年齢なんて関係ない!結果を出した男たち 本田圭佑・乾貴士ほか
強豪相手に負けない日本の底力 大切なのは、アイデアと経験そして強い意志だった
本田圭佑の目の前になぜチャンスボールはくるの?
「べスト16入りした’10年の南アフリカ大会を見てもわかるように、日本代表はバッシングを受け、追い詰められた状況でこそ発奮するチーム。ハリルホジッチ前監督の体制下では選手たちが抑圧されていました。その分、いま、彼らは伸び伸びとプレーしている。崖っぷちに立たされたことで真価を発揮しているんです」(スポーツライターの小宮良之氏)
6月25日、サッカー日本代表がロシアW杯で強豪セネガルに2―2と引き分け、価値ある勝ち点1を積み上げた。
この試合で目を見張る働きを見せたのは、本田圭佑(32)だろう。1点リードを許し、このままでは敗色濃厚というムードが漂っていた後半33分には、得意の左足で起死回生の同点弾。まさに「サムライブルー」の救世主となった。
実際、日本代表にとって、ここぞという局面にはいつも本田の姿があった。戦友の岡崎慎司(32)も、セネガル戦後、
「やっぱり、ケイスケのところにチャンスボールがいくんですね」
と振り返り、”持っている男”への称賛を惜しまなかった。
だが、彼のゴールは単なるラッキーなどではない。チャンスボールを決められることこそが、一流の証(あかし)。本田はそのために常に準備を怠らず、ピークを過ぎた選手という批判を受けても腐らずに上を目指してきた。今回のゴールは、「チームはオレが引っ張る」という強烈な意志を持ち続けたからこそ生まれた、値千金の一発なのだ。
「ただ上手いだけ」という批判を吹き飛ばす
乾 貴士 30歳で才能が目覚めた
セネガル戦でのヒーローといえば、何と言っても乾貴士(30)だ。
前半34分、先制点を取られセネガルを追いかける展開で、長友佑都(31)のパスを受けて豪快なシュート(下写真)。相手エリア内、左45度の通称”乾ゾーン”からセネガルのゴールをこじ開けた。
「この試合で圧倒的なパフォーマンスを披露したのは乾。さすがリーガ・エスパニョーラの『エイバル』でレギュラーを張っていただけあります。彼は普段から、リーガでセネガルよりも屈強なDFとやり合っているわけですから。スペインで培った経験やスキルを存分に発揮し、左サイドで常に相手の脅威となっていました」(前出・小宮氏)
セネガル戦で一気にスターダムにのし上がった乾だが、これまでは「ただ上手いだけ」という批判にも晒(さら)されてきた。
「乾はもともと、技術は高く評価されていた。ただ、守備ができず決定力もないと言われ続けてきました。本人もそれを自覚し、悔しい思いもしてきたのでしょう。その悪評をバネに、厳しい練習を積んできた。いまでは、攻撃的なポジションの中では誰よりも守備ができるし、チーム随一の決定力を誇るまでに成長しました」(前出・小宮氏)
ベテラン選手にもなると、「自分はこんなタイプだ」と自己規定してしまうもの。だが、乾は絶えず変化しようと努力を重ねてきた。だからこそ、30歳にして「日本代表のレジェンド」となれたのだ。
ポジティブだけが正解ではない
昌子 源 最悪に備え、世界のFWを止める
「日本が強豪国相手に自分たちのサッカーをできるとは思いません。虚勢を張っても仕方ないので言いますが、日本は守備から入らないと勝てませんよ」
W杯前、本誌のインタビューに答えた昌子源(しょうじげん)(25)は、日本代表についてこう語っていた。初戦のコロンビア戦ではファルカオ、次戦セネガル戦ではマネと対峙。世界トップクラスの怪物フォワードを抑えきった日本躍進の陰の立て役者は、Jリーグでも有名な”現実主義者”だ。
「日本と欧州ではスピードが全然違うし、パスやトラップなどの基礎レベルも向こうのほうが断然高い。僕はヘディングも強いわけではないので、空中戦でも押されてしまう。1対1では競り勝てません。体をぶつけたりコースを防いだりと、最低限自分のできることをするしかない」
25歳にしてこれほど冷静に己を客観視できる理由は、過去に味わった挫折にあるのかもしれない。
「中学時代はフォワードとしてガンバ大阪のジュニアユースにいたが、実力不足で退団。高校では試合に出られず、ディフェンスにコンバート。3年生の時にやっと才能が開花したが、U―19の日本代表では直前に落選。挫折の連続だったからこそ、昌子は自分を過大評価しないんです」(サッカー専門誌記者)
