パラサイトの快挙、ジブリ再上映…激動の20年映画界の出来事

2020年の映画界を振り返る・前編(1月~6月)

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第92回アカデミー賞で作品賞・監督賞を含む最多4部門を受賞した『パラサイト 半地下の家族』 (C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

苦難の1年が、ようやく終わる(苦難自体は来年も続きそうだが)。どの業界も多かれ少なかれ新型コロナウイルスの影響を受けた2020年だったが、映画業界も混乱を極めた。

『劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編』の歴史的ヒットもあり、盛り返しているように映るかもしれないが、全体的に見れば依然として厳しい状態は続く。海外に目を向けると、日本よりもはるかに深刻な状況。洋画大作が安定して供給されるには、まだ時間を要するだろう。

イレギュラーな事態が続き、まさに激動の1年だった今年の映画界(悲しい事件や痛ましい事件も多かった……)。大作の公開延期も相次いだが、それでも傑作・良作が数多く世に放たれたことを忘れてはならない。ということで今回は、2020年の映画界を前編・後編の全2回で振り返ってみよう。

第1回は、上半期(1月~6月)の出来事や公開作品を、時系列順にたどっていく。

【2020年の映画界を振り返る・後編(7月~12月)はコチラ】

『パラサイト』の歴史的快挙で幕を開けた2020年(1月~2月)

『パラサイト 半地下の家族』 (C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

まず、1月10日には、第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した『パラサイト 半地下の家族』が全国公開。前評判が異常に高く、昨年末の先行上映も大好評で、コアな映画ファン以外も「観なければならない」という空気が生まれていた。アカデミー賞の結果を受けてさらに人気に拍車がかかり、3月末の時点で国内興行収入45億円を超える大ヒットに(12月25日現在、2020年の外国語映画では1位。総合3位)。

1月11日に公開されたアニメーション映画『音楽』も、シネフィルやアニメファンの間で、熱狂を呼び起こした1本。その翌週には、岩井俊二監督の新作『ラストレター』が公開された。

洋画では、1月17日公開の『ジョジョ・ラビット』が映画ファンの絶賛を浴びた。こちらは、兵士に憧れる少年と、イマジナリーフレンド(空想上の友だち)のアドルフ・ヒトラーの関係を描いた意欲作。危ういテーマに果敢に切り込み、新機軸の反戦映画となった。1月24日に公開された『キャッツ』も、「ヤバい映画」としてSNS等で話題になり、怖いもの見たさで劇場に足を運ぶ人が続出するというイベントムービーに。

そして日本時間の2月10日には、第92回アカデミー賞授賞式が開催。前評判では、全編ワンカット風の戦争映画『1917 命をかけた伝令』(2月14日公開)が有力とみられていたが(最多部門ノミネートは『ジョーカー』)、蓋を開けてみれば『パラサイト 半地下の家族』が作品賞・監督賞を含む最多4部門を受賞。非英語作品の作品賞受賞は、史上初の快挙だった。

続く2月21日には、新進気鋭のスタジオA24の新作『ミッドサマー』が公開。こちらも大変前評判が高い作品で「カップルで観ると別れる」などといった噂がまことしやかにささやかれるなど、SNSを中心に大いにバズった印象だ。公開日には作品名がTwitterのトレンド入りを果たすなど、一大ブームとなった。

『ミッドサマー』Blu-ray発売中/配信中 (C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved. 発売・販売:TCエンタテインメント

2月28日に公開された三池崇史監督の最新作『初恋』も、映画ファンから愛されたバイオレンス・ラブアクション。恋人を殺され怒り狂う女性に扮したベッキーのキレッキレの怪演が、「見ものだ」ともてはやされた。

緊急事態宣言中、配信サービスやリモート制作が加速(3月~5月)

2月末の「全国の小中高校の休校要請」に続き、各企業のテレワーク導入が加速。北海道で緊急事態宣言が出され、3月に入ったあたりから、全国的にじわじわと新型コロナウイルスの被害が拡大し始めた。この時期は、誰もが混乱していたことだろう。新作映画においても、3月6日公開の『Fukushima 50』から3月20日公開の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』に至るまで、大打撃を受けた。

そして、4月7日に東京・埼玉・千葉など7都府県に緊急事態宣言が出され、その後全国に拡大。段階的な解除を行い、最終的には5月25日まで続いた。2ヵ月弱にわたり、外に出られない状態が続いたわけだ。全国の映画館も、4月16日から休業を余儀なくされた。

あの時期は、映画界は大混乱の渦中だった。制作者や、配給や宣伝会社をはじめ、映画業界で働く人々……個人的にも、新作映画に関わる仕事がすべてなくなり、頭を抱えた(だが一方、配信サービスの利用者が急増し、米Netflixの利用者は30%以上も増加したとか。日本でも、『梨泰院クラス』『愛の不時着』といったNetflix作品が社会現象化した)。

