感涙…甲子園覇者の履正社監督が「目標を失った球児に贈る言葉」

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昨年夏、甲子園決勝で死闘を演じた履正社と星稜の記念ボールを手にする岡田監督。履正社の監督室で

「新型コロナウイルスが収束したとは言えない中、何よりも大切なのは君らの安全、安心だ。履正社は夏の連覇がかかっていると言われるが、それは我々だけの問題だ。大人でも気持ちを切り替えるのは難しいが、今は状況を理解しようとすることも大事なんと違うか」

「第102回全国高等学校野球選手権大会」中止決定から3日後の5月23日。昨夏の優勝校・履正社高校では岡田龍生監督(59)が、1ヵ月半ぶりに集合した30人の3年生部員にそう語りかけていた。

静かに耳を傾ける部員たちに、岡田監督は人としてのあり方も説いた。センバツや夏の甲子園大会中止で目標を失った生徒たちに、指導者はどんな言葉をかけ、どうやって再び前を向かせたのか。岡田監督の肉声から、コロナウイルスによるショックから再起した高校球児たちの姿を追ったーー。

「選手たちには、以前読んだ『おかげさまで』という詩を参考に、こんな話をしました。『人は暑いときは涼しいほうがいいと言い、寒いときは暑いほうがいいと言う、自己中心的な生き物だが、それではダメだ。普段から君たちには野球だけできればいいという指導はしていない。春の甲子園だけでなく、3年生最後の夏の大会も中止になり、先生も辛い。だけど、自分たちの都合だけを考えるのではなく、もっと広い視野で物事を考えられる人間になってほしい』」

部員たちは岡田監督の言葉を冷静に受け止めているように見えた。だが、彼らの心のダメージは想像以上に大きかった。昨夏の甲子園優勝チームの2年生メンバーが何人か残り、昨秋の近畿大会ではベスト4。選抜出場の切符を手にし、「自分たちには連覇にチャレンジできる力がある」と意気込んでいたからだ。

「6月16日に全体練習が再開されるまでは、コーチ陣が家でデキるトレーニングの動画を部員に配信していました。私も2度ほど子供たちに『置かれた状況の中で一人一人が考え、やるだけのことやるように』とするメールを送った。ですが、皆、個人練習しかできず歯痒い思いをしていた。日々の反省や目標を書き込む『選手ノート』にも、中止決定当初は『今は何も考えられない』などの悲観的な言葉が並んでいました」

交流試合の相手は昨夏決勝戦の星稜

87年に履正社の監督に就任した岡田氏。グラウンドが学校から離れているため練習時間は3時間と限られている

そんな状況を心配した山田哲人(ヤクルト)、坂本誠士郎(阪神)、寺島成輝(ヤクルト)、安田尚憲(ロッテ)ら野球部OBからは、部員を想う声が寄せられた。

「OBたちと電話で話すと、『3年生はどうしてますか』と気にかけてくれました。高校生の最後の夏の大会がなくなったらどんだけつらいか。高校野球をやった人間ならみんな分かっているんです」

救済措置として、7月18日からは大阪府独自大会となる『大阪府高校野球大会』が開催され、履正社は22日の初戦で「北かわち皐が丘」と対戦する。8月には、中止された3月のセンバツに出場予定だった32校で、甲子園の交流試合を開催。

3年生は全員、卒業後も大学や社会人などで野球を続けることを望み、元阪神タイガースの関本賢太郎氏(41)の息子で主将の関本勇輔ら3人のプロ志望者もいる。これから行われる試合は貴重なアピールの機会だ。

「冬に3年生部員の進路面談をしたとき、すでに出場が決まっていた春のセンバツで実力をアピールしようと話したが中止になった。残るは夏の大会のワンチャンスだと指導をしてきたが、それもなくなった。これから披露できる場は、大阪独自大会と甲子園の交流試合ぐらいしかない。数少ないチャンスだけど、自分の力を十分に発揮できるよう普段の練習から精一杯の取り組みをしようと話しています」

岡田監督は再び3年生を鼓舞する。

「目標を失っていた選手たちに、『甲子園優勝を目指すくらい真剣な気持ちで取り組もう』と言うと納得してくれました。辛いのは下級生も同じで、3年生がどういう姿勢でこれから取り組むのかを見ています。

『選手ノート』への書き込みも、前向きなものが増えました。『代わりの大会ができるようになって本当に良かった。自分がやってきたことを思い切って出せるように頑張りたい』などの内容です。今まで当たり前だった野球の練習ができなくなったことで、選手たちは“当たり前”のありがたみを学んだのかもしれませんね」

岡田監督の言葉で、人間的に一回り成長した部員。8月の交流試合の相手は、昨夏甲子園の決勝戦で激突したライバル・星稜。球児たちは高校生活の集大成と捉え、完全燃焼を目指す。

指導者として甲子園に13回出場。優勝1回、準優勝2回。通算22勝11敗
  • 取材・文桐島 瞬

    ジャーナリスト。’65年、栃木県生まれ。原発問題からプロ野球まで幅広く取材。『FRIDAY』や『週刊プレイボーイ』、『週刊朝日』など雑誌を中心に活躍している。

  • 撮影加藤 慶

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