紗倉まな26歳の新作 高齢者や母親の性衝動がリアルな理由

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2月27日に小説集『春、死なん』を上梓した紗倉まな

人間から「性衝動」は切り離すことが難しい。誰もが強く意識しながらも見ないようにフタをした経験があるだろう。「高齢者の性衝動」を題材にした小説『春、死なん』は、主人公を取り巻く家族の話を現実感たっぷりに、ときに幻想的に描写している。70歳の男性を主人公にして小説を綴ったのは、26歳のセクシー女優・紗倉まな。なぜ、自分の祖父でもおかしくないような年齢の男性を主人公にしたのか。「母の性」を描いた『ははばなれ』との2作品の着想は、意外と身近な場所にあったという。身近なタブーがまとめられた小説集『春、死なん』では、彼女の独特な観察眼と濃密な表現を体感することができる。

――『春、死なん』のテーマは、これまで世間的にあまり顧みられてこなかった「老人の性」がテーマ。紗倉さんの年齢から考えると、主人公はご自身と遠い存在なのでは?

本業でもあるAVのDVDリリースイベントへいらっしゃる方は、若い方よりも高齢の方が比較的多いのですが、その方々と接していくうちに、人の性への欲求は年齢を重ねるとどう変化するのか興味が湧きました。さらに、東京五輪が近付いて成人雑誌の販売規制が行われたことで、これまでコンビニや書店で成人雑誌を買っていた高齢者の方々がどうやって性欲を処理するのか、というのも気になって…。書くきっかけは自分が属していた業界や仕事から得たものが大きかったです。

――ネットで動画を観たり、購入したりという習慣がない世代は、身近な雑誌に頼るしかない。主人公の富雄も、妻を亡くしてからは、もっぱら買った成人雑誌で性欲を処理していた。そんなときに、ある偶然から学生時代に一夜をともにした女性と再会し、関係が発展して行きますね。

性を分かち合える人とタイミングよく出会って、そういった関係になるって、少し奇跡的ですよね。若いころは向こう見ずだからこそ、衝動に任せて突発的に動けることもありますが、どうしても年を取るにつれ慎重になってしまうのかなぁと。人は経験を積むほど、“こういう段階を踏んだらどうせこういう展開になるだろう”と、決めつけて動きが鈍くなるものですが、昔の関係を思い返してアグレッシブになれるのは、物語だからこそ描けた“衝動”なのかもしれません。

――主人公は行為中にもかかわらず、亡妻の顔がよぎってしまう。よく“過去に愛した人のことが忘れられない気持ちは男性のほうが強い”というが、紗倉さんは昔の恋愛を振り返るタイプ?

恋愛における男女差の例として、男性はファイルに名前をつけて保存をし、女性は上書き保存をすると言われているように、“あいつは俺を今も愛してくれているに違いない”と思っている男性はもしかしたら多いのかもしれません。主人公の富雄もまさにその一人。私は、昔付き合った人を時に思い出すことはありますが、いまだに自分のことを好きでいてくれているとは思いません。

紗倉まな 撮影:岡田康且

――主人公は息子の家族との二世帯住宅。物理的な距離は近いのに、心理的な距離感には隔たりがある。この対比も読みどころになっている。

私も昔、2階が我が家で1階が祖母の家という二世帯住宅に住んでいました。でも、あまり行き来をした記憶がなくて。特に何かがあったわけではないんですが、今振り変えると、形だけ一緒に住むことの違和感に触れたくなかったのかもしれません。そういった経験も、小説に影響していると思います。

――世間一般が考える嫁姑関係のように、主人公の妻と息子の嫁の関係は良好には見えない。「賢治」は自分の親と、結婚相手とをつなぐ“架け橋”、キーパーソンなのに、うまく機能できない。そのことに嫁姑どちらも憤っているように感じます。

“女性同士は、生まれながらに敵”なんてよく言われますよね。その一方で、女性同士って嫌だと感じる部分がすごく似ていて、一番の仲間にもなれると思うんです。作中では、「賢治」というひとりの男をめぐって「自分の本音に気づいてほしい」と願う母と、「自立した男性に変わってほしい」と願う妻が微妙な距離を保っています。どちらも「賢治」を愛しているライバルでありながら、彼の欠点に対しやるせない思いを募らせる同志でもある。嫁である里香は、本当は姑である喜美代にもっと歩み寄りたかったんじゃないかと思っています。

――それに対して「賢治」の発言は、2人の想いに全く気が付いていない。義母の想いを察した妻は、自分本位で配慮に欠ける夫に憤慨している?

