みくりが妊娠…!『逃げ恥』続編が描く「生きづらさ」の正体

著者・海野つなみ氏インタビュー

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大ヒットコミック、そして平成最後のテレビドラマ界を席巻した、あの“ムズキュン”カップルの物語の続編が、ついに完結! 昨年から連載が再開されていた『逃げるは恥だが役に立つ』の最終11巻が4月13日に発売された。

続編は第10巻から。結婚から2年半、平和に暮らすみくりと平匡の微笑ましい共働き生活の描写で始まる 『逃げるは恥だが役に立つ』第10巻

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史上最高に理屈っぽいヒロイン・森山みくりと堅物で高齢童貞の津崎平匡(つざき・ひらまさ)が、納得ずくで始めた契約結婚から真実の愛に目覚める物語。続編コミックでは、正式に(?)夫婦となって共働きをするふたりが、子どもを授かり、出産に至るまでの1年間が描かれている。

何をするにも論理優先のふたりが直面する、生活と心境の変化。同時に、みくりの伯母・百合や平匡の同僚たちなど、関わる人々にもそれぞれに人生の転機が訪れる。

現代の妊娠・出産事情をはじめ、恋愛、結婚、ジェンダー、さまざまな「今」を映した物語で伝えたかったこととはーー。

発刊を前に、作者・海野つなみ氏にその思いを尋ねた。

「少子化になるのは当たり前」

結婚して2年半、共働きで平和に家庭を営んでいたみくりと平匡。そんなある日、みくりの身体にある兆しが訪れる。もたらされた妊娠の報せ。さっそくふたりは、出産に向けて自分たちの暮らしの再構築を試みるのだが……。

みくりの不安定な体調やメンタルに翻弄される平匡。妊娠・出産に不安を抱えるのは女性だけではないということが、リアルに伝わる(『逃げるは恥だが役に立つ』11巻より)

まさに「今」の物語だった。

つわりや体調の変化、アンバランスな精神状態への対処など体調の波に翻弄される中で、育休取得、家事分担のやり直しと、現代の妊娠・出産にまつわる課題をリアルに追体験する1年間。描き上げた漫画家・海野つなみさんは、「想像以上にしんどい作業でした」と振り返る。

「自分自身は結婚していなくて子どももいないのですが、読者には出産、子育ての経験者も多い。たくさんの方が知っていることを私は知らないという状況で、しかも皆さんが先を知らない物語を描かなくてはいけないというのは、なかなか……。

それに、妊娠・出産の経験は本当に人によってそれぞれで、正解は決してひとつじゃない。毎回、知らないことをひとつひとつ調べて、言葉も『この使い方は合ってる? 合ってない?』と確認する作業の繰り返しでした」(海野つなみ氏 以下同)

参考になったのは、やはり経験者の声。執筆に際しては、男性、女性、専門家と、さまざまな人の体験と知恵を拾った。続編の冒頭、みくりが女性の同僚たちとランチタイムに、出産の“順番待ち”について語り合う場面は、海野さんが友人から聞いたエピソードに基づいている。

「みくりと同じ業種の人ではないんですが、聞いたときはやっぱり驚きましたね。子どものいない既婚者、二人めを望む人、独身の人、それぞれが複雑な思いを抱えていて、『これじゃあ皆、安心して産めないのも当然だよ!』と思ってしまいました」

男性の生きづらさは、誰よりも男性が知っているはず

変化に翻弄されるのは、みくりと平匡だけではない。

ドラマで石田ゆり子が好演して人気を博したみくりの伯母・百合は、前作で結ばれた年下の彼・風見と別離。しかも、ある深刻な病に罹っていることを告知されるという、ショッキングな展開が待ち受けている。

さらに、下ネタの強要や女性に対する微妙ないじりを繰り出す“男子ノリ”全開の上司のおかげで、平匡は職場で若手と上司との板挟みに。ここで描かれる男性特有の生きづらさは、連載再開時、海野さんが注力したいと思っていたテーマのひとつだった。

連載再開時の海野つなみ氏インタビューはコチラ

ホモソーシャルに苦痛を覚える平匡の後輩社員・北見。続編は男性社会の生きにくさにもフォーカス(『逃げるは恥だが役に立つ』11巻より)

