ちょい足しスパイスで、コンビニ飯をアップグレードする方法
意外とマルチ! いつものメニューが、カレースパイスで一気に“味変”。スパイス料理研究家・印度カリー子さんに聞く
何種類ものスパイスを使うスパイスカレーが人気の中、たった3種類で作れる本格派カレーを提案して話題を集めたスパイス料理研究家・印度カリー子さん。そのまんま過ぎるインパクトある名前と、東大院生という異色のキャラクターがソーシャルメディアで人気だ。スパイスを縦横無尽に操る印度カリー子さんに、コンビニご飯にちょい足しして、マンネリ脱出&アップグレードテクを聞く。

しょうが焼き、卵サンド、お寿司にも納豆にも「クミン」
スパイスは料理の風味を変えるだけではない。古代インドでは紀元前11世紀ごろからアーユルヴェーダというスパイスを使った自然治癒的な療法が行われていたという。中国には漢方を使った薬膳料理があるが、スパイスを利用することで、体の調子を整えることもできるのだ。
実際、印度カリー子さんは肥満防止のために、いくつかのスパイスを混ぜたものを、毎日欠かさず摂取しているという。
そんな印度カリー子さんが勧める、用意しておくと便利なスパイスは、クミン、ターメリック、コリアンダー、チリペッパーの4種類。
「クミンは南アジアや中国、北アフリカ、ヨーロッパなど幅広い地方で日常的に使われ、どんな料理にも合います」(印度カリー子さん 以下同)
脂ののった肉や魚、唐辛子、にんにく、マヨネーズなどと相性がよく、醤油味や味噌味の煮物にちょっと振りかけるだけで、異国情緒を感じる味に変わるという。とくにおすすめなのが、「豚のしょうが焼き」「味噌そぼろ丼」「ポテトサラダ」「ツナサンド」「卵サンド」。
「しょうが焼きを食べる直前に振りかけてもいいけれど、自分で作るときには、下味に混ぜてもおいしくなります」

大ヒットだったというのは、お寿司(!?)。
「お寿司にマヨネーズを少しのせて、そこにクミンを振って、塩か醤油で食べてみたら、大ヒットでした。でも、高いお寿司ではもったいないので、安いお寿司でぜひ試してみてください(笑)」
納豆にマヨネーズとクミンを混ぜると、納豆独特のクセがなくなる。卵かけごはんに、ごま油と塩、クミンをプラスしてもおいしいと言う。
抗酸化作用があり、免疫力を上げる効果もあるクミン。
「消化促進作用もあるので、夏バテで食欲がないときにもおすすめです」


魚臭さを消す、黄色いパウダー、「ターメリック」
カレー粉の主原料であるターメリック。「ウコン」とも呼ばれ、カレーの黄色はターメリックによるものだ。魚や肉の臭み消しにもなり、味噌や醤油とも相性がいいという。
ターメリックにおすすめなのは、「サバの塩焼き」「おでん」「冷凍チャーハン」など。おでんにターメリック!?、と思ったが、確かにだしの魚臭さがなくなり、マイルドな味になる。
「ターメリックを使うときは、入れてから温めること。そうすると黄色く色づき、香りもよくなります」
「サバの塩焼き」は、まんべんなく振りかけてから温め直し、「おでん」はスープに溶かして温め直し、「冷凍チャーハン」は振りかけてからレンジで温め、よく混ぜる。
ほんのりカレーの香りがして、食が進みそうだ。
ターメリックの黄色の成分「クルクミン」は肝機能を活性化させ、コレステロール値の低下が期待される。また、タンパク質やアミロイドβの蓄積を防ぎ、脳機能を活性化させることで、アルツハイマー病の予防にも効果があるとされ、研究が進んでいる。
夏の料理にぴったり。爽やかな香りの「コリアンダー」
コリアンダーは、パクチーの種。パクチーは苦手な人も多いが、種は葉よりもクセがなく、さわやかな香りが特徴。トマトやフルーツなど甘酸っぱい味のものとはとくに相性がよく、「ナポリタン」「ミートソース」「フライドポテト」「レタスサラダ」におすすめだというので、「ナポリタン」で試してみた。
口いっぱいに広がる爽やかな香り! そんなにたくさんかけたつもりはないのに、一気に香りが広がった。
「鰻に山椒をかけたときのような感じですね。最後まで食べ飽きずに楽しむことができます」
と言うように、確かに油っぽさを感じず、食べ進むことができる。夏っぽい料理はコリアンダーの得意ジャンルということで、「サバ缶の冷汁」「ズッキーニチャンプルー」にも合うそうだ。
「ゴーヤはちょっと味がきついので、ゴーヤの代わりにズッキーニを使ったほうが合うと思います」
発熱の緩和や食欲増進、血液の浄化などに効果があるとされ、西洋では消化器系の家庭薬としても使われているという。

辛みとウマミをプラスしたいときは「チリペッパー」
唐辛子を原料としているチリペッパー。レッドペッパーという商品名でも売られているが、チリペッパーは乾燥した赤唐辛子を粉砕したもので、レッドペッパーには、それに焙煎した赤唐辛子を混ぜたもの。こちらのほうが香りがあると言う。
ここで疑問が一つ。日本には“一味唐辛子”があるが、それと何が違うのか。
「大きな違いは粒子です。一味唐辛子は粒子が大きくて、香りが強い。チリペッパーは一味唐辛子より粒子が細かくて、より辛さが感じられます」
「麻婆豆腐」「卵スープ」「きんぴらごぼう」「肉じゃが」「筑前煮」など、ピリ辛にしたいときはチリペッパー。辛くしたいものになんでも入れてOKだ。
「チリペッパー、辛くするだけじゃなく“ウマミ”もプラスすることができる。スープや炒め物など料理を問わず、いろいろな料理におすすめです」
辛味成分である「カプサイシン」は、代謝アップを促進し、皮脂の分泌を調整する働きがあるので、肌をきれいにする効果もあるという。
スパイスとともに、いつも新しい味を追求しているという印度カレー子さん。豚キムチチャーハンにクミンを加えたところ、
「韓国と中国、インドと3ヵ国の香りが楽しめました」
新型コロナで海外旅行に行けない今、スパイスでエア異国情緒というのもありかもしれない。
スパイスを使うときの注意は、小さじ1/10程度のごく少量から足していくこと。最初からたくさんかけると、苦手な味になってしまうことがあるからだ。いろいろ試してみて、自分好みの味を見つけるのも楽しい。「withコロナ」で自炊やコンビニご飯が多くなり、レパートリーに悩んでる人は、ぜひ、トライ!
印度カリー子 インドカレーに魅了され、日本の家庭でも作れるよう情報を発信。スパイス初心者のためのスパイスセットの開発・販売も行っている。現在、東京大学大学院で香辛料の研究を進めている。著書に『スパイスのまほう』(秀和システム)、『ひとりぶんのスパイスカレー』(山と渓谷社)、『おもくない! ふとらない! スパイスとカレー入門』(standards)ほか。
取材・文:中川いづみ