半沢直樹、パク・セロイ、小川淳也…真っ直ぐすぎる男が人気の訳 | FRIDAYデジタル

半沢直樹、パク・セロイ、小川淳也…真っ直ぐすぎる男が人気の訳

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この夏〜秋にかけて、なぜか「真っ直ぐすぎる男たち」を描いた作品が注目を浴びている

ひとつは、最終回が録画視聴率と合算した「総合視聴率」において44.1%という驚異的数値を叩き出した『半沢直樹』続編。もう一つは、Netflix配信の韓国ドラマ『梨泰院クラス』。さらに、ドキュメンタリー映画として異例の観客動員3万人を突破し、ロングランを続けている『なぜ君は総理大臣になれないのか』だ。 

民放の連ドラと韓国ドラマのフィクションと、ドキュメンタリー映画と、ジャンルは異なるし、描いている世界も金融、飲食、政治と、それぞれだ。にもかかわらず、これら3作に共通しているのは「圧倒的強者である大きな敵に、誠実に愚直に立ち向かう男たち」を描いていること。なぜ今、真っすぐすぎる男たちが求められるのか。

(イラスト:まつもとりえこ)
(イラスト:まつもとりえこ)

正義感の強い主人公が、自身の信念を曲げず、不条理な組織と対抗する物語『半沢直樹』

自身の利益や保身ばかり考える、カネと権力の亡者たちとの戦いは、金融という組織の中から、さらに政治の世界にまで発展していった。その中で、「土下座」を要求されたり、幾度もの出向(いわゆる左遷)や担当外しの憂き目に遭ったりしながらも、決して諦めずに権力と戦う半沢の姿は、多くの視聴者の共感を呼んだ。

なかでも、最終回ラストで半沢(堺雅人)が箕部幹事長(柄本明)の悪事を暴いた際に放った次のセリフは、大いに話題になった。

「記憶にないですむのは国会答弁だけの話です。ここは国会ではありません。そんな馬鹿げた言い訳、一般社会では通用しない!」

「政治家の仕事とは、人々がより豊かに、より幸せになる政策を考えることのはずです。今この国は大きな危機に見舞われています。航空業界だけでなく、ありとあらゆる業界が厳しい不況に苦しんでいる。それでも人々は必死に歯を食いしばり、懸命に日々を過ごしているんです。 

それはいつかきっと、この国にまた誰もが笑顔になれるような明るい未来が来るはずだと信じているからだ。そんな国民に寄り添い、支え、力になるのがあなた方政治家の務めでしょう? 

あなたはその使命を忘れ、国民から目をそらし、自分の利益だけを見つめてきた。謝ってください。この国で懸命に生きるすべての人に。心の底から詫びてください」

Twitterなどには「半沢直樹を見ていて痛快なのは、腐った政治家をぶったぎるところだな。箕部への20億は、モリカケの10億だな」「これは間違いなく安倍晋三前首相と二階俊博幹事長を猛烈に批判している!」などの声が続出。しかし、これは現政権ではなく、民主党政権時がモデルという指摘もある。ともかく、日本人の多くは、右とか左とか関係なしで「政治家は嘘をつくもの」という共通認識を持っているということはよくわかる。

しかも、現実は善悪で割り切れないことも多いからこそ、わかりやすく「勧善懲悪」「倍返し」してくれる半沢直樹という真っすぐすぎる人間が、多くの共感を得たのだろう。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

『梨泰院クラス』パク・セロイ、仲間をどこまでも信じる情の厚さと、信念に合わないことは受け入れられない不器用さ

また、「『半沢直樹』に夢中になった人なら、ハマるはず」と言われるのが、韓国ドラマ『梨泰院クラス』だ。こちらはなんと15年にもわたる時間を費やした「復讐劇」である。

