『事故物件 恐い間取り』ヒットを支える主演・亀梨和也の人情味 | FRIDAYデジタル

『事故物件 恐い間取り』ヒットを支える主演・亀梨和也の人情味

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

リアリティ・ショーの怖さを描いた巧みな脚本&亀梨和也の「優しさ」で、単なるホラーじゃないヒューマンな作品に

映画『事故物件 恐い間取り』劇中で売れない芸人・山野ヤマメ(亀梨和也)が住むことになる事故物件。本作では自殺や殺人事件があった4軒の事故物件が舞台となる (c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
映画『事故物件 恐い間取り』劇中で売れない芸人・山野ヤマメ(亀梨和也)が住むことになる事故物件。本作では自殺や殺人事件があった4軒の事故物件が舞台となる (c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

亀梨和也主演映画『事故物件 恐い間取り』がヒットしている。

初日含む3日間累計で動員34万3000人、興収4億6500万円で初登場1位。YouTubeで予告編が多くの再生数を叩き出していてヒットの予感は囁かれていたものの、去年の邦画最大のダークホース 『翔んで埼玉』(東映配給)の初日含む3日間累計で動員24万7968人、興収3億3094万9400円を越えるスタートなのだから、驚いた関係者も多いだろう。

しかも去年と違うのは、ご承知の通り今、映画館の座席は感染対策で半分のシートが潰されているのだ。このハンディキャップを背負った状況の中で、『今日から俺は‼』『コンフィデンスマンJP』のような人気テレビドラマの映画化でもないホラー映画がこれだけのヒットを記録するというのは、配給元の松竹だけではなく、映画関係者や映画館経営者も含めて「邦画は死んでなかった、まだ日本人は映画を求めている」とほっと胸を撫で下ろしたくなるようなニュースかもしれない 。

実際に映画を見ると、そのヒットも頷ける、単に真夏のお化け屋敷ではないヒューマンな映画になっている。

予告編やタイトルからは「いかにも企画物のB級ホラー」という印象を持つかもしれない。そして実際にこれは、松竹芸能所属の松原タニシという実在の『事故物件住みます芸人』をモデルにしたコテコテの企画物である。

正直言って、映画を見るまで僕も「なんでこんな企画物に亀梨和也や奈緒や瀬戸康史みたいな人気俳優が?」と思っていた。だが、映画『リング』の世界的成功で知られる中田秀夫監督と脚本のブラジリィー・アン・山田は、この映画を「リアリティ・ショー」という現代の怪物を描く物語に磨き上げている。

コンビ解散で生活に窮した売れない芸人・山野ヤマメは、テレビ番組の企画で、自殺や殺人事件があった家、いわゆる「事故物件」に住み、霊現象を撮影してこいと言われる。これは芸人・松原タニシの実話を基にしているのだが、映画はこの実話自体にある社会的構図、つまり『安全な場所から他人の恐怖を求める社会』をそのまま映画の中に恐怖の装置として設置する。

大抵のホラー映画というのは「お化けなんか出るわけないさ」とタカを括った若者の前にお化けが出る、という構造を持っているものだが、この映画は「お化け出てくれ、出ないと社会と貧困に殺されてしまう、でもお化け怖い」 というダブルバインドを描いているのだ。

作中でヤマメ(亀梨和也)が住むことになる事故物件のひとつ。霊現象をカメラに収めなくてはならないヤマメは、引っ越しを繰り返し、事故物件を転々とする生活を送る 『事故物件 恐い間取り』より (c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会
作中でヤマメ(亀梨和也)が住むことになる事故物件のひとつ。霊現象をカメラに収めなくてはならないヤマメは、引っ越しを繰り返し、事故物件を転々とする生活を送る 『事故物件 恐い間取り』より (c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

リアリティ・ショーは日本だけではなく、今や全世界で隆盛を誇り、多くの被害者を出しながら止まる気配はない。中田秀夫監督は、事故物件に出現する死者の霊ではなく、そういった死の痛ましい記憶が残る場に土足で踏み込み「何か面白いものを撮ってきて見せろ」と安全圏から欲望するテレビ、「リアリティ・ショー社会」を真の怪物として描いている

亀梨和也演じる売れない芸人・山野ヤマメに「笑うたびに人は174秒寿命が伸びる」と語らせるのは、『死と恐怖』の対概念として『生と笑い』を配置しているからだし、「主人公たちの漫才にまったくウケない観客」=「生ではなく死を求める大衆」に対し、1人だけ笑いを漏らす、ささやかな生を愛する奈緒演じるヒロイン、という人物造形も鮮やかだ。

