食品サンプル工場潜入!職人の〝美味しそう〟へのヤバすぎる執念

リーディングカンパニー「株式会社いわさき」の舞台裏

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

食品サンプル。なぜ人はそれを見るとときめくのか。「よくここまで本物そっくりに作り込んだな!」と笑いさえ漏れてしまうほど。ある種、執念とまで言えるジャパンクオリティに呆れてしまうのかもしれませんね。

なんとこれもサンプル。2019年度いわさきの社内コンペ入賞作品です

そんな食品サンプル会社、実は東京の合羽橋ではなく、大阪が発祥って知っていましたか?  ただし食品サンプル自体の誕生は大正末期〜昭和初期ですが、それをビジネスとしたのが大阪の「株式会社いわさき」。さすが商人魂ですねえ。

今回は、日本の食文化を違う面から支えるものづくりに迫るべく、食品サンプルのパイオニア「いわさき」に潜入してみました。

いわさき大阪本社。工場に隣接しています

いわさきの前身となる岩崎製作所の創業は1932年(昭和7年)。食品サンプルを見て「これは商売になるんちゃう!?」と日本で初めて事業化したのが岩崎瀧三氏。先見の明があった岩崎氏は、食品サンプル作りを企業化し、日本全土に普及させることを決意したのです。

社内コンペグランプリ作品。これもサンプルとは、もはや人間の技術が恐ろしい

そこからいわさきは東京支店(現イワサキ・ビーアイの前身)など関東にも手を広げますが、実はイワサキ・ビーアイは完全に別会社化しています。いわさき(大阪本社)の営業所は今や西日本に22ヵ所、工場は12ヵ所にまで。日本中の食品サンプルはいわさきが作っとるんちゃうか!?と思いますが、なんと食品サンプル会社は、いわさき以外にも全国40社以上、しかも数字は分からないが個人で作っている製作所も含めば100ヵ所以上はあるのだとか。ただし、食品サンプルは「業界組合」がないので、正確な数字は誰も把握できないのだそう…。

かじったところまでリアルに表現しなくても!お店に置くのではなく、いわさきで毎年作っているカレンダー用のサンプルだそうです。ホッ

前置きが長くなりましたが、今回潜入したのは株式会社いわさき大阪工場と、神戸工場。どちらも微妙に辺鄙な場所にあります。

これがいわさきの花形・大阪工場だ!    

大阪工場は外観はお見せできませんが、なんとも古めかしいレトロな建物です! 聞くと昭和34年からずっと変わっていないそう。

「工場総覧謝絶」などと旧字で書いてあったり…。ちょっと怖い

大阪工場では、誰もが知っている飲食チェーンなどのサンプルを一手に引き受けるほか、個人店からのオーダーにも対応。カツ丼とかパフェとか言った、いわゆる「みんなが見たい食品サンプル」を作る花形工場というわけです。

一個ぐらい食べられそうですが、全部サンプル

案内してくれたのは、広報担当の向尾麻里さん。そもそも食品サンプルって発注から納品までどうやって作られるの? という基本的な流れをご説明しましょう。

広報の向尾さん。「デコスイーツ作りが好きで入社したんですが、なぜか業務課に(笑)」

①本物の料理を工場に持ち帰る

汁がフチから何㎝か、エビの高さはどのくらいか…など細かく記録

まず、飲食店が「この料理サンプルにしたいねん!」といわさきに依頼すると、営業マンが来て料理そのものを写真に撮ったり高さを測ったあげく、ラップをかけて工場に持ち帰ります(いわさきに入社してすぐに教え込まれるテクは、『ラップをいかにピシッとかけるか』だそう)。

②パーツに分解し、何を作るかを決める

料理ごとに一つ一つ何の部品を使うか、何を作るか記入します。下の方は企業秘密事項

次に、料理を構成する要素(ハンバーグなどのメイン料理、付け合わせの野菜、トッピングなど)を分解して一つ一つパーツにわけます。それらを「部品」で対応できるか、新たに作るかを精査し、仕様書を作成。

部品とはあらかじめ規格通りに用意されているサンプルのことです。エビフライ、唐揚げ、付け合わせのトマトなど、大きさごとに何種類もあり、こういった規格部品はなんと1000種ほどあります。その部品を一手に製作するのは岐阜にあるグループ会社です。

部品をストックする棚もまた古めかしい。ハシゴはなく、棚に足をかけて忍者のようによじ登って上の部品を取るそうです

で、「部品」でまかなえないものは新たに作ります。ここからが職人技の見せどころ。

そうそう、いわさきの工場は全国にありますが、「京都は和食」「神戸はスイーツ系」など得意分野が違います。「刺身の注文が来たら日本海側の工場に発注することもあります」と向尾さん。それってガチな食材の仕入れと同じじゃ!サンプルってリアルな食と繋がってるのだなあと感動してしまいました。

