教師による「スクールセクハラ」が被害者に残す苦しみの時限爆弾 | FRIDAYデジタル

教師による「スクールセクハラ」が被害者に残す苦しみの時限爆弾

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「スクールセクハラ」は、学校を舞台にした性的虐待のことだ。

教師が加害者、生徒が被害者というケースが多いが、教員同士あるいは生徒同士の性的虐待も含まれている。

わいせつ行為等により平成30年度の1年間に懲戒処分を受けた教育職員は282人もいる(「平成30年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」より) 写真:アフロ

文部科学省が公表している「平成30年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」によると、わいせつ行為等により平成30年度の1年間に懲戒処分を受けた教育職員は282人もいる。しかし、事件として報道されているのはごく一部だ。

実は、「スクールセクハラ」は、実際に被害に遭っている当時よりも、年数を経てから発覚するケースが多いという。その理由はなにか? 「スクールセクハラ」がテーマの漫画『言えないことをしたのは誰?』の作者・さいきまこ氏へのインタビューから、その答えを探ってみよう。

『言えないことをしたのは誰?』著者:さいきまこ

作中では、卒業後も続く被害者の苦しみを「時限爆弾」と表現していますが、どういう意味が含まれているんでしょうか?

「取材で知ったことですが、『スクールセクハラ』に限らず、小中学生が被害に遭った場合、性的な行為の意味がわからないので、自分が加害者にされていることが理解できないんです。自分の中で違和感を覚えていても、それが性被害だと認識できない。行為の意味が理解できる中高生であっても、まさか教師が自分に「加害」するとは信じられないため、被害だと気づけない。

そして『なぜいつも憂鬱な気分なんだろう』などと悩み、原因がわからないまま、抑うつ、自傷行為、摂食障害などになっていく。そしてある日突然、バンッと爆発するように、自殺企図などの激烈な症状が表れるそうです」(『言えないことをしたのは誰?』著者・さいきまこ氏 以下同)

ある中学校の養護教諭・神尾莉生のもとにかかってきた1本の電話。ここから、学校という閉鎖的な組織内での孤軍奮闘が始まる (『言えないことをしたのは誰?』第1巻より)

被害の渦中ではなく、時間を置いてから激しい拒絶反応が出るということですね。

「しかも爆発は1度ではなく、埋め込まれた爆弾がたくさんあって、何回も何回も爆発が起きるそうです。自傷行為や自殺企図を繰り返す場合も多いんですが、そうすると性暴力の被害者心理を知らない人から『かまちょ』とか『メンヘラ』と嘲笑され、ますます孤立していくという悪循環に陥ってしまいます」

性的虐待が発端となり、さらにその後の人生のいろんな場面でも、周囲から傷つけられる連鎖が起きているという現実があると。

「そうです。痛みは時間をおいて何度もやってきて、被害者のその後の人生はズタズタに破壊されてしまうんです。その現実をより多くの人に知ってもらい、『そんなことはない』という認識を『実際にあることだ』に改めて欲しい。そして、実際に性的被害に遭いながらも、その被害を認識できずにいる人に気づいて欲しいという願いを込めて、この作品を描きました」

痴漢を「性被害」と認識していないメンタルへの危機感

そもそもなぜ、「スクールセクハラ」をテーマにした漫画を描こうと思ったのですか?

「実はこのテーマで漫画を描くまでに、性被害について3段階の布石がありました。第1の布石は、友人や知人から性被害の告白を受けた経験です。ただ、当時は性被害の報道もあまり見かけなかったため、特殊なことだと思っていたんです。

第2の布石は、2012年頃から『陽のあたる家〜生活保護に支えられて』や『神様の背中』など貧困をテーマした作品の取材中に、貧困に陥った原因が知人や親、同級生や教師から性加害を受けたことによる心的外傷(トラウマ)から鬱病を発症したことだという話を、本当にたくさん聞いたことでした。しかしその時もまだ私は、性暴力は稀なことであると思っていました」

性的虐待は特別なことではないのですか?

「性的虐待は特別などではなく、当たり前に起きていることなんです。ではなぜ、特別だと思っていたのか。その理由を実感されられたのが、ネットメディア・ウートピで行われた『実は過去に性暴力を受けたことがある?』というアンケート結果記事を読んだ時でした。

結果は『ある』が34%、『ない』が66%だったのですが、“『ない』に入れたけど痴漢ならたくさんある”というコメントを読んで、愕然として。痴漢は犯罪です。にも関わらず、被害を受けた当人が、痴漢は性暴力ではないという認識でいること。そして私もまた、痴漢された経験があるにも関わらず『ない』と答えてしまうところだった。その認識は危険だと気づいたのが、第3の布石でしたね」

電車や駅で「痴漢は犯罪です」というポスターをよく見かけますが、裏を返せば、痴漢が犯罪として認識されていないことの現れでもあるといえます。

「しかも被害者から声を挙げるように、告発を促しているんですね。ところが声を挙げると必ず“そんなかっこうをしているから”とか“隙があった”と理不尽な封じ込めに必ず遭う。被害者“も”悪かったのではという考えこそが、性暴力全般で一番の問題点。

被害者自身ですら被害と認識できなかったり、自分にも落ち度があったのではと自責の念にかられるのは、世間にそうした空気がはびこっているせいです。だから被害に遭ったことすら言えなくなる、というカラクリにようやく気づいて

その傾向が特に顕著に現れるのが、学校。子どもの場合、学校の保健室に不調や悩みを訴えることが多いと聞いていたので、保健室を切り口にして、子どもが抱えているいろいろな問題を描こうという企画を考えました」

それで「スクールハラスメント」にテーマを絞ったんですね。

「はい。加害者を教師に限定したのは、性的虐待の中でもっとも被害が見えづらい犯罪だと感じたからです。父親からの性的虐待事件は、ここ数年で報道されることがかなり増えています。当事者も、被害をSNSを通じて声を挙げられるようになってきたと感じていますが、それでもいまだに被害の声がなかなか顕在化してこないのが、『スクールセクハラ』なんです」

学校という特殊な場が生み出す犯罪

「スクールハラスメント」の被害者が、声を挙げづらい理由はなんでしょうか?

