてあげたりしていた」と主張している。

この頃、心愛ちゃんの通っていた小学校で生徒を対象に「いじめにかんするアンケート」が行われ、心愛ちゃんは「お父さんに ぼう力をうけています 先生どうにかなりませんか」と、勇一郎被告による暴力を告白した。これが引き金となり、心愛ちゃんは柏市の児童相談所に一時保護されるが、勇一郎被告は虐待を認めなかった。「心愛ちゃんが嘘を付いている」ということにして妻に指示し、心愛ちゃんに「お父さんに叩かれたのはうそです」という書面を作成させ、再び4人暮らしへ至る。当初は虐待もやんでいたが、すぐにまた、始まった。それが次の事件だ。

『7月被写体事件』

2018年7月に、浴室内で、心愛ちゃんに便器を用いず排便させ、その大便を手に持たせたのち、カメラ付き携帯電話でそれを撮影したという強要罪。再び弁護側は「夜中に心愛ちゃんが騒ぎ出した。その後自ら『屈伸やります!』と屈伸を始めたのち『トイレに行きたい』と言い出した。これまでもやるべきことから逃げるため『トイレに行きたい』とトイレに行くが用を足さず、後になり嘘と認めることがあったので、いつもの嘘と思い、行かせないでいると、本当に大便をした。台所からビニール袋を持って浴室に戻ると、心愛ちゃんは大便を持ち立っていた。『どうするの?』と聞くと『撮りたければ撮れよ』と心愛ちゃんが言った」と、反論した。

この事件後、心愛ちゃんは勇一郎被告の妻に「お父さんと一緒に生活したくない」と話し、心愛ちゃんは被告の実家に預けられることになった。ところが、実家の家族が年末年始に出かける予定があることから、再び被告の住むアパートに戻されてしまう。そしてすぐにまた暴力が始まった。

『年末年始事件』

2018年12月30日から2019年1月3日まで、心愛ちゃんの両腕を掴んでひきずったのち引っ張り上げ、その手を離して体を床に打ち付け、全治1ヵ月の顔面打撲と胸骨骨折を負わせた傷害罪。「宿題を途中で投げ出したので注意すると、心愛ちゃんが暴れ出した。いつも以上に暴れ出し、洗濯機に身を乗り出すなどの行動をとった。体を確認すると痣があった。この時被告人がしたことは、暴れるのを止める行為だった」(弁護側冒頭陳述)とこちらも、心愛ちゃんに問題行動があったためだと主張している。

年末年始にかけて勇一郎被告による虐待を受け続ける心愛ちゃんを守ろうと、止めに入った妻に対しても、次の事件を起こしたと、検察側は主張している。

『妻への暴行事件』

2019年1月1日ごろ、自宅のリビングで妻の胸ぐらを掴み、顔面を平手打ちし、体を引き倒し、馬乗りになり、立ち上がった妻の大腿部を足で蹴るなどの暴行罪。これも勇一郎被告側は「妻は見境なく周辺に当たる。ちゃぶ台をひっくり返し、ストーブの柵を壊し、ソファの上に置いているものをなぎ倒す。長女や次女を蹴ったり、足で椅子や机を蹴る。妻の暴力を静止するために止むを得ず馬乗りになり頬を平手打ちした」(弁護側冒頭陳述)と、妻に問題があったと主張した。

勇一郎被告は、年末年始に心愛ちゃんに負わせた怪我の発覚を恐れ、心愛ちゃんを実家に再び預けることができなくなった。そのため年始も4人で過ごし、1月2日から3日にかけて予定していたディズニーランドのある浦安市のホテルや、沖縄のホテルの宿泊予約をキャンセルした。「自分が心愛ちゃんに傷害を負わせ旅行ができなくなったのに、心愛ちゃんに責任転嫁をして、浴室に立たせ続けた」(検察側冒頭陳述)という。それが次の事件だ。

『1月立たされ事件』

同年1月5日ごろ、心愛ちゃんに対してリビングで「責任取れよ、大晦日に戻せ、時間戻してくれよ。俺、お前のことなんか何も信用してねえよ。生活あんだよ、お前と違って。全部お前のせいで台無しだよ。風呂行けよ、行け」など語気鋭く告げ、心愛ちゃんを怖がらせたうえ、首を横にふったり、妻に助けを求める心愛ちゃんを掴んだり「いいよ早く!」などさらに怖がらせて浴室に行かせ、脱衣所に立たせ続けたという強要罪。

こちらも勇一郎被告によれば「心愛ちゃんの生活態度に端を発する」(弁護側冒頭陳述)などという主張となっていた。「立たせたりは事実だが長時間ではない。暴れているのを押さえつけようとしただけ」(同)という。