「男性の中にも、発言力を持つ強い男性とそうでない弱い立場の男性がいて、結局、ひと握りの強い男性がそうでない男性や女性を押さえつけているような構図になっているのかな、と感じましたね。

だから、男性にも生きづらさはあると思うんですが、でもけっこうその分、女性に甘えてないですか? とも思ったりして……」

そういえば、女性へのハイヒールやパンプス強制を撤廃しようとする「#KuToo」運動が盛り上がったとき、ツイッターなどのSNSで「だったら男のネクタイも苦しいからやめさせろ」との声が男性たちからたくさん挙がったことがあった。正直、それってここで言うこと? という疑問が湧き上がったのだが……。

「男も苦しいんだ、だから優しくしろみたいなことを言う人がいますけど、いやいや、それを受け入れてしまっちゃダメなのでは? と。私も若い頃、『男性はプライドが高いから傷つけないようにしてあげないと』と言われて、信じ込んでいたところがあったんですが、『こっちにだってプライドがあるよ』と、今なら言えますよね。

だから、女性も頑張るけれども、男性は男性で頑張ってほしい。何でもかんでも女性にケアしろというんじゃなくて、男性の中でも解決策を探ってほしいし、実際、男性の問題を解決できるのは男性なんじゃないだろうかと思うんです」

一緒に学びながら、ともに歩んでいけたら

誰もがそれぞれに苦悩や葛藤を抱えている。それでも、ひとりひとりが自分の力で立ち上がり、そして手を取り合えればーー『逃げ恥』という作品が発し続けてきた、ポジティブなメッセージ。それを象徴するのが、続編のクライマックスに行われる「大沼田会」である。

年齢性別の垣根なく意見を交わし合う「大沼田会」。参加したい! と感じる人は多いはず(『逃げるは恥だが役に立つ』11巻より)

前巻(10巻)を読んだ方はご存知だと思うが、作中では平匡の同僚の沼田頼綱(ぬまた・よりつな ドラマでは古田新太が演じた)を中心に、たびたび「沼田会」という飲み会が催されていた。「大沼田会」はその拡大版。男性メンバーに加え、平匡の職場の女性社員や百合、百合の友人なども参加して、それぞれが日頃抱いていた思いや鬱憤を晴らし合う大討論会だ。

「沼田会のメンバーは男性ばかりだったから、いつかは女性が参加するべきだなとずっと思っていた」と海野氏。本音歓迎の無礼講だが、罵倒や人格否定には罰金(!)も課されるという独自の人生道場……そんな「大沼田会」の意義は、会に参加したあるキャラクターのひとことに集約されている。

《友達がいればよくない? 性別関係なくみんな友達で、助け合って生きていけばそれでいいんじゃない?》

「頼もしい友人や家族がいるなら、別に結婚していなくたって構わない。そして、結婚するならするで、相手と一緒に学んでいく心構えが必要なんじゃないでしょうか。

結婚していても相手と分かり合えない状況というのは困ってしまいますが、いくつになっても知らないことはあるし、日々、新しく身につけなくちゃいけないことが出てくる。弱みを持つ者同士がちょっとずつお互いを知って、いい距離を保ちながらともに生きていく、そういうことができたらいいのになぁという思いを込めて描きました」

それはまさに、みくりと平匡の歩みそのもの。第1子が誕生し、物語は再び幕を閉じたが、登場人物たちの人生は、そして私たちの「今」は続いていく。『逃げ恥』の続きを読むこと、そして願わくば、また映像で彼らの姿を見ることができれば……と告げると、海野さんはフフフ、と笑って、こう締めくくった。

「以前、ドラマのプロデューサーの方が、年を重ねてふたりに孫ができて……というふうに一生続けてほしいとおっしゃったんですが、それじゃ『北の国から』ですよ! って(笑)。

でも、続編を描くと決まった段階から、『ドラマもパート2がありますね!』という声をたくさんいただいているので……そうですね、あったらいいですね」

海野つなみ 兵庫県出身。1989年、『お月様にお願い』でなかよし新人まんが賞に入選しデビュー。2012年から連載された『逃げるは恥だが役に立つ』で講談社漫画賞少女部門を受賞。作品に『彼はカリスマ』『デイジー・ラック』『回転銀河』『小煌女』『くまえもん』などがある。

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『逃げるは恥だが役に立つ』第10巻1話

  • 取材・文大谷道子

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