5つの医療ドラマ『恋つづ』『トップナイフ』…視聴者これだけ違う

『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』『恋はつづくよどこまでも』『病室で念仏を唱えないでください』『アライブ がん専門医のカルテ』『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』まで視聴者層はこんなに違った!

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『恋はつづくよどこまでも』(TBS)主演の上白石萌音

医療をテーマにした民放ドラマが、GP帯(夜7~11時)14本中の5本を占める今期、「医療モノばかり」「さすがに食傷気味」などの批判がある。

しかし実際には、視聴者は好みに応じて医療5ドラマを見分けている。舞台は同じ医療現場でも、扱うテーマもテイストも別々だからだ。

視聴者層はどう異なり、結果として多様性がどう担保されているのかを考える。

性年齢の差

世帯視聴率だけでみると、5本の平均は以下の順に並ぶ。

『トップナイフ-天才脳外科医の条件-』(天海祐希主演・日本テレビ)11%台。
『恋はつづくよどこまでも』(上白石萌音主演・TBS)10%台。
『病室で念仏を唱えないでください』(伊藤英明主演・TBS)9%台。
『アライブ がん専門医のカルテ』(松下奈緒主演・フジテレビ)7%台。
『病院の治しかた~ドクター有原の挑戦~』(小泉孝太郎主演・テレビ東京)6%台。

これを男女年齢別の個人視聴含有率で見ると図1のようになる。

図1 医療5ドラマの個人視聴含有率

まず目につくのが『病院の治しかた』。65歳以上男女の割合が高い。
同じように医療現場を舞台にしていても、病院の再生物語だけあって、自分たちの今後がどうなるのか、地域医療に関心の高い高齢者によく見られている。

また救命救急医でありながら僧侶でもある異色の主人公が登場し、「生きること」を問う医療ヒューマンドラマの『病室で念仏~』も、極端ではないものの50歳以上の男女によく見られている。

一方『恋つづ』は、恋と仕事を描く医療ラブコメ。女性の10~40代によく見られている。恋愛ドラマが視聴率を獲れなくなった昨今、世帯視聴率で二桁維持は快挙と言えよう。

医療ドラマは中高年に強いと言われる中、若年女子を獲る『恋つづ』と対照的なのが『トップナイフ』。C層(4~12歳)・T層(13~19歳)・M1(男性20~34歳)・M2(男性20~34歳)で首位となった。
天才外科医たちが登場するが、扱うのは人類にとって最後の未知なる領域の脳。『ドクターX』のように、ズバズバ切れ味は鋭くはない。しかも、それぞれ人間としての欠点や苦悩を抱える。知的好奇心と人間への興味をかき立てる作品となっている。

視聴者の興味関心で差

視聴者の性年齢差以上に大きいのが、視聴者の興味関心での差。
関東地区2000世帯5000人の視聴動向を追うスイッチ・メディア・ラボのデータによれば、同じような医療現場が舞台でも、やはり視聴者の見るポイントは別々だ。

図2 興味・関心別の個人視聴含有率

目立つのは「医療・健康」に関心を持つ900人の動向。医療ドラマ5本とも個人視聴率自体が高くなっている。しかも各ドラマの世帯視聴率を分母として「医療・健康」関心層の含有率でみると、『病院の治しかた』がトップに躍り出る。
同様に「TVドラマ好き」868人でも、5ドラマはいずれも視聴率が高いが、含有率では『病院の治しかた』が一番。医療を現場としながら、病院再建の物語にした点が、これまでにないドラマとして評価されている。テレ東ならではの独自の切り口が奏功したようだ。

興味・関心で「結婚したい」(345人)・「美容」(518人)・「タレント・芸能人」(840人)と答えた人の中で、個人視聴率および含有率が高くなったのは『恋つづ』だ。
ドSな言動から「魔王」と呼ばれる天堂(佐藤健)と、勤務初日に恋の告白をしてしまう無謀ぶりから「勇者」とあだ名される七瀬(上白石萌音)のラブコメ。
命のやり取りの現場で“胸キュン”が繰り出されるという落差に、若年女性に見逃せない物語と映っているようだ。

