ついに開業 コースで1万円「昆虫食レストラン」代表の熱い想い

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

あなたは「昆虫食」と聞いて、どんな印象を持つだろうか?

ゲテモノ喰い? 罰ゲーム? それとも、来たる食糧難に向けて期待される「第三のタンパク源」といったところか。

「肉の代替品と考えるくらいなら食べるなって言いたいです。それは昆虫に対して失礼だから」

と静かに、だが力強く語るのは「コオロギラーメン」をはじめとする昆虫食を世に広める活動をしている篠原祐太氏(25歳)だ。本格的な昆虫食レストラン開業に向けて実施したクラウドファンディングで、今年の1月、目標額300万円をはるかに超える689万円を集め話題に。その後の新型コロナウイルス感染拡大により当初の予定より遅れたものの、この度、日本橋馬喰町に、昆虫食レストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」を開業。

自らを「地球少年」と称する篠原氏とは?

冬でもTシャツ&短パンがトレードマークの「ANTCICADA」篠原祐太氏。Tシャツの胸には「食は作業ではない、冒険だ。」の文字が

子供の頃から頑なに封印してきた昆虫食を、大学時代にカミングアウトして6年が経つ。

「SNSで発信して1ヵ月くらいは、カミングアウトしたことを後悔していました。友人のTwitterの裏アカで『目立とうとしてキャラを作ってて笑う』なんてコメントを見つけたり、様々な心無いリアクションに傷ついてしまって。『あれはウソ』と前言撤回することまで考えていたんです。

でも中には共感してくれる人もいて、そういう人たちと一緒に山に行き、初めて虫を捕って食べた時の、みんなの価値観がひっくり返る瞬間を見るのが本当に幸せで……。その喜びが活動の原動力になり、ここまで走り続けてきた感じです」

自然豊かな高尾山近くで生まれ育ち、幼少期から虫に限らず、魚、動物、植物全てが好きだった。虫を食べるようになったのもその頃から。肉や魚を食べるのと同じ感覚だった。

「幼い頃夢中になって追いかけていた虫たちのことを、大きくなるにつれ『汚いから触らないように』と大人に言われるようになり、みなが『気持ち悪い』とか『嫌い』と遠ざけるようになってしまうことに違和感を感じていました。でも、そんな中で虫を食べていることなんてとても言い出せなくて……。友達から弾かれるのが嫌で、中高時代までは完全にそのことを封印して生きていました」

レストランの開業に向け、予算配分や店舗設備の調整に追われ忙しい中、インタビューに応じてくれた

イキイキと虫への愛を語る今の篠原氏から、「シャイで、嫌われるのが怖かった」というその当時の姿は想像がつかない。だが、勇気を出してカミングアウトしたその瞬間から、彼本来の人生がものすごいスピードで回り始める。まずは、「ANTCICADA」を運営する仲間との出会い。

篠原氏と同じ慶応義塾大学を卒業後、三菱UFJ銀行に入社したものの憧れだった1つ星レストランのスタッフ募集を知り、たった3ヵ月で銀行を退社。未知の美味しさを求めてこれまでに世界40ヵ国以上を旅したという「食べものがかり」関根賢人氏。東京農大醸造科学科を卒業後、同大学院で発酵や味覚の研究をしているお酒オタクの「発酵家」山口歩夢氏。東京農大オホーツクキャンパスで農業、酪農、畜産、漁業の研鑽を積み、卒業後は奥多摩で林業に従事していたという「第一次産業のスペシャリスト」豊永裕美氏。服部栄養専門学校を卒業後、ミシュラン2つ星 「L’Effervescence」で6年、デンマーク「Relae」「koks」でも腕を磨いた「料理人」白鳥翔大氏……。

「山口とは友人の紹介で一昨年のクリスマスに出会ったのですが、4時間くらいひたすらお酒や苦味について語り続けられて……。何言ってるのかほとんどわからなかったけれど(笑)、とにかく衝撃を受けて一緒に何かやりたいねということになりました。その日のうちにコオロギ醤油の話で盛り上がり、出会って2〜3時間で『できると思うよ』『やろうよ』と。タガメを使ったジンの話もその時なので、それから1年経たないうちに両方とも実現したことを考えると、感慨深いですね」

愛知県豊田市の老舗味噌醸造所である桝塚味噌との共同開発で生まれた「コオロギ醤油」、岐阜県郡上市のアルケミエ辰巳蒸留所との共同開発で生まれた「タガメジン」。そしてこのほどコオロギを原料に使用した世界初のクラフトビール「コオロギビール」が誕生し、その実現力の高さに驚かされる。

2月20日に発表された「コオロギビール」は、岩手県遠野市の『遠野醸造』との共同開発

「はっきり言って、メンバーそれぞれの知識とこだわりが凄いので、チームとしてのハンドリングはしにくいです(笑)。ただその分、妥協なく作り上げられるし、何よりもみんな虫だけが好きなわけではない。虫に対する特別な肩入れがない分、昆虫を食材としてフラットに考えているから『メチャいいな』と思っているんです。