本田圭佑や香川真司(29)のような華々しさはない。しかし、誰よりも現実を知る男は、地道に堅実に日本を支え続けているのだ。
4年前に心は完全に折れたけど
長友佑都 トルコに行って良かったよ
「W杯開催半年前に、ガラタサライSK(トルコ)へ期限付きで移籍したのは賢明な判断でした。今大会の活躍は出場回数の少なかったインテル・ミラノ(イタリア)に在籍したままでは難しかったでしょう」(スポーツライターの竹田聡一郎氏)
惨敗に終わった4年前のW杯ブラジル大会後には、引退も頭によぎったという長友佑都が、今大会、完全復活を遂げている。
「トルコ・リーグには、エトーやロビーニョなど世界的なスターが多数在籍している。彼らが30歳を過ぎてピークは過ぎたと言われながらも、ピッチで輝きをとりもどした姿を間近で見て、長友は再び闘志を燃やすようになったのです」(サッカー専門誌記者)
トルコのガラタサライSKでは、リーグ戦全ての試合にスタメンとして出場し、リーグ優勝に大きく貢献。日本代表でもその存在感は際立っている。
「ムードメーカーの長友は、金髪にすることで自らイジられキャラを買って出た。『スーパーサイヤ人になりたかったんですが(笑)』と照れ気味に語る長友には、W杯にかける並々ならぬ思いがあるんです」(スポーツライターの栗原正夫氏)
すべての照準をW杯に合わせた長友佑都。前回大会の雪辱を果たすため、トルコでの武者修行を経て日本代表選抜メンバーに名を連ねたのだ――。
ナゾのパンチングで失点 負けてたらA級戦犯
川島永嗣 ミスしても仲間がいるから大丈夫
セネガルの先制をアシスト
FIFA公式サイトまでが「コメディ」と酷評したのは、セネガル戦前半11分のプレーだった。左サイドから放たれたシュートは十分にキャッチできる軌道だったが、GK川島永嗣(35)はなぜか両手でパンチング。目の前にいたFWマネへの最高のパスとなり、先制ゴールを献上したのだ。直後から川島はネットなどで「肩書はプロボクサー」、「セネガルの12人目の選手」などと袋叩きにあった。
「川島バッシングは初戦のコロンビア戦でFKを決められてから始まり、あのパンチングで大炎上となりました。ただ、コロンビア戦のFKを責めるのはかわいそう。DF昌子も証言していましたが、試合前のミーティングで『壁はジャンプしない』と確認していた。実際、MF長谷部誠とFK直前に『跳ぶか?』『跳ばないで』というやりとりをしていたのにジャンプ。その下を抜かれたわけですから。ところが、事情を知らない評論家やメディア、はてはサポーターにまで叩かれたことでネガティブな気持ちになってしまった。気持ちが守りに入り、大事にいき過ぎたため、キャッチングではなくパンチングを選択したのでしょう」(スポーツライター・後藤茂喜氏)
GKは1度ミスをすると続けてしまう――元代表の城彰二氏をはじめ、プロたちからも川島交代論が飛び出した。
「セネガル戦前から『控えの東口順昭のほうがいいのでは?』という声がチーム内でも出ていました。東口は気遣(きづか)いができるタイプで求心力がある。ガンバ大阪所属だから西野朗監督もよく知っている。GKを代えるのはリスクを伴うから、セネガル戦は川島を先発させましたが、GK交代の気運は確実に高まった」(現地で取材するサッカーライター)
だが、大丈夫。川島には仲間がいる。たとえば、負ければA級戦犯となっていたセネガル戦で、起死回生の同点ゴールを叩き込んだ本田圭佑。ヒーローは試合後の囲み取材で川島をこう庇(かば)った。
「僕はね、わりと叩かれるのに感謝してる部分がある。楽しんでる部分もあるんですけど、そうじゃない人もたくさんいるから。それはちゃんとみんなが守ってあげないといけないと僕は思っているんで。メディアの皆さんもね、(選手に対する評価の)”上げ下げ”を楽しむのは僕だけにしておいてほしいなと」
川島は’10年のW杯南アフリカ大会直後、本誌にこう語っていた。
「メンタルは強くないッスよ。ビッグマッチだと不安になります。でも――そんなとき、苦しいときにこそ、得るものがあると思います。僕はどんな試合に際しても『いままでとこれから』を考える。『今日の自分以上の明日の自分』を作ることを目指しています。自分の弱さを素直に認め、可能性を信じるんです」
ミスをカバーしてくれる仲間がいた。苦難に耐えて成長できたからこそ、西野ジャパンは「弱くても勝てた」のだ。
PHOTO:新華社/アフロ(1枚目写真) Ryan Pierse/Getty Images (5枚目写真) JMPA