居酒屋から大転換!「焼肉の和民」安さと自動化で見える勝算
1号店で実際に自慢の独自ブランド牛を食べてみた
「オマタセシマシタ ゴチュウモンヒンヲ オトリクダサイ」
回転寿司店のようなレーンに、注文した焼肉がトレイに乗って運ばれてくると、座席脇のスピーカーから音声が流れる。頼んだのは、おススメの「ワタミカルビ」(390円)。果たして味は……。うん、しっかりした食感で脂も乗りもまずまず。この安さなら、満足できる味だーー。
外食チェーン「ワタミ」(渡辺美樹会長)が、思い切った改革を発表したのは10月5日のこと。22年3月までに既存の居酒屋120店舗を、焼肉店「焼肉の和民」に転換。今後5年間で、400店出店するというのだ。同社の主力ブランド、居酒屋「和民」は消滅することになる。経済ジャーナリストの松崎隆司氏が語る。
「居酒屋業界は、数年前から苦境に立たされていました。理由は三つあります。一つは人件費の高さ。いろいろな料理を扱うため、料理人や配膳のためのスタッフなど多くの人手が必要になります。二つ目目は、若者の居酒屋離れ。大学生などが外で酒を飲まなくなり、ライフスタイルが変わりました。
三つ目が、ライバルの増加。同じ業態の店だけでなく、『吉野家』や『富士そば』なども『ちょい飲み』と称してアルコールを提供しています。おかげで、大きな顧客である仕事帰りのサラリーマンの足が遠ざかってしまいました。
決定的な打撃となったのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。居酒屋業界の売上は、8月期で前年比約42%まで落ち込んでいます」
「和牛カルビ」の味つけが……

主力業態・居酒屋の深刻な低迷。「ワタミ」は、なぜ代わりとして焼肉を選び、大きく舵を切ったのだろうか。松崎氏が続ける。
「焼肉業界は8月期で、前年比約86%と比較的新型コロナの影響が小さい。しかも店は食材を提供するだけで、肉を焼くのは客です。実質的なセルフサービスで、人件費削減になります。居酒屋に比べ客単価も高く、夜だけでなく昼も営業できるというメリットもあるんです。
ワタミは今年6月、ファミリー向け焼肉食べ放題店『かみむら牧場』をオープンしました。これが好評で、手応えを感じたんでしょう。転換する居酒屋『和民』の多くが駅前という好立地も、プラスに働くと思います」
ワタミは、10月5日に本社近くの東京・大鳥居で「焼肉の和民」1号店を開店させた。記者が知人と2人で同店を訪れたのは、オープン直後の10月上旬だ。夜8時半を回っていたが、店はカップルやファミリーを中心に満員。案内された席はコンパートメントで仕切られ、周囲の視線を気にせずリラックスできる。
「お時間は100分です。食べ終えた食器などは、そのままテーブルに置いておいてください」
スタッフが丁寧に説明する。メニューを見ると、肉は40種類以上、ドリンクは80種類ほどで充実している。備え付けのタッチパネルで「豆苗ナムル」(390円)と「中生ビール」(490円)を注文。数分のうちに、座席横のレールでトレイに乗った料理や飲み物が運ばれてきた。
豆苗ナムルをパクリ。シャキシャキして歯ごたえ十分。次に頼んだ「和牛カルビ」(980円)も、チェーン店にしてはまずまずの味だろう。ただ味つけが少し濃い目で、40代半ばの記者は4~5品食べたら「もうお腹いっぱい」という内容だった。
カタカタカタ……。
食事を終えテーブルの前に現れたのは、愛嬌のある丸っこい形状の配膳ロボット。トレイに皿を置くと、自動的に厨房まで運んでくれるという。子どもが喜びそうなシステムだ。肝心の料金は……酒を5~6杯飲み、2人で7000円弱。焼肉店としては、安いほうだろうか。
「ワタミ」の社運をかけての大転換。果たして勝算は? 前出の松崎氏が話す。
「十分あると思います。『焼肉の和民』は肉以外にも、野菜やスウィーツのメニューが充実している。女性やファミリー層の客が期待できるでしょう。独自開発したオリジナルブランド『和民和牛』も強みです。ロボットを本格的に導入できれば、コスト削減にもなります。
ただ不安要素もあります。焼肉店は、世情に影響される部分が大きい。牛への感染症が起きれば、一気に客足が遠のきます。ライバルチェーンも多いので、斬新なメニューやサービスを逐次提供しなければなりません」
追い込まれた外食チェーン大手の、思い切った方向転換。吉と出るか凶と出るか。ワタミは居酒屋から焼肉店の改装費に、約40億円をかけている。