主人公は、いがぐり頭の純朴で堅物で真っすぐすぎる男、パク・セロイ(パク・ソジュン)。正義感から、いじめを見て見ぬフリできずに、殴ってしまうが、それが国内最大の飲食チェーン「長家(チャンガ)」会長の長男・グンウォンだったことから、転校初日に高校を退学になり、父も仕事を辞めざるを得なくなる。

さらに父は、ひき逃げ事故に遭い、死亡。それがグンウォンが起こした事故で、他者に罪がなすりつけられていたことを知ったセロイは、グンウォンを半殺しにして殺人未遂で3年の懲役となってしまう。

ここからが長い復讐劇の始まりだ。刑務所の中で勉強と準備を進めながら、2年で出所したセロイは、その後漁船に乗り、7年後に梨泰院に小さな飲み屋を開く。なんとここまでで全16話中の2話。すでに濃密すぎるが、「復讐計画」の本格的スタートはここからで、ワケありの仲間たちとの絆を育みながら、長家による幾度もの妨害に負けず、やがては国内飲食トップにまで上り詰める。

驚くべきは、セロイの気が遠くなるほど長期戦の復讐計画と、仲間をどこまでも信じるお人好しぶりと情の厚さ、信念に合わないことは受け入れられない不器用さ、真っすぐさだ。

相手の要求に合わせて形式的に「土下座」だけしておけば、高校中退になることも、父親が職を失うこともなかった。おそらくは父親が事故死することも、殺人未遂で刑務所に入ることもなかったに違いない。しかし、保身のために、自身に全く非がないことを罪として受け入れ、誇りを失ってしまったら、そこからの時間は常に真っ暗闇だったことだろう。不器用で真っすぐすぎる性質は、結果的に大切な仲間と成功を手に入れることにつながっている。

ポレポレ東中野ほか全国ロングラン中 ©️ネツゲン
ポレポレ東中野ほか全国ロングラン中 ©️ネツゲン

フィクションよりももっとフィクション! 真っすぐすぎる人物のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』

とはいえ、『半沢直樹』や『梨泰院クラス』のパク・セロイの真っすぐさは、みんなの憧れであり、現実にはありえないフィクションならではのファンタジーだ。ところが、「フィクションよりももっとフィクションのような真っすぐすぎる人物」が現実にいることを知った。それも、「嘘をつかない人なんているのか」と誰もが思う政治の世界に。

それが、大島新監督が17年間、小川淳也という衆議院議員を追い続けたドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』である。 

東大を出て官僚になったものの、「官僚では社会を変えられない」という思いから、32歳で出馬。そんな彼は、初対面の大島監督に対して言う。

「政治家になりたい、と思ったことは一度もないんですよ。“なりたい”ではなく、“ならなきゃ”なんですよ。やらざるをえんじゃないか、という気持ちなんです」「政治家がバカだとか、政治家を笑ってるうちは、この国は絶対に変わらない。だって政治家って、自分たちが選んだ相手じゃないですか」

小川氏にあるのは、ひたすらに「日本をよくしたい」という思いのみだ。しかも、驚くのは、「政治家になりたいと思ったことはない」という本人同様、家族の誰も「政治家になってほしい」と思っていないこと。

選挙活動の応援のために、泣きじゃくる幼い娘を実家に預け、「こんなことしたくないんですけどね……子どもたちの未来のためにと思って、どこかで自分を納得させて、主人の決断を受け入れたけど、未来も大事だけど今も大事でしょう?」という妻に、「(政治の世界に)要らないなら息子を返してくれ」「もしかしたら政治家に向いていないんじゃないか」という母。さらに「本人が今言っている初志が、もしずれてきたり、間違った方向に行ったと感じたときは、先頭に立ってひきずりおろします」という父。

さらに選挙活動の迷惑さを感じる友人たちも、皆、彼の誠意と熱意に巻き込まれていく。

2009年に民主党が政権をとったときには、総務大臣政務官を務めるなど、順調にキャリアを積み上げた時期もあったが、民主党下野以降は苦汁の日々に。さらに、2017年の総選挙で「野党再編」の渦に巻き込まれ、苦悩の末に「希望の党」からの出馬を決めると、選挙活動時に「おまえ、安保法制、反対しとったじゃろが! イケメンみたいな顔しやがって、おまえ、心はもう真っ黒やないか」などの非難の声を浴びる。

