豪雨だけでは終わらない…専門家が警鐘「回転型地滑り」の脅威

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16年4月の熊本地震の影響で起きた大規模な地滑り。土砂に飲み込まれ多くの人が命を落とした 

未曾有の豪雨により、かつてない恐ろしい災害が起きようとしているーー。

列島を襲った記録的な大雨は、各地で河川の氾濫や大規模な土砂崩れを引き起こした。7月11日現在、九州を中心に死者66人、17人の行方不明者が出ている。気象庁は引き続き河川の増水や土砂崩れへの警戒を呼び掛けるが、専門家はさらなる警鐘を鳴らしている。「斜面が回転しながら崩れ落ちる『北松型(ほくしょうがた)地滑り』に注意すべき」と、注意喚起しているのだ。

「通常の地滑りは、斜面が下方に向かって滑り落ちて終わりです。北松型は最初に巨大な土の塊が地滑りし、次にそれがいくつも分かれ落ち出します。しかも、斜面の山側にある部分が円を描くように回転しながら滑っていく。周囲の木々や家を、なぎ倒しながら崩れていくんです。地滑りが同時に複数発生し移動距離が長いため、逃げようがない。今回、佐賀県唐津市から長崎県佐世保市をつなぐ線から西側のほぼ全域が、北松型地滑りの危険地帯になっています」

こう話すのは、立命館大学・環太平洋文明研究センターで災害リスクマネジメントを研究する高橋学教授だ。高橋氏が指摘する長崎県の北松地区を含む一帯は、有名な地滑り多発地帯。東京ドーム約850個分の広大な区域が、地滑り等防止法の指定を受けている。その広大な地域が、今回の豪雨で再び危機に瀕しているのだ。周囲の物をなぎ倒しながら土砂が崩れる脅威は、通常の地滑りの比ではないだろう。この恐ろしい地滑りの原因は、同地の地層と関係がある。

「地層は三層に分かれています。一番下が2000万年ほど前にできた柔らかい第三紀層。その上に石ころのような礫層があり、一番上が玄武岩です。玄武岩は六角形で、その隙間から雨水が染み込む結果、第三紀層と礫層の間にズレを生じさせます。過去に広範なエリアで何度も地滑りを起こしている。今回の大雨で地盤が緩んだことで、数ヵ月後の雨や小さな地震でも一気に地滑りが起きえます。台風シーズンの秋まで注意が必要です」

全国の危険地域名

16年4月の熊本地震による土砂崩れで巨岩に押しつぶされた乗用車。上部が完全に破壊されている

地滑りで滑り落ちた土砂が川をせき止めると、土石流の原因にもなる。家屋や田畑、道路などに大きな被害を与えることになるが、こうしたリスクをはらんでいるのは九州だけではない。危険地帯は日本各地にあるのだ。

「北松地区に加え、徳島県の吉野川中流域、新潟県の頚城(くびき)山地は日本でも有数の地滑り危険地帯です。04年10月の新潟県中越地震では、3800ヵ所で地滑りや土砂崩れが起きました。この時もその3ヵ月前に降り続いた大雨で、地盤が緩んでいたのです」

高橋氏は、地滑りなどの自然災害が起きる原因を人間が気づかずに作っている場合があると話す。

「中越地震で甚大な被害を生んだ新潟県山古志村(現長岡市)は、錦鯉の養殖場として棚田に溜め池を3000個以上作ってしまいました。斜面を支える力を弱くしてしまったことが、大規模な地滑りに繋がったのです。地震や大雨が増える今後、災害への備えを踏まえた開発が必要でしょう」

その上でこう提案する。

「長期的には、危険なところに人が住まない都市開発を進めることが重要です。70年代の高度経済成長期に作られた公共施設や病院などは、危険な場所に建っていることが多く見直しが必要です。一方、当面の対策として出来ることは、備蓄した食料や排水ポンプなど、水かさがましたときに必要となる物資を建物の2階など高い場所へ保管することです。土砂崩れや浸水が起きたら、使い物になりません。すぐにでも実行すべきです」

温暖化による気候変動により、日本に降り注ぐ雨量は年々増加。国土交通省によると氾濫危険水域に達した河川は14年の83から19年の403と、5年間で5倍に激増している。今年も梅雨が長引き、巨大台風が列島を襲う可能性が非常に高いのだ。「回転型土砂崩れ」という2次災害にも注意が必要だろう。

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  • 取材・文・撮影桐島 瞬

    ジャーナリスト。’65年、栃木県生まれ。原発問題からプロ野球まで幅広く取材。『FRIDAY』や『週刊プレイボーイ』、『週刊朝日』など雑誌を中心に活躍している。

  • 写真ロイター/アフロ AFP/アフロ

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