「孤高の東野幸治」CMはゼロでも業界からの信頼度抜群なワケ

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『グッとラック!』(TBS系)にレギュラー出演中のロンドンブーツ1号2号・田村淳が欠席したことから、その代役を務めた東野幸治が、SNSなどで絶賛されたのは、11月9日のこと。

様々な不祥事が続く『行列ができる法律相談所』(日本テレビ系)も、後藤輝基と交代で「所長」を務めるかたちで引き継ぎ、松本人志の失言やゲストの暴言がときどきヒヤっとする『ワイドナショー』(フジテレビ系)でも、ギリギリでストップをかけたり、話題を変えたりしながら、滞りなく進行している。 

あらゆる番組において、東野幸治がいることの安心感たるや。

レギュラー出演のテレビ番組は先の『ワイドナショー』『行列のできる法律相談所』のほか、『東野・岡村の旅猿 プライベートでごめんなさい…』(日本テレビ)、『笑いワイドショー マルコポロリ!』(関西テレビ)、『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京)、『ちゃちゃ入れマンデー』(関西テレビ)、『教えて!ニュースライブ 正義のミカタ』(朝日放送テレビ)、『梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ!』(NHK BSプレミアム/NHK総合)、『芸能人が本気で考えた!ドッキリGP』(フジテレビ)、『NHKだめ自慢~みんながでるテレビ~』(NHK総合)、『みえる』(テレビ朝日)と10本以上。和牛との配信番組『Cheeky’s channelアワード』も始まったばかりだ。

しかし、「超売れっ子」にもかかわらず、面白いのはCM出演本数がゼロで、好感度も「中年男性のみ」と非常にピンポイントであること(『ゴッドタン』の『マジギライ1/5』に登場した際の紹介文)。

おまけに、今年2月23日からはYouTubeチャンネル『東野幸治の幻ラジオ』をスタートしているが、そのきっかけは、「ラジオしたいって4、5年前から言ってて」、去年の11月に「4月からラジオやってくれませんか?」と局の人からダイレクトで言われていたにもかかわらず、「残念ながら無理でした」「スポンサーがつかないんです」と言われたため(『マルコポロリ!』3月8日放送分)。

仕事への信頼度は抜群のはずなのに、スポンサーがつかないから、CMもラジオもできない東野幸治。いったい何故なのか。 

(写真:アフロ)

一つには、東野のバランサーゆえの役割が影響していると思う。

レギュラー番組をはじめ、出演番組の中には、あえて固有名詞は挙げないが、正直、胡散臭いものもないわけではない。しかし、感動ポルノ的番組や、お涙ちょうだいの展開で、東野だけは青白い真顔をしていたり、全く面白くないくだりで全員が爆笑しているときに、一人笑っていなかったりする。

空気を読まずに「素」でいる様は、一見大人げなく見えるが、その実、番組の胡散臭さに客観的視点を入れることで、視聴者は腑に落ちて、笑いに変えたり、モヤモヤした思いのガス抜きをすることができる免罪符になっている気がする。番組にとってはありがたい存在だが、そういう忖度しないバランサーにCMを託せるかというと、正直難しいだろう。

その一方で、芸人にありがちな「酒」や「女」で芸人仲間とつながっている感が全くない。つながりが見えるのは、映画や本の情報交換や、ゲーム、仕事ばかりというのが、何とも変わり者臭くて好感が持てる。

かといって、実直で、トンがりまくっている芸人であれば、10本以上ものレギュラー番組がこなせるわけはない。

東野は、実は“無難に”番組を進行することも得意だ。とはいえ、“無難”を成立させることができるのは、東野の知識量や目配り、処理能力の高さあってのこと。なにせ出演番組の多くには、たくさんのトラブルや落とし穴がたくさん用意されている。

『ワイドナショー』では、松本人志のスレスレの発言や、ときにはダダスベリのコメント、コメンテーターたちの偏りや暴走ぶりなどを制御しながら、ニュース的な補足情報も加えて進行していく。逆に、東野がいるから、安心してボケたり、暴言を吐いたりできる部分はあるだろう。

同様に、処理能力の高さが伺えるのは、『梅沢富美男と東野幸治のまんぷく農家メシ!』や、1日4時間ずつ合計12時間行われた生配信番組『吉本芸人生存確認テレフォン』、レギュラー番組の『みえる』だ。

素人相手の番組や、リモートや生放送など、何かと制限が多く、想定外のことばかり起こるなかでこそ、冷静に処理できる東野の手腕が光ってくる。ときには一人で尺を考えずに延々としゃべる人、脱線する人が出てくることもあるが、そういうとき東野はよく「……わかりました~!」と、とりあえず受け止めていったん締める。全然わかっていなくとも、とりあえず受け止めているから、あまり角が立たない(本当はあいてはむしろ腹立つかもしれないが)。これは真似したいと思う技だ。

「感情を持ち合わせていない」とか「白い悪魔」と言われてきた東野だが、特筆すべき点の一つに深い「お笑い愛」「芸人愛」がある。

エッセイ集『世の中と足並みがそろわない』が話題の芸人・ふかわりょうが、「恩人」として出版記念のトークショーの対談相手として希望したのが東野だった。そして東野は、期待に応え(?)「びっくりするぐらい気がくるってる。ひるおび! の彼はニセモノ」と話すなど、ふかわの“闇”や”毒“の部分を存分に魅力的にプレゼンしていたのだった。