1月7日に小学校の新学期が始まったが、顔に暴力の跡が残ったため、勇一郎被告は「心愛は妻の実家の沖縄にいる」と小学校に電話をかけ、学校を休ませ続けた。新学期から、次の事件で死亡するまで、心愛ちゃんは学校に1日も通えなかった。

『傷害致死事件』

同年1月22日の夜から24日の夜にかけて、心愛ちゃんに食事を与えず飢餓状態にするとともに、リビングや浴室に立たせ続け、肌着で浴室に放置し、浴室内で濡れた肌着だけを着用した心愛ちゃんに「5秒以内に脱げ」と命じ、その後冷水を浴びせ「シャワーで流せよ、なんでお湯なんだ」と言うなどしたほか、リビングにうつ伏せにさせ、その上に座り、足を引っ張って体を反らせたり、寝室に入ろうとした心愛ちゃんに「ダメだから」と言い、浴室に引っ張り込み、顔に冷水シャワーを浴びせ、ショックによる致死性不整脈または溺水により死亡させた傷害致死罪。

これも弁護人は「お漏らしした心愛ちゃんに対し、被告人は、廊下を掃除させようとした。ところが心愛ちゃんは嫌がり、寝転び暴れ出した。浴室で激しく抵抗したため、落ち着かせるためにシャワーを顔にかけたが、長くても1回2〜3秒。3回目ぐらいで、両手で顔を触ったため、やめた。シャワーをシャワーかけに戻そうとした時、ドンという音を立てて、心愛ちゃんの体が床に滑り落ちた。名前を呼んだが反応がなく、体をゆすり、シャワーをかけたり、妻に伝えたりした」(弁護側冒頭陳述)と主張している。

検察側は「審理が進むにつれ、被告人の行為がいかに酷くむごいか、自ずと明らかになる」と述べたが、弁護側は「釈然としない対応の児童相談所に不信感を抱き、家族を守らないとという強い決意を抱いた。被告人としては幸せな家庭を築きたいと考えていた。家族を愛していて、幸せになるためにどうしたらいいか、意識していた。反面、何事もきっちり決めないと気が済まない性分でもあった。あくまでも心愛ちゃんの教育としての行動であり日常的な虐待ではない」と、日常的に虐待は行なっていないと主張し、双方の言い分は大きく食い違っている。

冒頭陳述の間、勇一郎被告は顔を赤くしながら泣き続け、しきりにタオルハンカチで顔をぬぐっていた。

勇一郎被告の両親と妹、その娘が住む家に心愛ちゃんは3度、身を寄せている。3度目に、勇一郎被告の母親と妹は、虐待に気づいた。初公判の午後に読み上げられた勇一郎被告の父の調書にはこうあった。

「再び自宅で生活するようになった心愛の体に痣があったと、妻と長女から聞いた。長女は『家族だろうが児童相談所に通報すべき』と言ったが、私たちが通報することはなかった。勇一郎が虐待をしていると認めたくなかった気持ち半分、自分の息子を通報することに抵抗があった気持ち半分だった。実際、勇一郎が心愛を虐待しているところを見たことがなく、心愛も血だらけになっていたわけではなく、確信がなかった。

しかし、今から考えると、私は現実から目を背けていて、息子が孫を虐待していることを信じたくなかっただけだと言われれば言い逃れしようがない。通報すれば勇一郎は逮捕され、仕事を失い、家庭が壊れてしまうと考えた。仮に虐待があるとしても、今回のようなことはしないだろうという甘い考えで、しっかり仕事をして家庭を築いて欲しいという気持ちで通報に抵抗があった」

心愛ちゃんへの虐待も酷いものではないだろう、家族がバラバラになるよりは……そう考え、息子の虐待をうすうす知りながらも、見逃したのである。児童相談所による心愛ちゃんの一時保護についても、勇一郎被告から「誘拐みたいなことだ」と言われていたため、児童相談所に悪感情を持っていたという。勇一郎被告の妻についても、同被告から「育児放棄だと聞いていた」ため「悪感情を持っていて、息子の妻だと認めてなかった。家にも入れていない」という。息子の言い分を盲信し、結果的に様々なサインを見逃したのか。

証拠調べでは、勇一郎被告の所有していたパソコンに保存されていた動画データも再生された。2017年11月に撮影された動画には、心愛ちゃんが泣き叫ぶ様子が映っていたようだ。法廷の大型モニターの電源は切られており、その姿を傍聴席から確認することはできなかったが、生前の心愛ちゃんが泣き叫ぶ悲痛な声が法廷に響き渡った。裁判員の1人が動揺したようで、この直後、予定外の休廷が言い渡される事態に。のち、裁判員が交代となった。

冒頭陳述の間は、ずっと顔を赤くし泣いていた勇一郎被告だったが、その音声が流れる間、全く表情を崩すことはなかった。審理は3月上旬まで続き、判決は3月19日に言い渡される見込みだ。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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