コロナうつ にも効果!幸せホルモン「セロトニン」正しい増やし方
“やる気スイッチ”を入れて、ストレスも軽減するセロトニン
全国に発令された緊急事態宣言。5月6日まで行きたいところに行けず、会いたい人に会えない日々が続く。思うように仕事ができない人も少なからずいるだろう。うつうつとした毎日が続きそうだ。こんなときだからこそ、増やしたいのがセロトニンだ。
“幸せホルモン”と呼ばれるセロトニンは、ストレスを軽減して免疫力を高めるという。では、セロトニンを増やすにはどうすればいいのか? セロトニン研究の第一人者・有田秀穂氏に聞いた。
「脳の中でも、もっとも深い部分に位置し、人間の生命維持に関わっているのが、脳幹です。そのほぼ真ん中に“セロトニン神経”というセロトニンを合成する細胞があります。セロトニン神経は脳全体にケーブルを張り巡らせて、さまざまな影響を脳機能に与え、心と体を覚醒させるのです」(有田秀穂氏 以下同)
大脳の内側にある、心に関係した領域にセロトニンが分泌されると、ネガティブな気分が解消し、前向きな気持ちになる。“やる気スイッチ”がオンになるわけだ。
自律神経にも影響を与え、各筋肉に緊張感を与え、姿勢を整え、顔の表情を引き締める。シャキッとした顔つき、体つきにしてくれる。
逆に言うと、セロトニンが十分分泌されないと、いつまでもやる気が起きず、ネガティブな考えに支配され、顔つきもボーッとして、体にも力が入らない状態になる。セロトニン不足でうつ病になるとも言われている。
さらにストレスの軽減にも役立つという。
「ストレスが強すぎたり、たまりすぎたり、長期間加わり続けると、ノルアドレナリンという交感神経の情報伝達に関与する神経伝達物質が過剰になります。セロトニンはノルアドレナリン神経の過興奮を抑え、脳全体のバランスを整える働きもしてくれるのです」
まさに、現在のような危機的状況にこそ、必要とされるのがセロトニンなのだ。
セロトニンから作られる睡眠ホルモン「メラトニン」はウイルス感染細胞を殺す!
セロトニンは“やる気スイッチ”をオンにしたり、ストレスを軽減するだけではない。快適な眠りを誘うホルモン「メラトニン」の原料はセロトニンなのだ。太陽が沈むと、セロトニンの合成が抑制されて、昼間ストックされていたセロトニンを原料に睡眠ホルモン・メラトニンが合成される。
「メラトニンが脳の中で分泌されると、脳の温度が下がって睡眠状態が促されます。けれど、メラトニンの働きはそれだけではなく、免疫機能を高め、さらに活性酸素を除去するという働きもあるんです」
なんと、メラトニンは免疫に直接関係するホルモンだというのだ! 免疫機能をもつ細胞が活性化するためには、さまざまな因子があるが、副交感神経が優位なときというのもその一つ。メラトニンが分泌されると、NK細胞が増えるということが研究で明らかになっているという。NK(ナチュラル・キラー)細胞といえば、全身をパトロールしながら、がん細胞やウイルス感染細胞を見つけ次第攻撃するという文字通りの殺し屋。新型コロナウイルスにおびえている今の我々には、なくてはならない細胞だ。
太陽を浴び、適度な運動をするなどして、セロトニンを十分たくわえておけば、新型コロナウイルスに負けない体を作ることができる。しかも、メラトニンは老化を促す活性酸素も除去してくれるというから、アンチエイジングにもなる!
セロトニンの分泌を全開にする4つの条件とは?
では、セロトニンを十分分泌させるためには、どうしたらいいのだろうか。
1_朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びる
「それには4つ条件があります。まず、しっかり太陽の光を浴びること。朝起きたら、カーテンをあけて朝日を浴びる。目の網膜に日光があたると、セロトニン神経が働き始め、セロトニンを分泌します」
セロトニン神経が活性化するには、2500~3000ルクス以上の明るさが必要だ。曇っていても、窓越しでも2500~3000ルクス以上はあるが、電灯の明るさでは全然足りない。つまり、朝日を浴びることこそ、活力ある1日をスタートさせるための必須条件だ。
「セロトニンが脳の中で合成分泌されるには最低5分かかります。カーテンを開けたら、すぐ部屋の中に引っ込むのではなく、できればベランダや庭に出て5分、しっかり太陽を浴びてください。ウォーキングをしたり、体操したりすれば、より効果は高まります」
もちろん5分以上浴びてもいい。気をつけたいのは疲れるまで浴びないこと。春先の太陽は長く浴びていても気持ちがいいが、夏は太陽を長く浴びていると疲れてしまう。疲れるとセロトニンの分泌が抑制されてしまうのだ。
「5分以上30分以内。これがセロトニンを活性化させるための目安です」
2_体を動かし、歌を歌う。深呼吸も効果的!
