「酒飲み」が喫煙者と同じ扱いを受ける日がくる可能性

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大酒飲みだった作家・町田康氏は、5年前の年末に突如「酒をやめよう」と思い立ったという。その決断や禁酒生活の苦悩、葛藤が描かれているエッセイ『しらふで生きる』(幻冬舎)は昨秋の刊行後から話題を呼び、現在、9刷で3万8000部を売り上げている。

酒類の消費量が減少している昨今、厚生労働省の調査によれば「ほとんど飲まない・飲めない」人の割合は07年と17年を比べると、20代男性が約4割から約5割、30代男性が約3割から約4割へ増えた。特に若者の酒離れが進み、飲酒習慣も喫煙習慣のようにマイノリティのものになるとも言われ始めている。

喫煙同様、飲酒習慣のない若者も年々増加傾向にある 写真:アフロ

一方では、飲んでは他人に迷惑をかけることを繰り返しながら、それでも飲酒の習慣をやめられないという酒好きもおり、違法薬物と同様に依存度の高さも懸念される。加えて、アルコール依存症の自覚のないまま飲酒を続けているケースも非常に多いのだという。

かつて毎晩のように情報交換と称して仕事相手と酒を酌み交わしていた40代男性のAさんも、そんな一人だった。徐々に酒量が増え、また飲む時間も長くなってゆき、泥酔した状態で真夜中に帰宅することが日常になっていたという。ところが彼も突然“しらふで生きる”決意を固め、10年前から一滴も飲んでいない。ある出来事がきっかけだった。

「その日もいつものように、ものすごく酔っ払っていたものの、なんとか家には帰ることができたんです。ですが玄関で眠ってしまい、しかも失禁してしまった。それから夫婦仲が険悪になり、別居することに……。もうそれから、酒はやめました。たぶん振り返ってみると、あの時自分はもうアルコール依存症だったのかもしれない」(Aさん)

Aさんのように自力で酒を断つことのできる者ばかりではないだろう。「飲みすぎて迷惑をかけているかもしれない……」そんな自覚が少しでもあるのなら、それはもうすでに、アルコールに依存している状態かもしれない。アルコール依存症の患者や家族と日々向き合う、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター・アルコール科の湯本洋介医師に、実態を聞いた。

「アルコール依存症と診断が下される方のうち、専門機関を受診するのはほんの5パーセント、潜在的にはすごく多いと言われています。たしかに生活が破綻して病院にいらっしゃる重い症状の方もいますが、症状が軽い場合、社会生活が十分営めており自分がアルコール依存症だと自覚していない方もいる。飲み会でトラブルを起こしたことがあり、お酒のコントロールが効かなくなることも分かっているが、それは社会的によくあることであろうと思っていたり、トラブルを繰り返しているけれども自分は大丈夫だと思っていたりする場合も多いです」

そもそもどういう状態をアルコール依存症というのだろうか。

「アルコール依存症には診断基準があります。飲む量や頻度より、特徴的な飲み方をされる方々なので、その診断基準に則って判断をします。具体的には、WHOの診断基準『ICD-10』というものに定められている6つのチェックリストにあてはまるかどうかという診断をします。たとえば『アルコールを摂取したいという強い欲望あるいは強迫感』の有無や『明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然としてアルコールを使用する』といった状態になっていないかということを診ていきます」(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターアルコール科・湯本洋介医師)

こうしてアルコール依存症と診断された患者に対しては、酒が抜ける時の不快な“離脱症状”を和らげるための薬を処方しながら、一旦体からアルコールを抜き、飲みたくなるときに飲まないようにする方法を考えるなどして、段階的な治療を行っていく。ただ、アルコール依存症の患者は「一旦体からお酒を抜いてもやっぱり飲んでしまう」のだという。

「アルコール依存症の本質的なところは、アルコールの制御が効かないというところにありますので、再びお酒を飲み始めるとどうしてもコントロールが効かない飲み方になってしまう。また、お酒が切れると離脱症状が出てきてやっぱり飲む、ということの繰り返しになるので、いかにお酒を飲まないようにするかという対処の方法を考えることが重要です。一例を挙げれば『飲み会の時には炭酸水を飲む』など、以前飲んでいたようなシチュエーションでも飲まないようにする手段、そのレパートリーを増やしていく。根性論ではなく具体的な手段を提示しながら、根気よく治療にあたります。

お酒を再び飲む理由について、当事者は皆さんそれぞれ、様々におっしゃいます。他人から見たらお酒を飲む必要のないことでも、それが理由になってしまう。生活上のいろいろな出来事とお酒が結びついてしまっているんですね。『ストレスを感じたら飲酒する』というのはまさにその一つです」(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターアルコール科・湯本洋介医師)

冒頭のAさんは、かつて仕事相手との情報交換を理由に酒を飲み続けていたが、酒をやめても、仕事上全く支障はないという。

「『自分は飲めない』と宣言して、ひたすら烏龍茶です。最近は無理やり酒を勧めてくる人も少なくなりました。楽しそうにお酒を飲んでいる相手を見ると、自分も……という気持ちにもなるんですが、やめると決めたので、そこは踏ん張ります(苦笑)。

かつて酒を飲んでいたとき、酔っ払った状態で仕事の話をしてたんですけど、翌朝その内容を全く覚えてないですよ。結局、酒をやめた今のほうが、しらふの状態で人の話を聞けるので、夜の会食が有意義なものになりましたね。あと翌朝、酒が抜けるまでボーッとしていた時間もなくなったので、俺はそれまでどれだけ時間を無駄にしていたのか……と分かりました」(Aさん)

自覚のないアルコール依存症の“酒飲み”が実は多い……と湯本医師は指摘していたが、最近では完全に飲酒習慣を断ち切る治療法だけではなく『減酒』という選択もある。

「今、お酒を『やめる』のではなく『減らす』という取り組みや、お酒のことが気になったらまずは相談をしましょうという流れができてきています。ご自身の飲み方がおかしいなと感じることがちょっとでもあるようだったら、医療機関に相談してみてはいかがでしょうか。都内にも減酒外来が増えてきており、『アルコール依存症治療』となると大げさかなという方でも、こういう窓口であれば、気軽に相談できるのではないかと思います」(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターアルコール科・湯本洋介医師)

街中から「酔っ払い」の姿が消える日も近い?

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)、『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

  • 写真アフロ

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