「本当は事故物件芸人ではなく漫才をやってほしい」というヒロインの願いは「死を消費するのではなく小さな生を育ててほしい」という映画のテーマに結実している。

かつて中田秀夫監督が手がけた 鈴木光司原作の『リング』はそのストーリーの巧みな構造でハリウッドで映画化されるまでに至ったのだが、この『事故物件』のプロットや人物造形も、海外での上映、あるいはリメイクにも十分耐えるほど見事に描かれていて、この脚本は海外にも売れるのではないか、と思わされる。

俳優たちの演技も見事だ。普段ノーブルな美青年の役が多い瀬戸康史は、まるで若い頃の山崎邦正を思わせるような売れない漫才師の相方に見事に化けているし、奈緒は恐怖よりも笑い、死よりも生を求める心優しい 、そしてそれゆえに死者の霊が見えてしまうヒロインを魅力的に演じている。

しかしなんと言っても、この映画の成功は主演の亀梨和也によるところが大きいだろう。

押しも押されもしないジャニーズ事務所の人気スターである亀梨和也に売れない芸人役など一見ミスキャストに思えたが、社会と事故物件の間で板挟みになる苦悩、ヒロインを気遣いながらも危険に晒さざるを得ない矛盾、そうした複雑で繊細な演技が映画に見事にハマっている。

ドラマ『野ブタ。をプロデュース』の頃からそうなのだが、俳優としての亀梨和也には不思議な魅力がある。

ポートレイトの上ではいかにも「ドS王子」的にハンサムな顔立ちをしているのに、ドラマの中で動いて話す亀梨和也はどこかヒューマンで温かく、迷いや悩みの中でヒロインを思いやる優しさの演技にリアルな説得力があるのだ。

山下智久と共に演じた「修二と彰」の名コンビ、堀北真希演じるいじめられっ子のために一肌脱ぐクラスの人気者という「こんなやつがいてくれたらいいな」という設定を絵空事に感じさせない、下町的な人情の篤さが彼の演技にはある。

『FRIDAY』2020年7月17日号より
『FRIDAY』2020年7月17日号より

2016年に『怪盗 山猫』で共演して以降、広瀬すずはもう何年にもわたって主演の亀梨和也のことを色々なインタビューで話し続けている。当時 『海街diary』で脚光を浴びたとは言え、まだキャリアも業界の認知も浅かった広瀬すずのプレッシャーを和らげるために、亀梨和也は気さくに話しかけたり、出演者に溶け込めるよう会食の場を作ってくれたのだと言う。

もう何年も前の作品で、それ以来亀梨和也と広瀬すずの共演は一度もなく、また『怪盗 山猫』自体も諸般の事情で再放送も配信も少ない作品になっている。だが広瀬すずにはよほど心に残ったのか、 若手トップ女優の1人となった後も繰り返しその時の思い出を振り返り、「自分が先輩として主演する時は亀梨さんのようにしようと思っている」と語る。

新人時代の広瀬すずを先輩として温かく受け入れた懐の深い優しさは 、俳優としての亀梨和也の演技の大きな魅力の一つになっているのだろう。

優しさ、の他に亀梨和也の演技にもう一つ光るものを挙げるとしたら、それは迷いや悩みの表情だろう。緊急事態による番組再編の影響で『野ブタ。をプロデュース』が放送される中、亀梨和也は山下智久とラジオやインスタライブで共演の機会を持った。

その中で彼は慎重に言葉を選びつつ 、自分のグループに起きた過去のアクシデントや、事務所の中の活動の制約について語ったのだが、そうした話をする時に亀梨和也の表情や声に走る、古傷が痛むかのような微かな影は、この『事故物件』の主人公・山野ヤマメを演じる彼の演技にどこか面影がある。

人間性と芸能界での成功とを天秤にかけさせられ、自分の大切なものを見極めようとする主人公・ヤマメを演じる時 、過去に亀梨和也が経験してきた迷いや苦悩は、おそらく彼の演技を深めたのだろう。

メインキャストの他には『愛がなんだ』『半沢直樹』にも出演しブレイク中の名女優 ・江口のりこの不動産屋も光っている。松竹芸能の芸人から始まった企画は、優れた監督と優れた俳優陣によって、メディア自身に対する批評性を持った映画に磨き上げられた 。

公開3週目となる9月13日、今作の観客動員は早くも100万人を突破した。亀梨和也という俳優のヒューマンな温かみで、 企画ものから日本ホラーの名作の一つに「化けた」 映画、『事故物件 恐い間取り』のさらなる健闘を祈りたい。

『事故物件 恐い間取り』

出演:亀梨和也 奈緒 瀬戸康史 江口のりこ 木下ほうか MEGUMI 真魚 瀧川英次 宇野祥平 高田純次 小手伸也 有野晋哉 濱口優
監督:中田秀夫
脚本:ブラジリィー・アン・山田
音楽:fox capture plan
配給:松竹

(c) 2020「事故物件 恐い間取り」製作委員会

 

  • CDB(ライター)

CDB

好きな映画や人物について書いています

Photo Gallery3

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事