鳥取6人不審死事件 35歳ホステスが男性を次々篭絡した妖艶手口

平成を振り返る ノンフィクションライター・小野一光「凶悪事件」の現場から 第42回

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自宅で子供を抱く上田美由紀。料理は得意でなく、たまにする程度だったという

日本を震撼させた男性6人の不審死事件。犯人として逮捕されたのは、鳥取市内の当時35歳のホステス・上田美由紀だった。決して美形とは言えない彼女が、どうして男性たちを次々と篭絡できたのか。事件を現場で取材した、ノンフィクションライターの小野一光氏が深層に迫る。

詐欺容疑で逮捕された女がいて、彼女の周囲で男性が次々と”不審死”している――。

そんな情報がもたらされたのは、’09年11月初旬のこと。11月2日に逮捕された女は、鳥取県鳥取市に住む上田美由紀(逮捕時35)。美由紀が過去に2度の結婚を経て、3女2男の計5人の子供たちと住むという同市内のアパートを訪れた私は、まずその尋常ではない”ゴミ屋敷”ぶりに言葉を失った。

家賃2万5000円、8畳一間という部屋の前には、ビニール袋に入った大量のゴミや子供の自転車、オモチャなどが積み重なっている。さらに自宅前に停められた白い軽自動車のなかにも、衣類や生活用品の入ったビニール袋がぎっしりと詰め込まれていた。

身長は150㎝ほどで体重は70㎏以上という美由紀は、かつて鳥取市内にある大柄な女性ばかりが働くスナックで、ホステスとして働いていた。在京テレビ局の報道情報番組のディレクターは言う。

「連続不審死が明らかになるきっかけとなったのは、今年(’09年)10月7日に、鳥取市内を流れる摩尼川で、同市で家電販売店を経営するAさん(死亡時57)の遺体が発見されたから。じつはAさんは美由紀に総額100万円近い家電製品を販売していて、その集金に出かけた翌日に変わり果てた姿で発見されています。Aさんの遺体には暴行を受けたような痕跡があり、体内からは睡眠導入剤の成分が検出されたそうです」

それにより、Aさんを含めて美由紀の周辺にいた6人の男性の”不審死”疑惑が浮かび上がってきたというのだ。しかも、そのなかには新聞記者や警察官もいたという。

彼女のまわりで最初に死亡したとされる男性は、全国紙の新聞記者Bさん(死亡時41)。彼は’04年5月に鳥取市郊外の線路上で、段ボール箱を被った状態で列車に轢かれて死亡した。彼は〈美由紀に会って本当の愛を知った〉との走り書きを残しており、鳥取県警は自殺と断定していた。Bさんはホステス時代の美由紀と知り合って交際を始め、彼女に貢ぐなどして多額の借金を抱えていたという。

次に死亡したのは、当時美由紀と同居していたCさん(死亡時27)。彼は’07年8月に、美由紀から誘われて貝採りに出かけた海水浴場の沖合で溺れ、その後死亡していた。Cさんの親族は、彼が同居中に美由紀からDVを受けていたと語る。

「『家賃を払え』とフライパンで殴られたり、ロープで縛られていたこともあった。一度、Cが実家に逃げ帰ったことがありましたが、美由紀が家に乗り込んで、足蹴にして連れ戻しています」

‘08年2月には、島根県警の刑事であるDさん(死亡時40代)が、同県内の山中で首を吊った状態で発見され、Bさんと同じく自殺として処理されている。妻子のいたDさんは、情報収集のために立ち寄った店で美由紀と知り合い、交際に発展していた。

なぜ美由紀に男性が惹かれたのか

上田美由紀が男性に送ったラブレター。達筆で手慣れた文章の上手さが目をひく

続いて、’09年4月に美由紀の元交際相手だったトラック運転手のEさん(死亡時47)が、鳥取県北栄町の沖合で水死体となって発見されている。そしてすでに記した’09年10月7日のAさんの遺体発見に続き、20日後の10月27日には美由紀の隣のアパートに住む知人のFさん(死亡時58)が死亡している。ひとり暮らしのFさんは、同年9月に美由紀から借りた車を運転して追突事故を起こすのだが、その頃から急激に体調を悪化させ、美由紀が自宅に食事を運ぶようになっていた。

