ワタミ新ブランド「ミライザカ」が激増中の理由

飲食戦国時代の勝者か

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東京・渋谷のセンター街には、大手チェーン店や新興チェーン店、個人営業店など、ありとあらゆる業態の飲食店が集まる

駅前から居酒屋「和民」がどんどん姿を消しているのをご存知だろうか。代わりに店舗数を急増させているのが、唐揚げを売りにする「ミライザカ」だ。

経済ジャーナリストの長浜淳之介氏が解説する。

「『ワタミ』はかつて過労自殺事件があり、ブラック企業というイメージがついていました。それもあって、和民や『坐・和民』をミライザカに、低価格帯の居酒屋『わたみん家』を『三代目鳥メロ』へと看板を掛けかえました。ミライザカでは『モモ一本グローブ揚げ』(999円、税別=以下同)が人気で、名前のとおり、グローブのような大きさの唐揚げがインスタ映えすると若者に人気です。

『魚民』などを展開する『モンテローザ』や、グループ企業『レインズインターナショナルCWカンパニー』が『北海道』や『やきとりセンター』他を運営する『コロワイド』では、グループ内での総合居酒屋の地位がどんどん小さくなっています。『庄や』を展開する『大庄』は、近年、高級デニッシュ食パン『MIYABI』の販売とカフェを始めています」

その結果、既存の居酒屋同士の客の奪い合いが激しくなり、その戦いが「ゲリラ戦」と化している。ここ数年の居酒屋業界をリードしてきたのは、「串カツ田中」と「鳥貴族」だった。

居酒屋界のマクドナルドに

『居酒屋チェーン戦国史』の著者で外食ジャーナリストの中村芳平氏が話す。

「’08年のリーマン・ショックが外食産業に与えた影響は甚大で、いくつもの飲食店がのれんを下ろしました。串カツ田中の創業者で串カツ田中ホールディングス社長の貫(ぬき)啓二氏も当時、東京の表参道で京懐石の高級店を構えていましたが、大きな借金を抱えてしまった。ダメ元で世田谷区の住宅地の真ん中に串カツ店を出し、それが当たったのですから居酒屋経営はわかりません。

居酒屋業界では他社に先駆けて全席禁煙にしましたが、これは時流を先取りしただけではありません。貫氏は、日本マクドナルド創業者の藤田田(でん)氏がやったことを、自分もやろうと考えたのだと思います。藤田氏は『人間は12歳までに食べてきたものを一生食べ続ける』と子供にハンバーガーを売った。その子供たちが大人になり、自分の子供にハンバーガーを食べさせるようになった。これと同じことを串カツでしようというのが、串カツ田中の野望といえます。マクドナルドによってハンバーガー文化が日本に根付いたように、串カツ田中で全国に串カツ文化を根付かせる。うまくいくかは未知数ですが、貫氏は10年、20年後を見て経営していることは確かです」

なぜハイボールは安いのか

国産の食材を使い、298円均一のメニューというスタイルを確立させたのが、大阪発祥の焼き鳥屋「鳥貴族」である。

「’17年に280円均一から値上げして騒がれましたが、298円であのクオリティはそうそう出せないと思います。メニューの品目も多いし、一本一本店内で串打ちするこだわりもあります」(フードビジネスコンサルタントの永田雅乙氏)

鳥貴族のスタイルは、リーマン・ショック後、不況に落ち込んだ日本社会で圧倒的に支持され、一人勝ちの状態に。それに触発されたのが「養老乃瀧」だった。

「同社執行役員の谷酒匡俊氏が大阪で鳥貴族を見て『これはすごい業態だ』と驚いたそうです。まだ全国進出が本格化していない段階で、谷酒氏は鳥貴族に対抗し得る店を考え、『一軒め酒場』を作りました。100万円以上かかる焼き場を外すなど、初期投資や維持費、人件費を抑え、1500円で座って飲み食いできる居酒屋に仕上げたのです」(前出・中村氏)

別業態で価格競争に正面から挑む会社もあれば、業態を丸ごとコピーしてしまう企業もある。B級グルメ探究家の柳生九兵衛氏が言う。

「モンテローザには、鳥貴族を明らかに意識した『豊後高田どり酒場』というお店があります。ここは鳥貴族よりも安い280円均一です。さらに2時間飲み放題が1000円と圧倒的なコストパフォーマンスです。パクリと批判されることもありますが、先行するサービスを徹底的に研究し、それよりも値段を抑えて提供することは、客の側から見れば咎められるようなことではまったくありません」

一方、レインズインターナショナルが展開する「甘太郎」は独自の品揃えを模索する。居酒屋なのに「ごちそうポンドビフテキ」(2499円)などの豪快な肉料理を充実させ、さらに焼き肉食べ放題を関東19店舗で実施している。

それとは対照的に、女性客を意識した店作りを行っているのが、名古屋生まれで全国に展開しつつある唐揚げ居酒屋「がブリチキン。」だ。

「東京にまだ20店舗なので知らない人が多いかと思いますが、本当に女性客が多いです。要因の一つに、’09年頃から流行ったハイボールの存在があります。『がブリチキン。』では、果物を漬け込んだウイスキーで作る『漬け込みハイボール』が、おしゃれに飲めると人気です。 

実はハイボールブームは居酒屋にとっても追い風でした。生ビールに比べて原価が安く、390円で出しても赤字にならないからです。居酒屋にとっては救世主のような存在でした。だから、ハイボールを売りにした居酒屋が次々と生まれたのです」(前出・永田氏)