特に難攻不落と思われた「魔王」を演ずる佐藤健が、少しずつ態度を変える絶妙な演技を魅せるあたり、「タレント・芸能人」関心層にとって高いポイントとなったようだ。
当初は数字が獲れないと予想された『恋つづ』。世帯視聴率二桁・医療5ドラマ中2位という大健闘は、若い女性の伝統的な関心を満たした点が大きく寄与したと言えよう。

効果音楽も多様

最後に「音楽好き」(1053人)をみると、興味深い傾向が浮かび上がる。
個人視聴率の絶対値では、『恋つづ』『トップナイフ』が高く、『病室で念仏~』『アライブ』『病院の治しかた』の順となった。含有率でも概ねその並びだ。

音楽には、いろいろなスタイルがある。
例えばクラシック。ピアノコンサートではピアノだけを聞くが、オーケストラではソロでも聞ける楽器の集合体を聞く。ただしソロのバイオリンコンサートだと、主役はバイオリンだが、ほぼピアノの伴奏がある。
この”伴奏”の役割はとても重要で、ソロの芸術性あってのクオリティだが、伴奏が引っ込みすぎても出しゃばりすぎても感動を呼ばない。

このバランス関係は、実は“ドラマと効果音楽”の関係に似ている。
本・役者・セリフ・演技がメインだが、その素晴らしさをバックアップする音の演出で、ドラマの見栄えは大きく左右される。

今回の医療5ドラマでは、それぞれコンセプトやテイストは異なるが、効果音楽はシンセを使ったスタイルが主流だ。ピアニストでエッセイストの秦絢子氏によると、各ドラマの効果音楽は、こんな使いわけがされているという。

《「音楽好き」トップの『恋つづ』》
物語はラブコメで、主なキャストがインパクトを与えている。音楽もシンセを使った軽いノリで、都会的なサウンドが多い。商業的だが、ノリに乗った“今”をゆくタレントの勢いにのって、漫画原作のイメージを尊重する軽快な音楽が特徴的。

《2位『トップナイフ』》
あらゆる手法を駆使した音楽表現が興味深い。心理描写は素材少なめの控えめなサウンド。そしてシーンを盛り上げる際には、オーケストラ編成を盛り込み、壮大なハーモニーとじわーっと広がる音の幅で演出する。本格ドラマの風格が漂う。

《最もユニークな『アライブ』》
とにかく音が少ない。音を削りに削り、“どうしても必要な一粒”というべきサウンドが、セリフにポタッポタッとこぼれ落ち、その空間と虚無が、俳優陣の心理描写に絶妙に合っている。危うさと不安定な心の揺れが、うまく表現されている。

《統一感で工夫がみられる『病室で念仏~』》
個性豊かなキャスティングだが、コメディタッチとシリアスなシーンなどがバラバラにならないよう、音楽は統一感に気を使っている。
冒頭からの約15分は、シーンへの色付けとストーリーの転換のための効果音に徹している。そして伊藤英明が滝に打たれながら御経を唱えるイントロでは、一度聞いたら頭の中で、何度もリピートする忘れられない旋律が使われる。
このインパクトの強い1フレーズで、他の叙情的表現やバックミュージック的サウンドが、見事に統一されている印象を受ける。作曲家のコンセプトがブレずにはっきりしているからこそだろう。

《音楽が脇役に徹する『病院の治しかた』》
各シーンのその場の雰囲気を壊さぬよう、音のボリュームもインパクトも控えめ。メロディとなる印象的な音楽も避け、聞き心地は良いが、記憶に残る音楽はない。かなり薄味と感じるだろうが、衝撃的なシーンやストーリー展開が激変するドラマではないので、この塩梅がちょうどいいのではないか。

効果音楽の担当者は、ドラマの状況や演出の要望など全てを飲み込んだ上で、仕上がりをどこまで良くするかが腕の見せ所となる。
音楽好きの個人視聴率は、もちろん音楽だけで決まらないが、効果音楽がどれだけ分かりやすく前に出ているかによって序列が決まったのは、偶然かも知れないが興味深い現象だ。

いずれにしても同じように医療現場を舞台にしながらも、ドラマのテーマやテイスト、視聴者の興味・関心・好みによって、視聴者の層が少しずつ変化する。
ドラマの奥の深さに、驚きの念を禁じ得ない。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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