僕自身、虫オタクというわけではなくて、野菜も魚も肉も大好き。ただただ、虫の持っている普遍的なポテンシャルをより多くの人に知って欲しいだけ。とりあえず知ってもらい、触れてもらってから、好き嫌いの判断をしてもらえれば」

レストラン開業に向け、マンションの一室で共同生活をしている「ANTCICADA」のメンバー。ダイニングルームは、さながら居酒屋のようでもあり、研究室のようでもあり。レストラン開業に向け様々な試行錯誤を繰り返していることが容易にうかがえる。ベランダの水槽には、これから調理法を研究するという雷魚、床の蓋つきバケツの中には魚醤や、鮒の発酵食品が仕込まれており、廊下の棚には虫を含む様々な食材が漬け込まれた広口瓶が並ぶ。

廊下の食品棚。家中のいたるところで様々な食材が仕込まれており、篠原氏の居室には何種類ものゴキブリや昆虫、爬虫類を育てているコーナーが

コオロギで出汁をとり、麺やタレ、油もコオロギで開発した「コオロギラーメン」が国内外のメディアで取り上げられ一躍有名になった篠原氏だが、その視野は驚くほど広い。

「安定供給できていることと、何にしても美味しいこと、秋の虫として親しまれていることからまずはコオロギを、そして多くの人に食べてもらえるということからラーメンを、ということで『コオロギラーメン』を前面に押してきましたが、虫の素晴らしさを体感してもらうにはラーメンだけでは限界がある。本格的なコース料理を提供しなければ伝えきれないという思いから、レストランの開業を決めました」

「ANTCICADA」の洗練されたロゴデザインは、物件探しの過程で出会ったデザインチームが担当。昆虫の脚や触覚、体などをデザインに組み込んだアルファベットがこだわりを感じさせる

コース料理¥6400、飲み物のペアリング¥3600、合計で¥10000という決して安くはない価格設定。今現在世の中にある「昆虫食レストラン」とは明らかに一線を画す存在になりそうだ。

「これまでの、『虫も食べられる』『実はエコだし体にも良い』といった価値観が広まってしまう前に、単純に『虫は美味いんだ!』という印象を植え付けなければと思っているし、まだ食材としての虫への価値観が固まっていない今が最後のチャンスだとも思っています。

エコな食材という価値観がある限り、粉末にしてわからないようにチョコレートに混ぜるとか、サプリメントにして流通させるといった、どこか消去法的ネガティブさが拭えず、本当の意味での昆虫食の魅力は伝わらない。レストランのコース料理を通してあらゆるアプローチで虫の美味しさを表現できたら本望です。それだけ、食体験が人に与えるインパクトは偉大だと思っているから」

タガメジンはラ・フランスの香り、熱処理して乾燥した毛虫のフンは桜餅の香りで、桑を食べて育った蚕のフンのお茶は滋味深く風味豊か……。インタビュー中に少しだけ触れたそれらの体験だけでも、それまでの価値観がひっくり返るような驚きだった。

「桜の木に大量に発生する毛虫『モンクロシャチホコ』は、桜の葉っぱだけを大量に食べて育つので、そのフンが桜の香りなのはある意味当たり前なことで。幼虫類は特に偏食で一つのものをひたすら食べて育つので、食べた瞬間に何を食べて育ったかが絵になって浮かびます(笑)。

触ったらかぶれると思われていて、秋口に大量発生すると『駆除してくれ』という要望が出るなど害虫扱いをされている『モンクロシャチホコ』ですが、それは大きな間違い。かぶれることもないし、全く無害な虫なんです。

忌み嫌われているゴキブリだって、食べると美味しい種類もいる。害虫扱いをして殺虫剤で汚染しているのは人間側なのに、汚いと遠ざけるのは本当に理不尽ですよね」

蚕のフンも古来漢方の世界では「蚕砂(さんしゃ)」として流通し、血流を良くする食材として珍重されてきた。

「イベントで、お茶を煮詰めて作ったシロップで『蚕のフンのタピオカミルクティー』にして出すと、大好評です。コオロギラーメンにしても、『罰ゲームで』と言って挑戦しに来る人もいたりするのですが、そんな人たちが口にした瞬間、その美味しさに180度価値観がひっくり返る様子を見るのが喜びですね」

共同生活を送るマンションのダイニングルームの壁には、タイムスケジュールやブレインストーミングの跡がそこかしこに

都心の公園など、日常の延長線上にある自然の中に、まだその価値を知られていない食材が数えきれないほど存在する。身近にある自然の恵みに目を向けることなく、遠方に自然を求めることが「うすら寒い」と表現する篠原氏。

「ANTCICADA」のメンバーはもとより、コオロギラーメンの共同開発に名乗りを上げてくれた「ラーメン凪」の代表や、理事会を説得してまで学食でコオロギラーメンを出すことに尽力した慶応義塾大学学食の店長、その志を面白がってレストランの物件を紹介してくれた先輩など……「好き」を極めた彼には不思議な磁場があるようで、自然と協力者が集まり、夢の実現に向けて爆発的な推進力を見せる。今後の活躍がますます楽しみだ。

  • 撮影田中祐介

Photo Gallary6

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事