③「型」を作る

これらは中に食べ物が入った状態(見えないけど)の型。1日置くと固まります

そして、シリコン樹脂で型を取るところから始まります。営業マンが持ち帰って来た実物の食べ物を、何とそのままシリコンに埋めて、型を作ります。

いわさき新入社員はこれを見て、「まだ食べられる食べ物をシリコンにブチ込むなんて!」とショックを受けるそうですが、そうしないと仕事が始まらないので、すぐに慣れるそうですよ。

本物のベーコンとトーストから取った型

④型に塩ビを流してサンプルの土台を作る

型取りして出来上がったオムライスのサンプル。必要な場合はこれに着色などを施します

固まったシリコンに、塩化ビニール樹脂(以下塩ビ)を流し込み、150℃くらいのオーブンで焼いて成型します。そうすると、食べ物の形をした模型ができあがります。この土台となる模型も、何色もの絵の具を混ぜ合わせて本物に近い色に合わせます。

⑤着色する

右が塩ビを流し込んだシリコン、それを型から出したものが真ん中、左が着色したもの。後に出てくるパートの中田さんのコンペ出品作なので、ベテランに比べてやや精度は落ちます

この土台にさらに色を塗って、よりリアルな食品に近づけるのです。本当は一つの料理の製作工程を追って撮りたかったのですが、サンプルは受注から完成までに2週間ほどかかり、工場がいつ何の工程にかかっているか読めないため、行った時の作業しか撮影できずかたじけない。

⾊の種類は、「ロールパン」「チキン(生)」「チキン(煮)」「鯛(血合)」「鮎」など、それ使う!? てほど細分化されています

⑥組み立てて完成

さっきのパンとベーコン、アスパラ、ほか目玉焼きなどを盛りつけます

茹でたり、焼いたり、揚げたり(を表現) 

もちろん食べ物は揚げたり焼いたり溶けたりと様々な形状をしているので、それを多彩なテクニックを使って忠実に再現するのが職人技。ここからは大阪工場の精鋭部隊による匠の技をお見せします。

エビに色を塗っています。茹でた感ハンパない!

衣を付けすぎると「ここの天ぷら、衣ばっかやんか」と思われるし、少なすぎると衣に見えないし、いい感じに衣をつけるのも実際の調理と同じぐらい気を使うものです

天ぷらは、具材に塩ビをかけて、熱風で吹き飛ばすことによって、カリッと揚がった衣を再現します。エビ天とかイモ天は店によってさほど変わらないので、規格部品でまかなえることが多いのですが、こういう「パプリカ天」など普通天ぷらにしないものが出てくると新たに作成しなければなりません。

こちらはカツの制作現場。まんべんなくパン粉を付けて、カラッと揚げます。じゃなくて、絵の具を吹き付けたりラッカーで固めたりします
天丼を作る現場。食堂のおばちゃんが普通にご飯盛ってるようにしか見えません

ちりめん目ぇ描いてます  

なにやら工場の隅で地味な作業をしていたので、何してんすか!と聞きましたら「ちりめんに目ぇ描いてます」。しかも事務員さんも駆り出され、ちっさいちりめんじゃこ一匹一匹に目を描いていました。なんでも、クライアントに納品したら「目は?」と言われ、急いで描くことになったそうです。

こんな細かいところまで忠実に…

ちなみに大阪工場には喫茶店のメニューを作る部門があり、クリームソーダやパフェ、今流行りのタピオカドリンクなどを一手に担っています。

フレンチトースト。左のカップに入った本物を見ながら焼き色を合わせます
どう見ても普通にソフトクリーム絞ってるとしか思えない
サンドイッチも、柔らかい本物のタマゴのようにパンで押してギュッとしたらうまいことおさまる、ということはない(硬いので)。なので切ってパズルのようにはめ込みます

そういえば、サンプルって食器もお店と同じですよね。お皿はどうしているんですか? と聞きましたら、「お店から提供していただいてます。というより、現物見本としてお店から持ち帰った料理が盛られているお皿をそのまま使います。本物をもらって、サンプル盛って返すって感じですね!」と向尾さん。シュールですが妙に納得してしまいました!

