『危険なビーナス』妻夫木聡が提示する「可愛い男」のトシのとり方 | FRIDAYデジタル

『危険なビーナス』妻夫木聡が提示する「可愛い男」のトシのとり方

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「座長」としての貫禄と、ナチュラルな「DT感」の共存は奇跡のバランス 

日本人は男女ともに“童顔の可愛い子”を好む人が昔から多い。

女性の俳優の場合、深キョンなどを筆頭に、トシをとらない人が尊ばれる傾向があるが、その一方で、男性の俳優に関しては「童顔・小柄の可愛いタイプはトシをとってから難しいんじゃないか」と昔から散々言われてきた。

だからこそ、あえて太ってみたり、ヒゲをたくわえてみたり、ときには”汚れ役“などに挑戦してみたりしながら、演じる役の幅を広げるために苦悩する人も少なくない。

そんな「可愛い男」筆頭の妻夫木聡も、気づけば39歳。テレビCMや数々の映画ではその姿をずっと見続けているが、いわゆる地上波“連続ドラマ”出演は『若者たち2014』以来6年ぶり、「日曜劇場」主演は16年ぶりという。 

そんな待望の地上波連ドラ主演作『危険なビーナス』で、39歳・妻夫木聡は、どんな顔を見せてくれるのかは、非常に気になる点だった。

しかし、結論からいうと、妻夫木聡は相変わらずちゃんと「可愛い妻夫木聡」のままだった。そのうえ、新たに「スケベ風味」を盛り込み、かつ、すでにベテラン感も漂わせる風格・安定感も醸し出しているのだから、見事である。

東京の外国人通信員クラブで開催された映画『悪人』の記者会見で。この映画は、第34回モントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門に出品された(2010年9月 写真:アフロ)
東京の外国人通信員クラブで開催された映画『悪人』の記者会見で。この映画は、第34回モントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門に出品された(2010年9月 写真:アフロ)
台湾・中国・香港合作となるホウ・シャオシェン監督の『黒衣の刺客』で、第68回カンヌ国際映画祭に出席(2015年5月 写真:アフロ)
台湾・中国・香港合作となるホウ・シャオシェン監督の『黒衣の刺客』で、第68回カンヌ国際映画祭に出席(2015年5月 写真:アフロ)

実は同名の原作小説は、東野圭吾作品のなかでは、決して人気作のほうとはいえない。特に妻夫木が演じる惚れっぽい主人公・伯朗は東野作品ファンの間で「エロ朗」とも言われ、あまり愛されていないキャラだ。

しかし、ドラマを観てみると、原作に最もイメージが近いのがこの伯朗である。

正直なところ、伯朗の「妄想」シーンには賛否両論あり、特に「妄想」を予告に盛り込むこと自体はあまり行儀の良い方法とは思えない紛らわしさがあるために、批判の声がかなり多い。

とはいえ、伯朗は「エロ朗」感を無難に薄めることなく、しっかり表現されているにもかかわらず、妻夫木が演じることによって、「愛らしさ」や「嘘のつけない素直さ・真っすぐさ」「正義感」が感じられる人物になっている。このあたりのバランス感覚は、妻夫木ならではと言って良いだろう。

しかも、伯朗の周りにいる連中ときたら、舌足らずの言葉で甘ったれた様子を見せたかと思えば、直後に太い声+冷たい表情を見せる吉高由里子を筆頭に、ことごとく怪しい人物ばかりである。

そんな中、周囲の人々の怪しさを素直に一身に受け止め、ときに翻弄されつつも、伯朗が回を重ねるごとにどんどん単なる「エロ朗」ではなく、事件の「当事者」として浮かび上がってくる。

まるで光と影が、何らかのスイッチによって不意に逆転するような面白さを、妻夫木の存在感の変化から感じることができるのだ。

映画『愚行録』(監督・編集:石川慶、2017年作品)のPRで韓国を訪問した時の写真(2019年1月 写真:アフロ)
映画『愚行録』(監督・編集:石川慶、2017年作品)のPRで韓国を訪問した時の写真(2019年1月 写真:アフロ)
最後は、俳優デビューした翌年1999年12月に撮影されたお宝画像!(写真:共同通信)
最後は、俳優デビューした翌年1999年12月に撮影されたお宝画像!(写真:共同通信)

『危険なビーナス』での妻夫木演じる伯朗を観ながら、この安心感がどこから来るんだろうと思っていた。

しかし、徐々に、とある作品のとある人物と重なって見えてきた。それは倉本聰が脚本を手掛けるテレビ朝日の話題の帯ドラマ『やすらぎの郷』(2017年)、『やすらぎの刻~道』(2018年)主演の石坂浩二である。

俳優や歌手、ミュージシャン、脚本家など、昭和世代にテレビの世界で活躍した人物だけが入居する老人ホーム「やすらぎの郷 La Strada」を舞台に、家族の絆や友情、愛情、死などが、テレビ業界への皮肉もたっぷり込めて描かれていた同作。

そのなかで石坂浩二は、強烈な同居人たちに振り回され、戸惑いつつも、彼らの愛憎入り混じった様々な感情を真ん中でしっかり受け止め続けている。主人公としての「華」があり、強烈な個性の面々を束ねる貫禄や安定感・「座長」感はあるのに、その一方で「個人」としてはいつまでたってもどこか青春の真っただ中にいるような「坊や」っぽさもある。

『危険なビーナス』における妻夫木もまさにそれに近い印象で、主人公としての「華」があり、魑魅魍魎たちを束ねる貫禄・安定感があるのに、素直に嫉妬を剥き出しにしたり、うろたえたり、ちょっと挙動不審になったりする様子はまだ思春期の少年のようである。ネットの一部ではそんな妻夫木が「DT感(童貞感)」と言われていたが、確かに「座長」としての貫禄と「DT感」がナチュラルに共存するという、奇跡のバランスが成り立っているのだ。 

考えてみれば今は、男性でもV6・三宅健のように年々ますます可愛くなっていくタイプはいるものだ。その一方で「おじカワ」「おじキュン」などが今年流行したように、見た目の一般的可愛さと別の観点による「おじさん」という年齢・立場・属性ならではの「可愛さ」を女性たちが愛でる文化も浸透してきている。

にもかかわらず、いつまでも「可愛い男性俳優は、トシをとってからどうするのか」なんて考えること自体、もはや時代遅れでナンセンスなのかもしれない。 

『危険なビーナス』で妻夫木聡が提示しているアラフォーの可愛さ・頼もしさ・演技の確かさは、そうしたいわゆる「童顔可愛い系俳優」の未来を明るく照らすものとなっている。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

  • 写真アフロ、共同通信

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