激戦のポジション争いで輝きを魅せる31歳「サントリー村田大志」

藤島大『ラグビー 男たちの肖像』

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今年でチーム9年目となるサントリーサンゴリアスの村田大志選手/写真 アフロ

競争はいつまでも続く

そこでおしまいの背番号の男が最後に登場した。わかる人にはわかる。なんと贅沢な。なんと分厚い戦力よ。

村田大志。サントリーサンゴリアスのセンター、背中の数字は「23」。後半25分、ようやく芝の上に現れた。チームの控え選手のすべてがこれで出場した。

2月15日。大阪のヤンマースタジアム長居の観客席を人が埋めた。観客数は「19584」。サントリーはトヨタ自動車ヴェルブリッツを60対14と圧倒した。ビール色のジャージィはスパークリングワインの泡のように軽快に弾け、黒ずんだワイン樽のごとく頑丈だった。シュポシュポと栓を抜くみたいにトライを重ねた。

サンゴリアスの12番と13番、センターのふたつの席を世界の顔が占めた。まずマット・ギタウ。ついでサム・ケレビ。いずれもオーストラリア代表ワラビーズの新旧の主軸として国際ラグビーにおいて名をはせた。37歳の前者はキャップ「103」。26歳の後者は同「33」。当日はメンバー外ながら先のワールドカップのヒーローのひとり、中村亮土もここのポジションである。

まさに俊秀はひしめく。結果、ミスター・サントリーとも呼びたくなる実力者の出番は削られる。今季は初出場だった。2月22日の日野レッドドルフィンズ戦のメンバー表にも名を見つけられなかった。

いま選手生活の絶頂とは書けない。なにしろグラウンドにあまり立たないのだから。しかし、村田大志、31歳、ひょっとすると過去と比べて最も高いところに達しているのかもしれない。そんな想像もしてしまう。

というよりも、この人は上下しない。凸凹とも無縁。常に務めをまっとうする。的確な位置取り。防御の幅の広さとそこでの考察の深さ。キャッチとパスのスキル。舞い上がるキックのチェイスや捕球の確実性。機をとらえた判断。強い選手ではない。速い選手とも違う。いい選手だ。

トヨタ戦後の取材スペースで録音機を差し出した。いゃあ競争というものはいつまでも続きますね? 個人的には、あなたを日本を代表するセンターのひとりと思っているのですが、同じポジションに実に強力なふたりがいて、試合になかなか出られません。

「まあ世界を代表するようなセンターがいますから。あのふたりのよさは自分とは違います。その意味では組み合わせの変化も敵によってつけられておもしろいのかなと」

ずっと日本代表に定着しても不思議のない存在だと思ってきました。なのに海外出身者にどうしても阻まれて、なかなか席は空かない。こんどはチームでも。大変だなあと。

「でも、いまは楽しんでいます。外国人が増えて、とくにフィジカルのところの練習のレベルが上がったので。自分もまだまだやれるなというところも見つかります。自分の価値の出し方ももっとあるのかなと思えるようになりました」

選手のための選手

かのワールドカップ、サントリーの後輩にして同僚の中村亮土がセンターの位置を守った。判断を礎とするディフェンスでの献身を凝視するうちに、あっ、村田大志のようではないかと感じた。間違っていますか?

「あの大会で亮土がやっていたディフェンス(での仕事)は、ずっと自分もやってきたことでした。最近、一緒に飲んで、話が合うようになってきたんです。まあ、飲まないと話しませんけど」

話が合う。具体的には?
「自分が主役でなくても活躍できるシーンはたくさんあることを理解している。あいつも同じような感覚を持ち始めたんだなあと。あの大会のディフェンスは亮土がいなければ回っていなかったと思います」

静かな口調で大切な内容を語った。主役でなくとも活躍できる。そして主役を張らないので、ちょっと、もしかしたらずいぶん、わかりづらい。

こういうことだ。村田大志は危険を防ぎ、危機に備える。いるべきところにいる。読みの利いたポジショニングは無理を求めない。もちろん必要ならば鋭利なタックルを浴びせる。だが、早く正しくスペースを埋めるので相手がそこを回避する例もしばしばだ。また後出しというか相手の動きを見きわめてからの対応にも優れ、力ずくの激突の前に止めてしまう。流して眺めると「なにもなかった」と映る。観客を叫ばせることなく、ともに戦う者たちをうならせる。徹底的に選手のための選手なのである。

長崎北陽台高校から早稲田大学の教育学部英語英文学科に自己推薦入学を果たした。

「面接が英語で緊張しました」

ラグビー部では、センターの職人指導者、山本裕司コーチにみっちり仕込まれ、サントリー入社後の2014年春にはアジア5ヵ国対抗の対フィリピン、スリランカのジャパンにも選ばれた。ただし、キャップ数はその「2」から伸びなかった。本人は言った。

「短期間に自分をアピールするのが得意ではありません」

シャイに過ぎる。そう聞いてはならない。それは長く過ごせば染み渡る自信の控えめな表現なのだから。

 

※この記事は週刊現代2020年3月7日号に掲載された連載『ラグビー 男たちの肖像』を転載したものです。

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  • 藤島大

    1961年東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。雑誌記者、スポーツ紙記者を経てフリーに。国立高校や早稲田大学のラグビー部のコーチも務めた。J SPORTSなどでラグビー中継解説を行う。著書に『ラグビーの世紀』(洋泉社)、『知と熱』(文藝春秋)、『北風』(集英社文庫)、『序列を超えて』(鉄筆文庫)

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