名物工場長のいる神戸工場へ

で、ここからは神戸工場にお邪魔します。

こちらもなかなか年季入った建物です。昭和47年築だそう

なぜ神戸工場かというと、神戸はいわさきの中でもクオリティを求められる大手洋菓子メーカー系のサンプルを引き受けているエリート工場。その工場長である火口秀幸さん、なんと19歳でいわさきに入った、約35年のベテランです。

工場長の火口さん(右)と、パートの中田さん。「ソーシャルディスタンスや〜!」と微妙な距離で写ってくれました

神戸工場きっての工場長の話し相手(?)、パートの中田さんにもご登場いただきました。ここからは対談形式でお届けします。

実は中田さん、私の高校時代からの親友です。まさかこんな形で取材する日が来るとは…(遠い目)。

以下、猫=猫田 工=工場長 中=中田さん

中「工場長がさっき、社員に『フライデー来るで!おだまLee男爵のショーパブなんか行っとったらあかんで、帰るふりしてゴミ箱隠れてる猫田さんにスクープされんで!』て言ってました」

猫「あはは、ゴミ箱隠れてまで取ったスクープにしては割に合いませんね(笑)。ところで工場長はやはり食品サンプルが好きでたまらなくてこの会社に?」

工「いえ!(キッパリ) 新聞で求人を見て! ものづくりがしたかったんです」

猫「早速ですが食品サンプルで最も作るのが難しいものって何ですか?」

工「一番シンプルなもん。究極を言うと、水ですね。案外いろんな色がついてる、複雑な形のものの方が作りやすい。しかし水とは何者でもない。透明な液体をどう表現するか。氷やコップについた水滴で冷たさを表すしかないですからね」

猫「ほー、哲学的ですね」

工「デコレーションケーキよりもシンプルなチーズケーキの方が難しい。飾りがある方が色々なものに助けてもらえるでしょ」

これもサンプル。シンプルなチョコレートほど作るのが難しいんですって

触らずとも「カリカリ」「フワフワ」が分かるように

中「あと”硬いものは硬く、柔らかいものは柔らかく”作るんですよ」

猫「えー! 見た目で分かるんですか」

工「不思議と、人間の目にはそう見えるんですね。硬く見せたかったら硬く作る。柔らかく見せたかったら柔らかく作る。塩ビは硬さが3種類あって、硬めのクッキーなんか作る時には硬い塩ビを多めに入れて作ります。また、”冷たさ、温かさもサンプルで表現できます”」

猫「えっどうやって」

工「冷たいビシソワーズのようなスープなら、表面を少し凹ませるように、器に入れた時少し揺らしてフチにスープをつける。逆に熱いスープなら、表面張力で膨らんでいるように、少し盛り上がらせます」

猫「あー確かに! 本物の冷たいスープってたわんでる気がしますね。それって冷たい飲み物は真ん中が凹む、という科学的な法則があるんですか?」

工「ないです。全くの経験則です。”冷たい飲み物とは何や! と何十年も考え続けて、編み出すんです”。各工場で、職人さんがそうやって見つけた経験則を持ち寄って、共有の財産として技術革新しています」

神戸工場の制作物の一例。手前のパンは本当にフカフカして、味以外ほぼパンです

サンプル職人あるある     

猫「さすが業界のリーディングカンパニー!  ところで、サンプル職人ならではの、『職人あるある』みたいのあります?」

中「あります!作ってて美味しそうだなー、食べたいなーって思います」

工「それはないですね!」

中「…。パートだからそんな浮かれたこと言ってるんですね、私」

工「悲しいことに僕ら、”純粋に食べ物をおいしく味わえない体になってしまった”んです。例えば料理のソース。ああ美味しいって思う前に、絵の具の名前が頭に浮かんでまう。これの色は何を使ったら表現できるんやろ? と」

猫「職業病ですね」

工「あと、見る。料理が出てきたら、わあ〜とか言う前に、じいーっと見てしまう。なんならインスタと関係なく写真撮ったりする」

猫「お店の人もビビりますねえ、料理じーっと見てるおじさん」

サンプル職人は、やはり食べることが好きな人が多いそうですよ

「本当に美味しそうなサンプル」を突き詰めて考えた結果

工「でも、そもそも思うんですよ。料理ってほんまに出てきた瞬間が一番美味しそうなのか? と」

猫「えっ」

工「もしかして作りたてのナポリタンスパゲッティよりも、食べ終わって『ああ、美味しかった』というシチュエーションを想像させるほうが美味しさを表現できるんちゃうか?