「被害者の周囲の大人である現場の教師や親、そして被害者自身ですら『先生がそんなことをするはずがない』という認識でいるからです。それこそ冒頭でお話しした痴漢の話と同じですが、子どもが勇気を出して被害を訴えても、『あなたの思い込みでは?』とか『先生の言いなりになったあなたが悪いんじゃないの?』と言われてしまう。

周囲の大人たちにそう言われてしまったら、子どもは『やっぱり自分が悪いんだ』と口をつぐむしかない現状が、取材を進めるほどにはっきりと浮かび上がってきたんです」

大人でもきちんと声を挙げることが難しいので、子どもならなおさらですね。

「子どもが教師に寄せる信頼は、大人が思っている以上に絶対的。だから自分が嫌なことをされても『先生の言う事はちゃんと聞かなくちゃ』と我慢してしまうし、加害者の『お前のためにやっていることだ』とか『指導の一環』という卑怯な言い訳を信じて、精神的に追い詰められるケースもあります。

また内申書や成績、あるいは部活のレギュラー枠など、権力を笠に着たパワハラを含む場合もあって、逆らったら不利益になるからと我慢することも多いんですね」

原因不明の頭痛や腹痛で授業を抜けて保健室に来ることが多い小松川紗月には、誰にも言えない秘密があったーー (『言えないことをしたのは誰?』第1巻より)

同じ職場で働いている他の教師は、身近で起きている犯罪に気づかないものでしょうか?

「何かおかしいと勘づいても、声を挙げずに口を閉ざす選択をしてしまう教師もいると聞きました。被害を受けた子どもと同じく、教師も『先生がそんなことをするはずがない』という認識なので、自分で疑念を打ち消してしまう。組織内の同調圧力で、疑問の声を挙げづらいというのもあります。

そして何より、当の子どもが被害の認識を持てず、被害を訴えてこないので、『うちの学校には被害を受けている子はいない』と思い込んでしまうのです。

しかし、被害者は卒業してからもずっと苦しみ続けています。50代、60代になってもです。その現状が、あまりにも世間に知られていないことに大きなショックを受けました。いじめ問題の隠蔽体質に顕著なように、学校の閉鎖性、身内を徹底的に庇う排他性は、世間一般の感覚からすると異様なほどです。だからこそ、描くべきテーマだと思いました」

「スクールセクハラ」をなくすために意識改革を

デリケートな問題を扱うことに関して、制作の際に気をつけた点はなんですか?

「被害者を安易にパターン化して、“特殊な立場”に置かないことです。実際に被害に遭われた方のケースを調べても、特定の条件など存在しません。つまり“誰でも被害にあう可能性”があるということを、きちんと示したいと考えました。パターン化することで、そのケースに当てはまらないものが“性暴力”として認識されなくなることだけは、絶対に避けたかったんです。

敢えて被害者の共通点を挙げるとしたら、『孤立しやすい』ことでしょうか。

『スクールセクハラ』の被害者を支援する団体、特定NPO法人・スクール・セクシャル・ハラスメント防止全国ネットワークの亀井明子さんから聞いたのですが、加害者である教師が『これは先生と2人だけの秘密だよ』と言ったり、被害者が周囲の信用を失うようなことを仕組んだりして、被害者を孤立に追い込むケースも多いそうです。

被害を受けたから孤立したのか、孤立しているから加害者のターゲットにされたのか、原因と結果の判断が難しいと感じましたね」

取材はどのくらい行ったのですか?

「貧困問題から端を発しているので正確な時間はわかりませんが、スクールハラスメントにテーマを絞ってからの取材は、約1年半ほどでしょうか。被害者や支援者、学校の教員や臨床心理士など、問題に関わる方々から幅広くお話を伺いました。

はり、私自身にも思い込みや偏見が絶対にあるんです。その思い込みで漫画を描くことを避けるために、できる限り取材をするように心がけています」

子どもを性的被害から守るために、家庭でできることはなんだと思いますか?

「重ねて言いますが、まずは学校で性的犯罪が起きているのは、残念ながら事実であることだと認識することです。学校や教師を神聖視せずに、そういう問題が現実にあることを認めて欲しいですね。その上で、小さい頃から『水着で隠れる場所は誰にも見せない、触らせない』と、家庭で基本的な性教育をして欲しいなと思います。『プライベートゾーン』の大切さを子どもが知ることで、受けた被害を認識することに繋がりますから」

報道でスクールセクハラや虐待のニュースが大きく取り上げられると、スクール・セクシャル・ハラスメント防止全国ネットワークへの相談が増えるそうだ。理由は、ニュースを見て「ひょっとしたら自分も被害を受けているのかもしれない」と、認識できる状態になるからだという。

さいき氏は漫画を描き進めるうちに、教育現場と性、被害者は未成年など、いくつものタブーが重なる「スクールハラスメント」は、性暴力の中でも特にダークな犯罪だという考えが強くなっていったと語った。圧倒的弱者である子どもたちを、大の大人が欲望に任せて蹂躙する卑怯な性暴力から守るために、自分が今できることはなにか、この機会に考えて欲しい。

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『言えないことをしたのは誰?』第1話

  • 取材・文中村美奈子

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