競争の激しい大手チェーン店の間隙をついて、さらなる拡大を狙う新興チェーンにも面白い業態がある。たとえば、東京都北区赤羽がルーツの「晩杯屋(ばんぱいや)」は、マグロ刺しが200円、煮込みが130円(ともに税込み)と安さが売りだ。

「立ち飲みだから可能な価格設定です。今は客単価が2000円以下の居酒屋は活況を呈していて、お客さんの回転も早い。この価格帯なら週に1~2回と、日常的にも使えます」(永田氏)

ただし、立ち飲みはどちらかと言うと、中高年がターゲット。若者の「居酒屋離れ」が進んでいると業界は危惧しているが、なかには若者の人気を集める店も当然、存在する。

「24時間営業の店舗が多い『酔っ手羽』は、手羽先の唐揚げが名物です。店によっては毎月18日にその手羽先が一本18円になり(数量限定)、他にも店ごとに日替わりでイベントを行っています。コスプレイヤーが来店すると手羽先サービスとか、太っている人には唐揚げを値引きなど、一風変わったサービスをしている面白いチェーン店です。安いので全般に若者で賑わっていましたね。 

栃木県宇都宮市から’16年に東京に進出してきた『鳥放題』は、食べ放題の焼き鳥店ですが、若者どころか未成年の女子学生が集まります。1480円から食べ放題があり、680円でソフトドリンクが飲み放題になる(2時間)。家やカフェでは大騒ぎができないけど、居酒屋なら騒いでも怒られないと、ソフトドリンクと焼き鳥で女子高生がおしゃべりしていますよ」(前出・長浜氏)

劇場型居酒屋が大ブーム

前出の柳生氏がさらにユニークな居酒屋を紹介する。

「私がプライベートでよく行くのが、『居酒屋いくなら俺んち来い。』と、その姉妹店の『居酒屋いくなら俺んち来る?~宴会部~』です。現在、首都圏で21店舗展開しています。店によって若干メニューが違うのですが、高田馬場にある『居酒屋いくなら俺んち来る?』では、食べ飲み放題で2時間1900円のコースがあります。単品で頼んでも、焼き鳥一串90円、おつまみもだいたい290円です。さらに、ここはチェーン店なのに接客マニュアルがないので、店員が個性的でのびのびと楽しそうに話しかけてきます」

平日夜、高田馬場の『居酒屋いくなら俺んち来る?』を訪れると、イケメン店員が爽やかな笑顔で案内してくれた。若い男性店員が多く、客は20代前半と思われる女子ばかり。「ガールズバー」ならぬ、「ボーイズバー」といった雰囲気だ。味はそこそこだが、店員と盛り上がることを重視した店は活気に満ちていた。

これからの居酒屋ビジネスはこうした劇場性が重要になると指摘するのは、飲食コンサルタントの三ツ井創太郎氏だ。

「多くの情報が猛スピードで拡散する時代です。消費者の選択肢が多いので、一つの業態がブームになっても、すぐに次のブームが追いかけてくる。インスタ映えを求める若者に限らず、令和の時代の消費者は『わざわざ外食する理由』を求める傾向がより強まるでしょう。

たとえば、名古屋を中心に5店舗を構える『道南農林水産部』は、総合型居酒屋から劇場型居酒屋へと舵を切りました。お客さんの目の前でウニを海苔で巻いたり、ストップと言われるまでイクラを注ぎ続けたりする『いくらこぼれ飯』など、料理の劇場性を前面に打ち出した。その結果、月商が3倍になったそうです。これらのサービスを見たお客さんがSNSで拡散して、さらにお客さんが集まるという相乗効果が生まれています」

過去の成功体験にとらわれない居酒屋が「ゲリラ戦」を勝ち抜くはずだ。

日本人の「酒離れ」?なぜ若者は居酒屋に行かなくなったのか

若者がお酒をまったく飲まなくなったわけではありません。飲み方の選択肢が多様になったため、昔ながらの居酒屋に行く必要がなくなったのです。何でもあるけど、食べたいものがない総合居酒屋よりも、焼き鳥や串カツ、鶏の唐揚げなど、自分の好みに特化している店に行くほうがコスパがいいと感じるのでしょう。もちろん、彼らは会社の飲み会なんて「スルー」したい。強制的な飲み会には価値を感じないし、時間も金銭的にも無駄だと感じています。

SNS時代だからこそ、会いたい人に会うことには価値を感じるため、友人とお酒を飲む機会自体は減っていないと思います。ただ、飲みのスタイルは、宅飲み、ビデオチャット飲み会、コンビニでのちょい飲みなどどんどん多様化しています。お酒を飲みながらLINEでビデオ通話をしたら、それもある種の飲み会ですからね。

居酒屋も若者を引きつけようと様々な新業態を開発していますが、ポイントはその店で飲む意味があるかどうかでしょう。居心地がよく、店の雰囲気が楽しいことが求められているのです。音楽のライブやロックフェス、食フェスなど、そのときだけの体験が人気を集めています。居酒屋ビジネスの突破口はそこらへんにあるのかもしれません。

働き方評論家・常見陽平氏

名古屋生まれの「がブリチキン。」は若い女性に大人気。人気の唐揚げは、好きな部位を選んで食べられる

『FRIDAY』2020年3月6日号より

  • 撮影足立百合

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