このFさん、さらにAさんとEさんの体内からは同じ睡眠導入剤の成分が検出されている。Fさんをよく知る人物は、私の取材に次のように話す。

「Fさんが体調を崩したのは事故の前後。それまでは普通に散歩に出ていたのに、『たまに頭がボーッとするんだわぁ』と言うようになりました。事故のときも『頭がボーッとなったけぇ』と説明しています。この事故で相手の車の修理代金や治療費などを美由紀夫婦(内縁の夫)が肩代わりし、Fさんは生活保護で受け取ったおカネから彼らに毎月支払うことになっていました。9月末にはFさんは6万円を彼らに支払っています。亡くなる日の前日、Fさんはすでに半分昏睡状態で、部屋のドアは開けっ放しでした。私が午後8時半ごろにFさんの部屋を覗いたら、美由紀夫婦が部屋にいて、笑いながらふたりでなにか話をしていました。そのため部屋には入らず、Fさんの様子も見ていません」

美由紀と付き合いのある同じアパートの住人は明かす。

「美由紀は薬のことを『眠剤(ミンザイ)』と呼んでいて、隣人のオバサンが美由紀に『眠剤を貰った』と話してました。どうも大量に貰っていたようで、私がいる前でそのオバサンが『飲んでいい?』と美由紀に聞くと、彼女はきつい口調で『そんなこと、いちいち言うもんじゃないやろう』と注意してました。私自身も美由紀に眠剤を『やろうか?』と言われたことがあります」

結果として、美由紀が逮捕・起訴に持ち込まれたのは、AさんとEさんについての2件の強盗殺人と、その他15件の詐欺、さらに1件の住居侵入窃盗である。彼女には’12年12月に鳥取地裁で死刑判決が言い渡され、その後、’17年7月に最高裁が上告を棄却したことで、死刑が確定した。

この事件について、なぜ美由紀にかくも多くの男性が惹かれ、欺かれてきたのかとの疑問が残る。美由紀の元交際相手の男性(当時66)から、彼女の手練手管について話を聞くことができた。少々長いが掲載する。

「美由紀とは’05年の秋に、向こうの勤めていたスナックで出会ったんやけど、最初の頃から積極的やったね。俺が肩がこると言ったら、塗り薬を持ってきたから『うちの車に乗って』と言われ、いきなりラブホテルに連れて行かれたんや。それで『ここで塗るから脱いで』と。女にホテルに連れ込まれたのは初めてやったね。それから付き合いが始まったんやけど、1ヵ月もしないうちにカネの無心が始まった。美由紀がずるいのは、子供をダシにすること。向こうの長男が一緒におるときに、あいつは長男に俺のことを『お父さん』と呼ばせるのよ。それで、子供の口から『お父さん、一緒に暮らそう』と言ってくるわけ。そら、その気になってしまうやろ。一緒になるんやったら、いろいろしてやらなあかんと思って、カネを都合するようになったんよ。

で、それからは、新居を借りるための費用とか、美由紀が心臓と腎臓が悪いからその入院費を出してくれ、というような感じで、どんどんおカネを無心してきたね。たとえばある月なんかは、一緒に住む家を借りたからと言って、そこの水道工事費に15万円、それから畳を替えるのに8万円、そんなこんなが積み重なって、月に80万円近く出したこともあった。これまでに現金で300万円くらい、指輪とかの貴金属は150万円分くらい渡したと思う。前はダンプの運転手をやっていて稼ぎも良かったけど、仕事を辞めた後やからね。貯金とかはなくなって、借金しか残ってない。

あいつは新居を借りたと言ったのに見せようとはしなかったね。さらには預けてた指輪を返してくれと言ったら『お母さんに渡した』とごまかす。もう、とにかく嘘ばっかりなんよ。あるときなんて、『子供ができた』と言ってきたこともあったよ。まあ途中で『忘れてくれ』と向こうが折れてきたけどな」

この男性は美由紀が内縁の夫と暮らしていることを知り、彼女と距離を置くようになったという。もしそうでなかったら、どのような運命を辿っていたかは定かではない。

新聞記者(右端)と上田美由紀の家族。当初、記者は自殺したとされていた
上田美由紀が生活していた部屋。カビだらけで悪臭を放っていた
上田美由紀は教育に熱心でなく、つき合っていた男性が子供たちを学校に通わせていたという
美由紀の交際相手に5人の子供の連名で送られた手紙
  • 取材・文小野一光

    1966年生まれ。福岡県北九州市出身。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーライターに。アフガン内戦や東日本大震災、さまざまな事件現場で取材を行う。主な著書に『新版 家族喰い 尼崎連続変死事件の真相』(文春文庫)、『全告白 後妻業の女: 「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)、『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』 (幻冬舎新書)、『連続殺人犯』(文春文庫)ほか

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