賢治って言ってしまえば本当に鈍感なんです。本人に意地悪をしているつもりはさらさらなくて、二世帯住宅も自分たちがお金を出して、しっかり親孝行しているという意識なんですよね。なのに、浅はかが故、その気持ちが相手にまっすぐには伝わらない。賢治のような人はまれにいて、自分が傷つきたくないがために事実を都合よく捻じ曲げて、それの障害になる部分は他者を傷つけることで補おうとするんです。こう言うとまるで彼ひとりが恐ろしい人間のようですが、実は誰しもが何かのきっかけでそうなってしまう可能性があると思っています。だからこそ怖いんです。

――終盤で登場人物それぞれが次の段階に進む一歩を踏み出したように感じました。

この小説のテーマの主軸は「強いられた役割からの解放」です。誰にでも自分の役割はあると思いますが、それに縛られ続けている人たちもたくさんいます。主人公でいえば、世間一般に求められる「清く正しいおじいちゃん」という理想像に本当は近づきたいけれども、できない。押し付けられた役割から解放されていかないと、本来の、自分が希望する幸せにはたどり着けない。彼に限らず全員を解放させてあげたいと思って書きました。

――ちなみに紗倉さん自身は何かから解放されたい思いはありますか。

自分で自分を役割に縛り付けているところはあると思います。例えば、何か文章を書く時にちょっと凝った言い回しを使うと、「AV女優が背伸びしてる」なんて言われたこともたくさんあって、毎回原稿を出す際に「またそんな風に思われたら悲しいな」と心配になったり……。最近になってようやく、あまり気にしないようにしよう、と前向きに思えるようになりました。

紗倉まな 撮影:岡田康且

――『ははばなれ』では夫を亡くした母親とその娘をつなぐモチーフとして、帝王切開の手術痕が登場した。出産を経験していない紗倉さんが、このモチーフに着眼した理由は?

私自身が帝王切開で生まれたんです。だから母にはその生々しい傷痕が残っていました。私はまだ出産を考えていないし、そもそも結婚するかも分かりませんが、子供を産むという大きな出来事を目の前にしたときに、女性は自分の体に一生残る傷跡を刻む可能性があるのだというのは、考えたいテーマでした。

――母親が娘から独立していくきっかけを、自らが子どもを作ることの意味と合わせての丁寧な描写に惹きつけられる。経済的な独立は「自立」とも捉えられるためわかりやすい。一方、精神的な独立は尺度がないため判断しがたい。紗倉さんは、『ははばなれ』できている?

母と私はよく連絡をし合う仲で、普段はかなりくだらないLINEのやり取りをしているんです(笑)。でも、ふと実家に帰って母親を目の当たりにした時に、背中が小さくなったなあと感じて胸が締め付けられる。そういったときに、実際はまだまだ依存している母親への想いに気づかされますね。

――作家業のほか、成人向けの映像作品への出演や、ニュース番組のコメンテーター、歌手活動……。自らを“えろ屋”と称して活動しているが、その経験が小説を書くときに生きるのか。

「老人の性」と「母の性」というテーマは、この職業でなければ着想しなかったかもしれません。ただ、AVはひとりでは作れませんが、小説は編集者さんの手助けはあるものの、根本的なところはひとりで考え出すもの。そういう意味では、行為としては異なる点も多いです。

――『春、死なん』はかなり純文学的。今後、編集者から「本屋大賞のようなすごいエンタメを書いてほしい」と言われたらどうします?

最近気がついたんですが、私が思うエンタメ的な面白さって、ちょっとずれているみたいなんです。「これは笑うだろう……」と確信をもって書いた箇所が、マネージャーさんや編集者さんには「暗い! 怖い!」と言われたりして。もしそういうお話を頂けたら自分なりに精一杯頑張りますが、ご期待に応えられなかったらすいませんと先に謝っておきます(笑)

『春、死なん』は、普遍的な問題意識を豊かな想像力でリアルに描き、紗倉まな独特の感性で言葉を重ねた、贅沢な「純文学作品」なのだ。

紗倉まな 撮影:岡田康且
紗倉まな 撮影:岡田康且
紗倉まな 撮影:岡田康且
  • 取材・文成相裕幸撮影岡田康且

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