また、有名なのは、『アメトーーク!』の東野幸治プレゼンツ「どうした!? 品川」「帰ろか…千鳥」「スゴいんだぞ! 西野さん」の三部作。鋭い視点&キレキレのトークと有り余る深い芸人愛が見られる名作で、何より東野のプレゼンを機に、視聴者やテレビ関係者が「楽しみ方」や「本当の魅力」を理解し、後に彼らがブレイクしたり、露出の機会を増やしたりするというのは、一つの流れになっている。

こうした流れは、『週刊新潮』の連載をまとめたエッセイ集『この素晴らしき世界』(新潮社)でも見られる。ここでは、西川きよしや坂田利夫、宮川大助・花子といった師匠クラスから、ピース綾部祐二、ガンバレルーヤのよしこ、さらにリットン調査団・水野まで取り上げ、愛情たっぷりに描かれていた。特にリットン調査団に対する「偏愛」ぶりは素晴らしい。

また、はるな愛やどぶろっく、世界のナベアツ、AMEMIYA、風船太郎、ハリウッドザコシショウなど、『あらびき団』(TBS系)からブレイクした芸人は数知れず。どぶろっくがまさか2019年キングオブコントの王者になるなんて、それよりもさらにハリウッドザコシショウが、まさか後にR-1ぐらんぷりになる日が来るなんて、当時予想していた人はいなかっただろう。『あらびき』ファンにとってはなんだかパラレルワールドに迷い込んだような現在の世界観である。

他に、安穂野香、ふとっちょ☆カウボーイ、ガリガリガリクソン、リー5世、メグちゃん、みちゃこ、とくこ、しずもさんなど、『あらびき団』でなければというか、東野がいなければ「楽しみ方」の正解がわからなかった芸人が多かったろう。また、友近が毎回新ネタのお試しにやって来たり、博多大吉、後藤輝基、笑い飯&千鳥らが『あらびき団』という場所だから見せることができたあらびき芸もあったりした。そこは、どんな珍味や刺激物を持ち込んでも「商品」として成立させてくれる、東野の的確なツッコミがあってこそ。現在の『有吉の壁』における有吉の立ち位置と同じ役割である。

ちなみに、番組が終了した後も、配信番組『ナマイキ! あらびき団』(TBSチャンネル他)や『パラビき! パラビき! あらびき団~四天王編~』(Paravi)を密かにしつこく継続していた愛情深さも見逃せない。

余談だが、もともと漫画やアニメに関する造詣が深く、批評も面白かったが(「あだち充ドS説」などは非常に秀逸)が、彼のInstagramなど見ると、本や映画などをこまめに摂取している様子がわかる。芸人やお笑いだけでなく、カルチャー全体に対する愛も深いのだ。

(イラスト:まつもとえりこ)

ところで、仕事ぶりに対して絶大な信頼を個人的に勝手に寄せている東野の密着ドキュメンタリーがあると知った。11月28日放送の「密着205日! 東野幸治、津軽三味線を奏でる」(BS日テレ)である。

これは『行列のできる法律相談所』の企画で、津軽三味線に挑戦した東野に密着する番組。「人生で何かを成し遂げたことがない」という彼が、三味線奏者・吉田兄弟の指導を受けながら約半年でマスターすることを目指し、細川たかしの「望郷じょんから」を本人の歌に合わせて演奏するという最終目標を掲げるが……。

驚いたのは、東野なのに、全くボケがないこと。「ボケない」というボケだったのか。唯一ボケたのは、空気を読んだのか、途中で細川たかしが「刺客」としてレイザーラモンRGを送り込んだところくらいだった。

本番前に眉毛をゴリゴリに描かれている場面だって、東野だったらスルーするわけがない。東野仕切りの番組だったら、緊張感たっぷりの出だしの「見せ場」において、東野自身の指先やアップなんて抜くわけがない。絶対にカーテンなど関係ないものや、細川たかしの生え際なんかをズームアップするに決まっている。だからこそ、ボケなしの番組を観ながら何度も「この画面の隅っこに東野がいてくれたら!」「東野がこのVTRを観てくれていたら!」と思わずにいられなかった。

そのくらい「何も起こらないもの、スベリそうなものも、愛あるツッコミで笑いに変える」のが東野幸治だ。そして、『あらびき団』に出会ってからというもの、あらびきファンの脳内は完全に「あらびき脳」として汚染されてしまっているのだ。 

ちなみに、この企画について6月14日に配信された『東野幸治の幻ラジオ』の「次は俺か後藤か」の回では、津軽三味線を弾きながら「六本木ヒルズ」「多目的トイレ」などと歌う“白い悪魔ぶり”がちゃんと見られた。東野はやっぱりこうでなくちゃ。この驚異的ボケなし番組「密着~」の消化不良感は、改めてきっちり自身のYouTubeチャンネルで回収してほしいものだ。

  • 田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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