あらゆる邪心も無効化する 森七菜の「奇跡的な健全力」 | FRIDAYデジタル

あらゆる邪心も無効化する 森七菜の「奇跡的な健全力」

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「笑うと目尻が下がって、ほとんどなくなってしまう目」、その屈託ない笑顔に癒される

TBS火曜ドラマ『この恋あたためますか』(通称『恋あた』)に主演している森七菜。 

20代~40代の女性層をメインターゲットとして「恋愛」を主軸に描くことの多い同枠において、まだ19歳と、メイン視聴者層よりかなり若い年齢ながら、「座長」としての力量・安定感を見せている。

しかも、演じている役柄は、アイドルになる夢破れたコンビニ店員・井上樹木(森七菜)。挫折を経験したことで屈折しているうえ、業界最下位のコンビニチェーン社長・浅羽拓実を演じる中村倫也(33歳)のことを「おっさん」と呼んだり、「マジでムカつくわー」「バカなのか?」と悪態をついたりする口の悪さ、ぶっきらぼうさ、がさつさは、正直、序盤ではあまり魅力的に見えなかった。若いながらもナチュラルな演技がすでに高く評価されているだけに、「なぜ森七菜をあえてこの役に?」と思った人も少なくなかっただろう。

おまけに、SNSでスイーツ批評していたことが評価されただけで、お菓子作りを本格的に勉強したこともないのに、スイーツ開発で才能を発揮するという展開も、無理があるんじゃないかという指摘は多かった。

しかし、回を重ねるごとに、樹木を演じるのが森七菜である必要性を感じる場面が増えている。それは特に「浅羽の変化」を描く上で発揮されている。

例えば、第6話。浅羽とヨリを戻した元カノ・里保(石橋静河)は、背信行為で社長を退陣した浅羽が、樹木らコンビニメンバーたちと温泉に行っていたことを知り、ショックを隠せない様子で、首をかしげて言う。

「拓実が職場の付き合いで温泉入って宿に泊まってみんなでご飯……信じられない(笑)。樹木ちゃんといるときの拓実は私といるときと全然違う。なんかもっと心を開いているように見える」

それに対し、樹木に思いを寄せる新谷(仲野太賀)は「考えすぎだって!」と自身も慰めるように里保に言い、「ほら、樹木ちゃん、そういうところあるじゃん。人の心をこじあけるような」と付け加える。

実はこのドラマにおいて樹木は、自身が夢破れたところから新たな夢に向かって再生していく変化を見せる以上に、浅羽をはじめとした「周りの人々に変化を与えること」が重要な役割となっているように思う。そのうえで、お菓子の才能は知らないが、森七菜には確かに一番のキモとなる「人の心を開かせる」「人の心をこじあけるようなところ」があるように見え、主人公的説得力が十分にあるのだ。

こういう他の人達と違う“ザ・主人公特性”のヒロインは、かつての朝ドラに多くいたが、ともすれば嘘くさく、うっとうしくなりがちである。「主人公のおかげで〇〇になった」的展開は、今の時代、あまり好まれないことも多い。その点、全くイヤミなく周り中に愛され、周り中を巻き込んで輝く主人公といえば、『表参道高校合唱部』の芳根京子が稀有な例だと思っていた。しかし、森七菜には間違いなくそれがある。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

朝ドラ『エール』での「メガネっ子」梅もそうだが、森七菜のイヤミのない主人公的輝きが最も発揮されたのは、山里亮太の短編小説を原作とし、主人公の山里亮太役を仲野太賀が演じるテレビ東京の『あのコの夢を見たんです。』だ。

実在する女優やアイドルを題材に、山里が様々な妄想を繰り広げるオムニバスで、原作にないドラマオリジナル回・第3話のヒロインを演じたのが、森七菜だった。

森七菜は、冒頭から台車に積んだダンボールにのりこみ、台車を男子たちに押させて大声ではしゃぎながら登場する。それを見て「ホント、七菜っておバカだよね」と女子たちは笑うが、そこには”おバカ可愛い”愛情が込められている。彼女がいるだけでそこに光が当たったように明るくなり、男女問わずすべての視線が集中して、その場が「メイン会場」となる

そんな彼女は、教室の隅っ子で「僕は透明人間」とつぶやく山里(仲野)のことが「唯一見えている」幼馴染で、「顔は正統派ヒロイン」なのに「歩く大音量スピーカー」と呼ばれている”お子ちゃま“である。

しかし、森七菜はおバカな小学生男子のようにいろいろな男子に片っ端から告白しては、玉砕する。そして短絡的に「どうせ悲劇のヒロインタイプが好きなんでしょ?」と思いつき、「悲劇のヒロイン宣言」をぶちあげて、「HHP(悲劇のヒロインプロジェクト)」に山里を巻き込みながら励むのだった。

そこから繰り広げられた「HHP」のアホな作戦ときたら。「複雑な家庭環境であることが多い」と気づいて、「イイこと思いついちゃった~」と言ったかと思えば、玄関の靴を左右逆にしたり、塩と砂糖を入れ替えたり、時計を逆にしたり……。“複雑な家庭環境”のなんたるかを全く理解していないおバカさと、幼さ、健全さは、実に清々しい。

その後も様々なアホな作戦を決行するが、次第に「透明人間」山里との交流が注目されるように。そして、山里は七菜のストーカーと勘違いされ、「キモイ病がうつる」と言われるまでになるが……。

陽キャも陰キャも、体育会系も文科系も、優等生も劣等生も、イケメンもそうでない人も、全く分け隔てなく接する(というか、そうした区分に気づいてすらいなさそう)タイプというのは、「主人公特性の人」にはときどきいる。そういうタイプには、意地悪や悪意も通じなければ、卑屈も卑下も通じない。そういうすべての悪意や邪心を無効化してしまうような「主人公的優しい鈍感力」や「健全フィルター」が、森七菜にはあるように見えるのだ。

一つには、おそらく幼少時からほとんど変わっていなさそうな顔と、これまた幼少時からほとんど変わってなさそうな、「笑うと目尻が下がって、ほとんどなくなってしまう目」が特徴的な、屈託ない笑顔があるだろう。人は年齢を重ねるごとに、様々な経験や感情によるコントロールが邪魔して「屈託なく笑う」ことができなくなっていく。間もなく成人になるというのに、それが汚れなくそのまま保存されているのは、奇跡的だ。 

また、そうした魅力がギュッと詰まっているのは、オロナミンCのCMである。生徒会長スピーチ用のカンペを手の甲に描いたのに、緊張で汗をぬぐって消えてしまったり、校舎の裏で「見えない敵」と真剣に戦っていたり。まるで昭和のアニメキャラのような健全な明るさ・良い意味での“ガキっぽさ”がある。 

周りにいる人の様々な黒い感情を無効化し、嫌味なく背中を押してあげて、エネルギーをまき散らしては周りにも注入してしまう森七菜の“健全”力。それはあらゆるドラマに強い正のエネルギーを与えて、大きく前に進める推進力となっているのではないだろうか。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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