「2つ目はリズミカルな運動。ウォーキングやサイクリング、そして深呼吸(意識的な呼吸法)もこれに含まれます。これらは集中して行うことが重要です。人と話しながらではいけません。ただし、ウォーキングやサイクリングを行うとき、ノリのいい音楽を聴きながらでもかまいませんが、歌詞があるものは避けたほうがいいでしょう。言葉は言語脳である左脳を使いますが、左脳が働くのはセロトニン活性にはあまりよくありません。5分から30分、疲れない程度に行いましょう。
深呼吸するときポイントは、とにかく意識して吐くこと。最初は『あ~』と、息が続かなくなるまで声を出して練習するといいでしょう。慣れてくると、声を出さなくてもできるようになります」
深呼吸を5分から30分続けるのはたいへんだが、歌を歌ってもこれと同じような効果が得られ、セロトニンが活性されるという。
3_家族との団らん、友達との電話での会話…。人との楽しい時間も大切
「3つ目はグルーミング行動。人と人との触れ合いです。マッサージやエステ、ヘッドスパなどいろいろありますが、緊急事態宣言下にある今は、これらは禁止されているので、心地よいおしゃべりがおすすめです」
緊急事態宣言で在宅勤務をしている人は、家族だんらんの時間をいつもより多くもてているだろう。そんな時間もセロトニン活性を促す。
「電話でのおしゃべりもセロトニン活性には効果的です。ただし、ラインやメールなどデジタル機器を使ったコミュニケーションはNG。パソコンやスマホから発生するブルーライトが、睡眠ホルモンであるメラトニンを破壊してしまうのです」
4_大豆製品や乳製品から、セロトニンの原料・必須アミノ酸「トリプトファン」を摂る
セロトニンを増やす4つめの方法は、食事だ。
「セロトニンは“トリプトファン”という必須アミノ酸から合成されます。トリプトファンを含む食材を積極的に摂るようにするといいでしょう」
トリプトファンは、豆腐、納豆、味噌、しょうゆなどの大豆製品、牛乳、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、卵、ナッツ、バナナなどの食材に豊富に含まれる。
また、トリプトファンは、トリプトファン水酸化酵素をもつ細胞によって、セロトニンに合成される。この酵素を備える細胞は、皮膚、肝臓、腎臓、腸管、そして脳だ。
「セロトニンの90%は腸で合成されますが、そこで合成されたセロトニンは腸のぜん動運動を促すだけ。脳機能に影響を与えるのは、脳で合成されたセロトニンだけです」
朝は朝日を浴びながら軽く運動。夜は食事をしながらおしゃべり。それがセロトニンを増やす生活だ。
「緊急事態宣言で家にいるように言われている今は、セロトニンを活性化させるためには厳しい状況。でも、散歩に出ることを止められているわけではありません。家の中にいても、ラジオ体操はできるし、スクワットもできる。ベランダや庭に出れば太陽を浴びることもできます。家の中でじっとしていないで、セロトニンを活性化してほしいものです」
有田秀穂 1948年東京生まれ。脳生理学者、医師。専門領域は呼吸の脳神経学、セロトニン神経の機能と活性法、坐禅の科学。メンタルヘルスケアをマネジメントするセロトニンDojoの代表。主な著書に、『脳からストレスを消す技術』(サンマーク出版)、『ストレスすっきり!脳活習慣』(徳間書店)、『セロトニン欠乏脳』(NHK生活人新書)他著書50冊以上。『エチカの鏡〜ココロにキクTV〜』(フジテレビ)、『あさイチ』(NHK)などテレビ出演多数。
- 取材・文:中川いづみ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。