生きづらさに悩む「繊細さん(HSP)」が日本人に多い根本理由 | FRIDAYデジタル

生きづらさに悩む「繊細さん(HSP)」が日本人に多い根本理由

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「HSPを診ることができる医療機関はまだ少ない」と、十勝むつみのクリニック院長で精神科医の長沼睦雄氏は言う 写真:アフロ
「HSPを診ることができる医療機関はまだ少ない」と、十勝むつみのクリニック院長で精神科医の長沼睦雄氏は言う 写真:アフロ

「繊細さん」とも呼ばれるHSP(Highly Sensitive Person)とは、感覚が敏感すぎてつらさや生きづらさを抱えている人のことだ。

彼らは感覚が非常に繊細で反応が強いため、普通の人なら気にならない音や光、においなどに強いストレス反応を生じる。また、周囲の人の感情にも同調しやすく、怒られないか嫌われないか、爆発しないかと常にビクビクしている。

前回、このHSPをテーマに「敏感すぎて疲れる『繊細さん』に向いてる仕事向かない仕事」を公開したところ、大きな反響があった。

寄せられた声は530件! 生きづらさの原因はHSPだった?

記事に対して寄せられた声の多くが「自分もHSPだと思う」という共感や悩みで、中には「すでにHSPと診断されている」「身近にHSPの人がいる」という声もあった。コメントのいくつかを紹介したい。(Yahoo!配信した記事へのコメントより抜粋)

<「発達障害」と一括りにされがちだったので、当事者としてはここまでHSPが広まって嬉しく思います。

自己診断でHSPのグレーゾーンだと思っているデザイナーですが、確かに自分に合っていると思う。仕事は大変な事も多いけど、黙々と考えたり作ったりするのは癒しです。でもHSP全般の人に言えると思うけど、仕事内容より人間関係に疲れてしまう方が多いのでは?

自分のペースを乱されると途端にダメダメになります。見守り型の上司の元だと気持ちが安定して自信を持って活躍できます。常に頭の中で考えながら動いているので、求めてもいないアドバイスなどお節介なタイプの人は苦手です。

自分は早いうちに親が気づき、技術職に就くように道を作ったので、HSPだけど
仕事で苦労したことがないタイプです。子どもの頃から、よその子と比べず個性を育ててあげて欲しい。

周りはどうしたらいいですか? 腫れ物に触るようにはしたくない。しかし、他人の心情より自分の心情に敏感な分、アドバイスの仕方が難しいです。>

「ずっと苦しんでいたが、HSPという概念に出会い少し気持ちが楽になった」という声は多い。寄せられた多くのコメントを踏まえ、少しずつ認知されるようになってきたHSPを取り巻く社会環境について、十勝むつみのクリニック・院長・精神科医の長沼睦雄氏に聞いた。

ーーHSPではないかと悩んでいる人は、医療機関を受診するべきでしょうか?

「HSPと診断されることでホッとする人は少なくないと思いますが、残念ながらHSPを理解する一部の医師や心理士を除き、医療機関への積極的な受診はお勧めできません。現状ではHSPを知らない医師や心理士が多数派です。HSPは医学的・科学的に定義されていない概念なため、医者や心理士の視点からは『曖昧すぎる』という意見があります。

現代の医療は病気や異常を診て治そうとするものであり、未病や健康な状態を扱う時間の余裕はないのです。近年HSPに加えHSC(Highly Sensitive Child、敏感な子ども)への関心も高まり専門のアドバイザーが誕生していますが、明らかに症状が出ている病気とは様相が異なるHSPを診ることができる医療機関はまだ少ないんです」(十勝むつみのクリニック院長・精神科医 長沼睦雄氏 以下同)

ーー“忖度”や“同調圧力”、“共感疲労”がある日本人には、HSPが多いような気がします。国や民族による特徴はあるのでしょうか?

「そうした傾向はあると思います。例えばまわりを海に囲まれている日本では、地続きのヨーロッパのように戦争に明け暮れたり、他民族の征服で文化を塗り替えられたりすることはあまりありませんでした。1万年以上も続いた縄文の狩猟生活の中で、自然を受け入れ互いに共感しあう文化を育んできました。

この縄文文化の次に訪れた弥生の農耕文化以降では、農作物と家畜と人間を権力者が支配する階級社会や村社会が生まれました。日本人の過剰な同調圧力は、その中で生まれたのではないかと考えています。縄文文化の中で自然への細やかな感性や共感性が育まれたのに加え、比較的短い弥生文化の中では共同作業によってまわりの人への階級意識や同族意識が育まれ、過剰な同調性が強化されてきたのです。

周囲の空気や見えないものに対する敏感さはHSPの特徴のひとつですが、日本独自の歴史や文化の中から生まれた部分は大きいと思います」

ーーコロナ禍はHSPの方たちにどのような影響を与えたでしょうか?

「HSPはとにかく神経が高ぶり疲労しやすいので、独りになる時間や空間が自身の癒しのために必要です。その意味で3密を避けるオンライン化は、過剰な刺激を避けられるいい手段になりました。対面での素早い言語化が苦手なHSPにとって、自分のペースで文字化、図表化できる仕事のやり方はとても助かったと思います。

その反面、テレワークに苦手さを感じているHSPは少なくないかもしれません。オンライン会議や進捗報告が増えることで、監視や時間制限や評価が付きまとうと感じると、人一倍ストレスを抱えることになってしまうんです」

ーーHSPではない人は、職場のHSPの人にどう接すればよいでしょうか?

「HSPにどう接すればよいかは難しい質問で、職場によって答えは多岐にわたります。どんな環境にも共通するのは、まず下記のようなHSPの苦手な面を十分に知ることだと思います。

・いつも相手に合わせて「いい子」でいようとしてしまう

・色や音や匂いなど、ちょっとした刺激が気になる


・夢や空想がリアルで現実と混同してしまう

・ひとりになる時間や空間があると助かる


・相手のペースに合わせてできない

・相手のことを考えすぎて嫌だと言えない

・集団の中で無口になってひとりになる

・感情、言葉、行動を表に出せず抑えてしまう


・監視や評価や時間制限などが苦手


・周囲の人の気分や感情に左右されてしまう

・とても神経が疲れやすい


・一度にたくさんのことができない

もしかすると「扱いづらい」「理解しづらい」と感じていた社員が、実は感性豊かなHSPだったというケースもあるかもしれません。HSPの特性を理解した上で、本人の繊細な能力を発揮できる職場環境を整えることは、多様性を活かす職場作りにつながっていくのではないでしょうか」

—-

少しずつ社会での認知度が上がってきたHSPではあるが、その生きづらさをサポートする環境整備はまだこれからのようだ。人知れず悩み、苦しんでいる当事者が多いことが明らかになってくれば、社会は少しずつ変わっていくのではないだろうか。社会の価値観が見直されている今だからこそ、これまでのようにHSPを弱くて役に立たない存在ととらえるのではなく、理解し、共存していくことができる変化を願いたい。

長沼睦雄 十勝むつみのクリニック院長。北海道大学医学部卒業。脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北大大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より道立緑ヶ丘病院精神科に勤務し、小児と成人の診療を行ったのち、十勝むつみのクリニックを開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し、脳と心と体と魂と食を統合的に診る医療を目指している。『敏感すぎる自分を好きになれる本』(小社刊)など著書多数。

  • 取材・文浜千鳥

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