アカデミー賞受賞『パラサイト』のロケ地住民が激怒している理由

ソウル市麻浦区に観光客殺到のかげで起きている皮肉なトラブル

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映画で何度も登場した阿峴洞1区の町並み。主に、半地下住民をはじめとする低所得者層が居住している

「俺たちが住む麻浦(マポ)区は建物が老朽化し今にも壊れそうだ。それに比べて周りの地域には高層ビルが連なっている。2年前に再開発計画が持ち上がったときは、『俺たちの地域の家屋が建て替えられ資産価値が高まる』とありがたく思ったよ。ところが、映画のせいでこの地区を観光地として保存する案が浮上しているそうじゃないか。そんなこと許せないよ」

映画に登場した「豚米スーパー」の店長・李正植(イジョンシク)氏はそう語り溜め息をつく。

2月9日、第92回アカデミー賞授賞式が開催され、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が非英語作品として史上最多の4冠に輝いた。映画の舞台となったソウル市麻浦区阿峴洞(アヒョンドン)1区には世界中から観光客が殺到している。

いま、この阿峴洞1区の行く末をめぐり、一部の住民と行政の間で大トラブルが持ち上がっている。進行中だった再開発計画が中断されそうなのだ。

「麻浦区はソウル市西部の漢江(ハンガン)を望む地域。バーや大学、サッカーW杯で会場となった競技場もあり、近代的なビルが建ち並んでいます。しかし、映画のロケ地となった阿峴洞1区だけは’70〜’80年代に建てられたアパートや半地下住宅が密集し劣悪な環境にある。とくに半地下からはカビや下水の臭いが漂います。

現状を変えるため、2年前にソウル市主導で住宅建て替えを主な内容とする再開発計画が始まった。住民投票も行われ、結果は再開発賛成が多数となりました」(麻浦区広報課のソン・インス氏)

しかし、映画人気により観光客が急増すると、ソウル市は「再開発より景観を保存して観光客を呼ぶほうが儲かる」と方針を転換。住民の反発を招いている。

「阿峴洞1区には現在、韓国国内だけでなく日本、アメリカ、フランスなどから観光客が殺到している。実際、映画に登場した『豚米スーパー』は商品の品切れが続出するほど人気だと聞く。観光客用のトイレ、フォトゾーン、案内板などを設置し、その他の景観はそのまま保存することで、再開発以上の経済効果を見込むことができます」(ソウル市職員)

冒頭の李氏はこう怒りを露(あらわ)にする。

「行政は観光客にこの街の貧しさを自慢するつもりなのか。俺たちが住む家屋は壁が薄く防音設備もないのに、団体客が押し寄せては通常の生活もままならない。しかも、映画ブームなど一過性のもの。数年後には、うちのスーパーを訪れてくれる観光客もいなくなるだろうね。俺たちの生活を完全に無視して一時の儲けのために再開発を中断するなんて、行政は何を考えているんだ」

『パラサイト』は貧困にあえぐ住民を主人公にした映画だ。その人気により、同じく貧困にあえぐ人々が窮地に陥っているとは、何とも皮肉なことである。

観光客が殺到している「豚米スーパー」の店長・李氏とその妻。本誌の取材に対し、「観光地化は望んでいない。再開発を優先すべきだ」と語った

『FRIDAY』2020年3月6日号より

  • 撮影横田徹

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