世界的なブームとなったNetflixの韓国ドラマ『梨泰院クラス』。 画像:Netflix

これまでに経験のない絶望感に浸された期間だったが、映画業界はどんな動きを行っていたのか。大きく分けて「基金の設立」「配信サービスの立ち上げ/配信スルーに変更」「公開延期」などが挙げられる。

『淵に立つ』の深田晃司監督、『寝ても覚めても』の濱口竜介監督が発起人となり、コロナ禍で存続の危機にさらされた全国のミニシアターを支援するための「ミニシアター・エイド基金」がスタート。4月13日にクラウドファンディングを立ち上げ、5月15日までに3億円を超す支援を集めた。

4月25日には、全国の映画館・配給会社が共同で立ち上げた配信サービス「仮設の映画館」が始動。5月1日には、「GYAO!ストア」を運営する株式会社GYAOとヤフー株式会社ほか、5社が合同で始めた「ステイホーム 今だけおうち映画館」が、『Fukushima 50』などの新作映画をいち早く配信。オンライン上での映画配信が、一気に隆盛した。

また、コロナ禍に入り、再び注目を浴びたのがドライブインシアター。シアタープロデュースチーム「Do it Theater」による「ドライブインシアターの実現を目指す『ドライブインシアター2020(Drive in Theater 2020)』プロジェクト」が4月10日にクランドファンディングを開始し、注目された。

それぞれの車の中で完結するドライブインシアターは、図らずも密閉、密集、密接の「3密」を回避できるシステムだったわけだ。1950年代から60年代にかけて、アメリカでブームとなった上映システムが、よもやこのタイミングで再び頭角を現すとは、誰もが予想していなかっただろう。

劇場公開からNetflix配信へと変更になったアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』 © 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

公開延期作品が相次ぐなか、アニメーション映画『泣きたい私は猫をかぶる』は、劇場公開からNetflix配信への変更を発表(4月30日のこと。6月18日から配信)。行定勲監督の『劇場』は、7月17日からAmazon Prime Videoと劇場公開の2軸で展開し、話題を集めた。

また、上田慎一郎監督が新作『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeで公開するなど、緊急事態宣言中にリモート映画の製作も盛んに。多くの芸能人が、自宅から動画配信を行うなど、それぞれが「今、できること」を考え、実践した期間でもあった。

条件付きの上映環境下で、ジブリのリバイバル上映がヒット(6月)

スタジオジブリの映画『もののけ姫』『風の谷のナウシカ』『千と千尋の神隠し』『ゲド戦記』の4作品が、コロナ禍の中リバイバル上映された

緊急事態宣言の部分的な解除に合わせ、5月半ばからは映画館が少しずつ営業再開。6月1日からは、すべての都道府県で休業要請が緩和された。トータルで考えれば、約1ヵ月半もの間、フル稼働できない状況が続いていたことになる。

しかし、営業再開とはいっても、あくまで条件付き。大きいものは、感染防止のため「劇場の座席は最大で50%しか使えない(ひと席ずつ間隔を空ける)」というルールだ。さらに、レイトショーは行えなかったり、入場前に検温等が入ったり、ソーシャルディスタンスを保たねばならなくなるため、1日当たりの上映回数は激減。座席のフル稼働が実現したのは、9月19日。3ヵ月超も、この状態が続いた。

洋画メジャースタジオの作品で口火を切ったのは、公開延期を余儀なくされていた『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(6月12日公開)。アカデミー賞にも絡む良作で、シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメといった人気実力派が勢ぞろいしたこともあり、洋画ファンを歓喜させた。

『ランボー ラスト・ブラッド』 (C)2019 RAMBO V PRODUCTIONS, INC.

6月26日に公開された『ランボー ラスト・ブラッド』は、「超・応援上映」と題し、斬新な企画を実行。従来のように声を出して応援ができないため、観客がスマートフォンやPCから「応援コメント」を入力すると、劇場のスクリーンに流れるという形式で応援上映を実施した。

新作以外にも、ジブリ作品のリバイバル上映がヒット。『千と千尋の神隠し』においては、6月26日から8月にかけての再上映で8.8億円も売り上げ、改めて強さを見せつけた(のちにこの数字が、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の歴代最高興行収入達成を遅らせることになる)。

『千と千尋の神隠し』

上半期の出来事を振り返るだけで、そのイレギュラーぶりに驚かされる。しかし、輪をかけて衝撃的なのは、映画業界のアクションの迅速さだ。非常事態であっても、表現を止めない。彼らの行動力には、頭が下がる思いだ。

後編では、7月から12月の下半期の映画界を振り返っていく。

【2020年の映画界を振り返る・後編(7月~12月)はコチラ】

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション勤務を経て映画ライターへ。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント等幅広く手がける。

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