食べ終わったお皿と、残されたフォークとスプーン。そのシーンこそ『本当に美味しいナポリタン』を表現できるんじゃないか。そう思うと、作りたての美味しそうなサンプルには意味がないんちゃうか、とまで思います」

猫「悩みすぎですね!  なんか超人的なレベルまで突き抜けてますよ」

工「あと、本物が出てきた時に『サンプルそっくり!』て言うでしょ。実は本物とサンプル見比べたら一目瞭然。”本物って、案外地味なんですよ”。サンプルは色鮮やかにデフォルメします」

猫「確かにサンプルってまずそうなもん一つもないですね」

工「特に日本人は赤色に対して思い入れが強い。マグロって実際は少し青黒がかっているのに、イメージは真っ赤でしょ。サンプルは、人間が思い描くイメージに寄せて作ることで『鮮やかな赤=新鮮』と脳で転換されるんです」

猫「どんなに新鮮なマグロでも真っ赤ってないですもんね」

工「また、デフォルメ具合も地域による。”大阪は、サンプルが派手です”。ちょっとビカビカ、ゴテゴテになる傾向があります」

猫「全身ヒョウ柄のオバちゃん的な…。サンプルにまで大阪人気質が表れているんですね」

こんなハジけちゃったサンプルも、大阪ならではか?と思ったら福岡の製作員さんだった

社員全員がこれはうちの米や!と瞬時に見抜く

中「あ、職人あるあるで言うと、街歩いてても店のサンプルに気を取られてしまいます」

猫「そうそう。中田さんは一緒に歩いてるとすぐ飲食店のサンプルに指突っ込んで触ったりしますね」

中「たまに本物なので、気まずいです」

工「あかんなー。あと、”サンプルがいわさき製かどうか、見たら分かりますよ”」

中「私は全然分かりませんが、社員さんは一発で見抜きますよね」

工「一番分かりやすいのが、お米。”このお米はいわさきのお米だ”って分かるんです」

猫「いわさき米!  本当の米農家みたいですね」

工「同業他社さんもそれぞれ自社のお米作ってるんで、うちの米ってのがあります」

リアリティだけじゃなくユーモアも必要

猫「聞けば聞くほどマニアック…。ところでサンプルを作っていて一番嬉しいことは?」

工「やはり、できあがった後に持っていって、『わあ! 美味しそう』て言ってもらった時。

僕らの作っているものは、見た目だけでお客さんに食べたいと思わせる、〝物言わぬ呼び込みさん〟なんです。だから作っている時は、ずーっと悩んでいます。自分のやり方は正しいのかどうかと」

猫「案外真面目なんですねえ」

中「工場長は奥様も同じ職場なので、きっと家でも『この料理何色混ぜたらええんやろ』って話してると思います」

工「”サンプルは、愉快に騙すもの”。あくまでも作り物だけど、美味しそうに見せるためにあの手この手で小細工を加える。そこに遊び心も加わってこそ、『わあっ!』っていう感動が生まれるんです」

猫「いやあ、面白いお話ありがとうございました。ぶっちゃけ、こんなに食べ物があるのにいっこも食べられない取材は初めてでした!」

中「お店から見本としてもらって来た時はホンモノの料理があるんですが、それもシリコンまみれになるので食べられず。あ、ここでの見本って、一周回ってホンモノってことです」

工「僕にとってホンモノは『サンプルの見本』。でもお客さんからも『見本発注したいんですけどー』と言われるから、みんなが見本見本言い合ってて、訳わからん」

一番凄いのがこのフランスパン。なんと、本当にちぎれて、パンくずまで出る

食品サンプル、見るだけでも面白いですが、その裏の職人さんのサンプル愛がここまで深いとは、実に心を打たれました。

帰る時にお土産としてチョコレートのサンプルを頂いたのですが、正直、本物をもらうよりも嬉しかったです!

いきなりクオリティの低いたこ焼きが出てきた…と思ったら、いわさきのマスコットキャラクター「たこやき侍」。Facebookで活躍してますよ!

公には言えませんが、大阪工場も神戸工場も、誰もが知っているあのチェーン店とかあのメーカーとかのサンプルを手掛けています。全国の街角で目にするサンプル、お話を伺った工場長や中田さんたちが作ったものである確率がかなり高いです。「サンプルが美味しそうなんで買いたくなりました!」って店員さんに言ってみてください。職人さんも報われますよ!

「株式会社いわさき」のHPはコチラ

※工場見学は受け付けていません。HPから食品サンプルキーホルダーやストラップを買えます。

  • 取材・文・写真猫田しげる

    1979年北海道函館市生まれ。京都のタウン誌、北海道の新聞地域面、東京の街歩き雑誌、旅行本などの編集・ライター業に従事。2019年4月から拠点を札幌に移動し、ウェブライターとしてデカ盛りから伝統工芸まで幅広い分野で執筆。弱いのに酒好きで、「酒は歩きながら飲むのが一番旨い」が人生訓。

Photo Gallary34

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事