それも、「娘です」のタスキをかけて父のために街頭に立つ娘たちの前で。子どもを持つ人にとって、この場面はなかなか直視できない辛いものではなかったかと思う。

「人生の8割は我慢、残りの1割は辛抱、最後の1割は忍耐」と小川氏が語る理由には、地元・香川1区の対抗馬が、自民党の3世議員、香川県でシェア6割を誇る四国新聞や西日本放送のオーナー一族の平井卓也氏だという事情もある。

連日、朝夕と、一方的に批判的な記事を出されるなどの圧倒的不利な状況を見るにつけ、「別の地域から出馬すれば良いのに」と思う人は多いだろう。

映画を見て、小川氏の対抗馬と、「国会のワニ動画」で話題になった人と、さらにその人がデジタル改革担当大臣になったこととが一気に結びつき、非常に複雑な思いをしている人は多いのではないか。

しかし、おそらく本人は、自身の出自が「庶民」であることにこだわりを持ち、さらに「普通の庶民の家庭で育ち、庶民の生活を肌感覚で理解している人が政治に携わること」に大きな意味を見出しているのだろう。

こんなにも苦しい日々で、平日は議員宿舎に寝るためだけに戻り、週末は地元の家賃4万7000円のアパートに帰って、レンチンした揚げを美味しそうに頬張る小川議員。食事のときには、一人でも「いただきます」と両手を合わせて言い、目の前の相手に食事をとったかを必ず先に確認する。批判的な言葉も、笑顔で「ありがとうございます」「勉強になります」と受け止める。さらにYouTubeやTwitterで毎日発信している「動画千本ノック」などでは、有権者からの質問に一つ一つ自身の言葉で真摯に回答し続けている。

こんなに真面目で、出世欲や権力欲のない綺麗な政治家がいるのかと驚くとともに、多くの人が思うのは、『なぜ君は総理大臣になれないのか』に対する自身への問い「なぜ私たちは彼を総理大臣にできないのか」だろう。

この3作を観ていると、つい「権力に逆らわなければ左遷なんてされなかったのに」(半沢)「土下座しておけば、高校中退にも前科者にもならなかったのに」(梨泰院クラス)「東大を出て官僚を続けていれば、あるいは学者になっていれば、本人も家族ももっとずっと楽だったろうに」(なぜ君)と思ってしまう部分もある。まして「勧善懲悪」や「成功」が結末にあるフィクションと違い、現実で、現在進行形で続いている『なぜ君~』は、重くしんどく、出口が見えない。

ではなぜ今、多くの人が彼らのような「真っすぐすぎる男」に惹かれるのか。

それは政治や金融などの世界だけでなく、私たち自身の日常生活の中でも、「嘘をつくこと」「ごまかすこと」、あるいは積極的に嘘やごまかしを選択することはないにしても「目をつぶること」「諦めること」が当たり前になってしまっているからではないか。

私たちは生きていく中で様々なトラブルに直面しつつ、「転ばない方法」を自然と学び、選ぶようになっていく。自分の子に対しても、転ばない方法を教えようとするし、なんなら先にある石を親が率先してどかしてあげたくなってしまうことすらある。そのうち妥協したり、見なかったことにしたり、忘れたりすることが上手になっている。その積み重ねが、おそらく「現在」だというのに。

だからこそ、嘘をつかず、圧倒的不利な状況でも逃げず、痛みを抱きながら誠実に真っすぐぶつかっていく愚直な彼らにはハラハラするし、心配になるし、と同時に眩しさも感じる。猛烈に諦めが悪く、しぶとく、不器用な彼らの生き方は、私たちが手放し、諦めてきた憧れの姿なのではないだろうか。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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